夏目漱石『夢十夜』より「第十夜」テキスト

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今回は「背筋がぞくっとする話」シリーズとして、夏目漱石の連作短編『夢十夜』から、第十夜をお送りします。

【作品紹介】
「こんな夢を見た」のフレーズで有名な、『夢十夜』から、不思議な「第十夜」をお届けします。暇人で女好きの正太郎は、果物屋の店先に座っては女を、女が通らない日は果物を眺めていました。そしてある日、果物屋に立ち寄った美しい女性にフラリとついていき、7日間も行方不明になってしまいます。ようやっと帰って来たと思ったら熱を出して寝込む正太郎が大草原で見た光景とは!? という、夢を見たお話です。

(さらに…)

きのこ愛が止まらない

夏の暑さも引き、しかし、まだそんなに秋めいても来ていない、中途半端な気候のある日。都内某所。キャストの吉田素子さんと、会いました。

色々話し終わった後、吉田さんから伝えられたこととは……

「そうえいばさ、夢野久作の『きのこ会議』っていうのがあって。ちょっと読んでみて」

と、いうことでした。

何せ吉田さんは、怪談シリーズを選んでくれたのですが。その時に配信した『縊死体』の作者、夢野久作さんの作品を読んでいて、これを見つけたそうです。

「こんなのあるんだ! 『きのこ会議』……なんて楽しそうなタイトルなんだ!」

と、吉田さんは、思ったそうです。そして読んでみると、これまた、はまってしまったそうです。

そこで、スマートフォンの画面で、一緒に青空文庫を読んでみたのですが。なんとたくさんのキノコが登場するのでしょうか。初めて見るキノコの名前が、たくさん並んでいます。

「いいね、いいね、これ劇団のので読んでみたいね」

と言うと、すかさず、

「わたしはね、このキノコたちの役を、全部自分でやるつもり」

と、吉田さん。

あ、もうそこまで決まっていたんですね、吉田さんの中では。 さっきまで、思い出した風を装って、「そういえば、こんなのもあった気がする。もし良かったらどうかな」みたいなテンションだったのに。

「うん。わたし、全部のキノコの役を、声変えて、演じ分けるから。全部を1人でやるよ」

ま、まじか。 この『きのこ会議』、前半はきのこたちが会議をしているんですが、後半に、人間の家族が登場するんです。4人家族。

「あ、そうそう、その家族の役もね、それも全員わたしがやるから。お父さんもお母さんも。娘も息子も。キノコたちとは、また違う感じで。トーン変える。

そ、そうか。 なんだろう、この堅い決心は。わたしは、未だかつて、こんなに意志の堅い吉田さんを、見たことがあるだろうか、いや、ない。

「でね、ナレーション部分はやってほしいんだけどさ。『はたらく細胞』っていうアニメがあるんだけど知ってる? あれのナレーションをコピーしてほしい」

わかりました。 演出は、見たことないアニメのナレーションをコピーすることになりました。

「でさ、いつも出してるテキストの、解説の部分あるじゃん? それには、こんな感じで……」

と、紙の隅に、なにやら、キノコの絵を描く吉田さん。

ん? じばにゃん?

「ポケモン図鑑みたいな感じで。キノコをキャラクター別に分けてね、特徴とか、分布とか、そういうのを書いてくわけ。毒の有無とか。きのこ図鑑的な?」

え、こんなにいっぱい出て来るきのこ、全部について調べるの……

「うん、調べる。わたしが調べるよ。あとさ、キノコ1つ1つに対して、まぁ、吉田が、このキノコについて思うひとこと、みたいな? キノコへのコメントをさ、書くよ」

すごい、なんだろう、このやる気は!?  キノコへのコメントについては、正直「書くよ」って威張るほどでもない投げ遣りな内容だが。しかも、2枚目にしてさっそく「No Image」なのが不安すぎるのだが。 しかし、今日の吉田さんは何か違うぞ。

まるで見えない力に突き動かされているようだ。この人は、一体何故そんなにきのこに惹かれているんだ!? 

たしかに、『きのこ会議』は面白いとは思うけど、そこまで熱心になるようなことなのか?

と、わたしはこの時点では内心、吉田さんのやる気に対して押され気味でおりました。

所変わって。

キノコの話が深まりそうだったので、一緒にお夕飯をいただくことに。

しかし、ここでまた吉田さんのきのこ愛が爆発。

「あれ? 季節限定メニューにするよね? まさか裏切らないよね?」

え? た、たしかに、見るとそこには2種類のきのこ料理が。ドヤ顔で期間限定メニューを奨励してくる吉田さん。

「ほら、やっぱ、キノコなんだよ」

何が?

