独歩のお隣さん

 

今日は、いちょうの葉が敷き詰められて金色になった神社が見える、和室です。
やっぱり、暖房が効きません。

この日は、色々な単語のイントネーションを調べました。
「意気地のない」「被布」「土間に」「炭籠」「こそこそ泥棒」
「腹掛け」「一円」「二円」「五円」「干し物」「親方」などなど……

出身地や世代によって、当然だと思っていたアクセントが違ったりします。
勿論、アクセント辞典も見るのですが。
単語の発音をSiriに発音させるのは、良くありませんでした。
なんか……機械だから、やっぱり違いますね!
そこで、海外から日本に来ている留学生向けのアプリを使用しました。
男性の声と女性の声など、何パターンか発音してくれます。
でも、古い言葉は出て来ませんでした。
炭籠なんて、海外から来た留学生は使わないでしょう。
わたしたちだって、使いません。

 

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ここからは、稽古でやった場面と、それについてキャストが話した内容をお届けします。
作品本文は、青空文庫からコピーしたものに、読み易いよう改行を加えています。
キャストが話した内容は、録音した物を文字に起こし更に編集しています。
なお、議論は明確な答えを出すものではなく、情報は必ずしも正確ではありません。
演出を付けるために自由な発想に基づいて発言しております。

 

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国木田独歩より 竹の木戸

 

先ずこのがやがやが一頻止むとお徳は急に何か思い出したように起て勝手口を出たが暫時して返って来て、妙に真面目な顔をして眼を円くして、
「まア驚いた!」
と低い声で言って、人々の顔をきょろきょろ見廻わした。人々も何事が起ったかとお徳の顔を見る。
「まア驚いた!」
と今一度言って、
「お清様は今日屋外の炭をお出しになりや仕ませんね?」
と訊いた。
「否、私は炭籠の炭ほか使ないよ」
「そうら解った、私は去日からどうも炭の無くなりかたが変だ、如何炭屋が巧計をして底ばかし厚くするからってこうも急に無くなる筈がないと思っていたので御座いますよ。それで私は想当ってる事があるから昨日お源さんの留守に障子の破目から内をちょいと覗いて見たので御座いますよ。そうするとどうでしょう」
と、一段声を低めて
「あの破火鉢に佐倉が二片ちゃんと埋って灰が被けて有るじゃア御座いませんか。それを見て私は最早必定そうだと決定て御隠居様に先ず申上げてみようかと思いましたが、一つ係蹄をかけて此方で験めした上と考がえましたから今日行って試たので御座いますよ」
とお徳はにやり笑った。
「どんな係蹄をかけたの?」
とお清が心配そうに訊いた。
「今日出る前に上に並んだ炭に一々符号を附けて置いたので御座います。それがどうでしょう、今見ると符号を附けた佐倉が四個そっくり無くなっているので御座います。そして土竈は大きなのを二個上に出して符号を附けて置いたらそれも無いのです」

「まアどうしたと云うのだろう」
お清は呆れて了った。老母と細君は顔見合して黙っている。真蔵は偖は愈々と思ったが今日見た事を打明けるだけは矢張見合わした。つまり真蔵にはそうまでするに忍びなかったのである。
「で御座いますから炭泥棒は何人だか最早解ってます。どう致しましょう」
とお徳は人々がこの大事件を喫驚してごうごうと論評を初めてくれるだろうと