「今、キノコがキテるんだよ!」

まぁ、旬の食べ物だからね。そりゃ巡ってくるよね。

「いや、いいんだよ、無理しなくて。他の好きな物、食べなよ」

食べづらいよ。普通のメニュー食べづらいよ。

もはや選択肢は2択しかないようだ……! 我々は、2つのキノコ料理を注文。

「で、どうする? 夕飯食べる流れになったけど、もう話すこと特にないね……結構全部決めたし……」

そうなんだよなぁ……。

「よし、わかった、フリートークで何を話すか、トピック決めておこう」

と、再びノートを取り出し、キノコのイラストを落書きしながら、思考を深める、吉田さん。

「キノコトーーク! え? どうする? 2人で何話そうね。キノコについて……キノコとの個人的な思い出とか。ある?」

思い出かぁ……(遠い目)

「ないか。わたしも、別にないよ」

わたしは思った。では、この人は何故そんなにキノコに思い入れを持っているんだろうか。思い出1つもないくせに。

「じゃあ……キノコ占いする? そんなあなたは、マイタケ! みたいな。動物占いみたいなやつだよ。クジ引いて、読み上げていく……あ! あみだくじ、どう? 辿っていくと、キノコのどれかにたどり着くんだよ」

それを、音声でやるのですか?

「とりあえずキノコ占いは決定で。っていうか、もう話すことなくない? あ、あと、キノコの豆知識とか。こんなレシピがおいしいとかね。じゃ、わたしキノココーヒーについて話すわ」

キノココーヒーってなんだろう?

「キノココーヒーね。あるんだよ、そういうのが。あ! そうだ! ……あ、いやぁ、でもこれはなぁ〜」

お、なんだ? どんなアイディアでも、キノコ占いよりはマシなのでは。

「や、キノコと言えばさ、きのこの山と、たけのこの里、どっちが好きか、っていう論争、あるじゃん?」

ん? それは……

それはお菓子の話であって、きのこの山は、キノコではない! もはやキノコの話ではないぞ!

「どっち派?」

大変言いづらいが、わたしは幼い頃より、生粋のたけのこ派なのでした……。 いや、どちらも好きなんですよ、出されたらどちらも食べるよ。2つ並んでたって、きのこを買うこともある。 でも、世界の終わりにどちらかしか残せないとか、無人島にどっちかしか持って行けないって言われたら、たけのこ派なんですよね。

「偶然にも今年さ、公式に、全国できのこVSたけのこの戦いがあって。たけのこ派が僅差で勝ったんだよね。日本人はもっとキノコに愛を持つべきだよ。それを訴えていこう」

吉田さん、気付け。

あれは、お菓子だ。

小麦とチョコでできたお菓子なんだ。1ナノグラムのキノコエキスも入っていないんだ。

「でもさ〜ぁ、あれ、キノコじゃないんだよな。お菓子なんだよな」

気付いたか。

「それはね、思ってた。でも他に話すことないから話そう。あとさ、うちらはさ、もうちょっとちゃんと、キノコについて学ぶべきだよね。とりあえず、まずは Wikipedia 読もう。だってさ、知らないこといっぱいあるよ。例えば、キノコって漢字あるじゃん? なんでたけかんむりなのかな、とか、気にならない? (検索)あ、くさかんむりだったわ! あっはっは! でもさ、なんで○○タケって言うのかな、とか、気にならない?」

たしかに。くさかんむりなのに。「しいきのこ」とか「まいきのこ」じゃなくて、「しいたけ」「まいたけ」っていうのは、何故なんだろう?

「ねぇ! 知ってた!? よく「ベニテングダケ」って言うじゃん。あれ、間違ってるんだって。竹は「青竹(あおだけ)」とか「真竹(まだけ)」って言うけど、キノコは濁っちゃいけないらしいよ!」

え、そうなの!?

そうそう、そういのを待っていたんだ。そういうのを話そう。 なんか、キノコに興味が湧いてきました。もっと調べようと思えてきました。 こうしてまた1人、キノコの魅力に取り憑かれた人間が増えていくのでした。

ところで、季節限定のキノコメニューでしたが、大変おいしくいただきました。

キノコいっぱい入ってるし。やっぱり、キノコってすごい美味しいですね。独特の強い風味と、噛みごたえ、でも柔らかくて。不思議な食べ物です。

お店のお兄さんも、キノコの風味に負けない独特さでした。吉田さんのお膳は逆さまに置かれました。

そして、わたしのデザートは、食べている途中で持って行かれました。「ごゆっくりどうぞ!」と言って、下げられてしまいました。
世の中は、まだ解明されていない不思議なことで、満ちあふれています。

大人ならリドルをたしなめ!

劇団のの「夏の怪談スペシャル」第1作目、その名も、『縊死体』=「首吊り死体」です。ぶるぶる。
“夏の” 怪談スペシャルって言って始めましたが、半年計画になっております。
今までもキャストが「ちょっとぉ、この人間関係、もはやホラーじゃ〜ん」って言うような作品はあったのですが。『竹の木戸』とか『秋』とか。ついに来ました、本物のホラーです!

 

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皆さんこんにちは。いつも複数名が出演する作品で名演技を見せてくれている、そしてまた、後半のフリートークに多数出演している我等が梅田拓さん、初の単独作品です! パチパチパチ。

 

ところで今回『縊死体』のテキストは、解説のページをお休みさせていただきました。「本文」と「語彙」のみになります。それにはマリアナ海溝より深い理由がありまして。

 

なんだか……調べられることが、何も無かった!!

 

って、言うとサボってるみたいなんですけど、スズキさんと「何を書こうかね」って、ちゃんと何度も相談したんですよ。そして「何も書けないね……」という無力感と悟りが溢れる結論に辿り着きました。

 

『蜘蛛の糸』にはお釈迦様が出て来るので、「輪廻」とか「地獄」について書きました。
『遠くで鳴る雷』にはキュウリや雷が出て来るので、「雷の仕組み」や「キュウリのレシピ」とか書きました。

 

で……。

 

『縊死体』には、まんま縊死体が出て来るわけなんですけど。「縊死」って首吊り死のことですからね……どうしましょうね……。
詳しく調べて事細かに書くのとか、イヤだし。なんか、「世界のいろんな死に方」とか図解するの、もっとイヤだし。って、なりました。

 

しかし、作品選びや編集の過程で出た、“A4見開きにはならなかったけど、ちょっとした世間話”を、したいと思います!

 

『縊死体』お聞きになっていかがでしたでしょうか?
まだというお方、ぜひぜひ聞いてください。
吉田素子さんは、暗い部屋で1人で聞いてて、とても怖くなって、途中でやめたらしいですよ。吉田さん、ぜひぜひ最後まで聞いてください。
内容とか効果音じゃなくて、とにかく梅田くんの声で怖くなったらしいです。わたしもスズキさんも、編集・確認作業してて怖くなりました。内容じゃなくて梅田くんの声で。

 

 

怖い話だからといって暗い感じで読むんじゃなくて、ちょっと前のめりにテンション高くて明るい雰囲気が、逆に怖いんですよ。笑顔で読んでるのかな? っていう声色なのです。

 

この男、一般的にはサイコパス殺人鬼、快楽殺人のお話だと考えられています。
あ、ちがうちがう、梅田くんじゃなくて、主人公の男の話です!!
恋仲になった女性があまりに美しいから絞め殺してしまう。それで、ホッとするんですって。
えー……。
「万一こうでもしなければ、俺はキ●ガイになったかも知れないぞ」とかぬかしてるんですけど、その発想が既に貴方……! 「ぞ」じゃないですよホント。
かわいそうな女の子。本人も、「可哀想な下町娘」とかぬかしてるんですけど、じゃあ殺すなよ……! と、多くの人が憤ることでしょう。(もし、彼の気持ちが解っちゃった人がいたら、先生は怒らないので、放課後にこっそり教えてください)

 

 

このお話が書かれたのは、大正時代です。
皆さんは、エド・ゲインやバンディなどの名前をお聞きになったことはありますか? いわゆる「全米を震撼させた」系です。仰天ニュースとかアンビリーバボーで再現ドラマになるような、有名なサイコパス殺人鬼/シリアルキラーの事件。
それよりも、何十年か前に書かれたものとなっております。なんとも時代の先取りな夢野さんですね。
もしかして、自伝……? ちょっと心配になってきました。

 

主人公は、新聞を買って公園のベンチに座り、自分が殺した事件が載っていないかと、目を通すのが日課になってます。
事件が記事になってないって判ると、ニヤッとする。
これはどういう心境なんでしょう? まだ事件が世間に発覚してないっていうのが嬉しいんでしょうか? 「ハハッ、バカな警察だ。つかまえられるもんならつかまえてみな! キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン!」っていう満足感なのかなぁ? 殺人を犯してから、もう1ヶ月の間、気になっちゃってるんですね。
ご遺体も1ヶ月間放置……Oh……

 

 

ところで。
このお話の最初、「どこかの公園のベンチである」で始まるんです。そう、解らないんですよね、具体的な場所が。
そして、読み進めて行くと、踏切の名前が登場。
今回の朗読音源では、音をボカしてあるの、お気付きになりましたか? スズキさんが、機械の音でキュルキュルッと加工してるんですよ。ホラーっぽくて、すごい怖い。かっこいい編集ですね。あの部分、本文では「××踏切」って書かれてるんです。
名前がハッキリ出て来なくて、場所が判らない。

 

 

だからもう、主人公が場所をごまかして体験談を語っているのか、見た夢の話をしてる設定なのか、はたまた妄想のつもりで言っているのか、よく解らないのです。

 

そんなこと言ったら、フィクションの小説だし、本当のことだったら夢野久作さんが逮捕されちゃうし、全部ウソに決まっているのですが。
例えば、今までの独歩や芥川の作品だと、地名、季節感、時間の移り変わり、情景描写がすごいリアルで、そのリアリティーゆえに感情移入させる手法を取る。そういう “作り込みが凄い作品” に慣れてしまっているので、ぼかしぼかしされると、釈然としないのです。シュールレアリスムの絵を眺めてるようなもどかしさです。

 

そして、その釈然としない重要な一因は、「リドルストーリー」ゆえだそうですね。

 

あ、そっかぁ! リドルストーリーだからか!

 

リドルストーリーって……何ですか?

 

リドル・ストーリー (riddle story) とは、物語の形式の1つ。物語中に示された謎に明確な答えを与えないまま終了することを主題としたストーリーである。リドル (riddle) とは「なぞかけ」を意味する。
(Wikipedia様様より)

 

例えば、この作品で言うと。
主人公はある時ついに、新聞に「怪死体発見」の記事を見付けます。でも遺体は「会社員らしい若い背広男」とある。(この時点で主人公がどう思ったかは書いてありません)
とりあえず、いてもたってもいられなくなって現場に見に行くと……!? やはりの! 男が見たのは自分の遺体。「これ自分じゃん! え、警察の罠?」
など思ってびびっていると彼女の笑い声が! 「あたしの思いがおわかりになって?」
わぁぁぁ!!! こわいよぉぉぉ!!!

 

ハイ!
気付きました?

 

最初に読んだ時、わたしはもちろん、何も気付きませんでした。流すことや理解しないことについては天才的なので。
この結末をパッと読んだり聞いたりすると「あぁ〜、そういうオチか〜、殺されたの主人公か〜」と思って通り過ぎてしまうんですが……言われてみたらおかしいぞ!?
では、一緒に検証、行ってみましょう! それ!

 

まず、首くくって死んだのが男なんだとしたら、その男の死体を見ている自分って、一体誰なの……?
1ヶ月の間、新聞記事を探していたと言ってるけど、本当は男はもう死んでたの!?
死んでたけど本人は気付かなくて、幽霊になって公園にいたってこと?
もし1ヶ月前に殺されたのが男なんだとしたら、「娘」とやらは本当は死んでないはず!
死んでないんだったら、聞こえてくる女の声が言ってる「あたしの思い」って何のこと?
あ、もしかして、たった今、過去が変わってパラレルワールドになったってこと!?
つまり、1ヶ月前に死んだ女の霊に、恨みで呪い殺されたってこと?
じゃあ、やっぱり女も死んでるってことになる。そうすると、女の遺体はどこにいったの!?

 

わぁん。こんなにいっぱい矛盾点がある。書いてる自分が1番混乱しております。
こんな風に、数々の謎の連鎖が残ってしまう、というよりもどんどん生まれて行ってしまう、自己矛盾を孕んでいる、それが、恐るべし、リドルストーリーだ!
自主的に「なぞかけ」しておいて、答え言わないで終わるの、ちょっとひどくないですか? モヤモヤさせられたこっちサイドからしてみたら、軽い当て逃げ被害ですから。

 

実は、世界にはこういうモヤモヤ話がたくさんあるらしく。わざわざ創るんですよ、そういう、理論上答えが出ないやつを。
なにせ、リドルストーリーには「知的な読後感」があるそうです。まぁ、たしかに頭使うしね……。モヤモヤしたい人とか、哲学したい人とかには、結構ウケがいいみたいです。頭がいい人にも、かなり人気っぽいです。(っていう情報の出どころが『NAV●Rまとめ』なのが、早速賢くなさそうなんですけど)
大人の味なんですね、きっと! 松前漬けとか。カニ味噌とか。スコッチとか! トリックアートとか現代音楽が解る人は、いけるんじゃないですか?(謎の偏見)

 

わたし、いくつか読んだけど、無理でした、リドル! モヤモヤする。
まだ早かったみたいです。ずっとオムライスとハンバーグでいいです。
やっぱ、大人の階段リドルでのぼる、その先に待っているのは、謎の答えじゃなくて、無駄に謎かけされても寛容でいられる心構えなのでしょう。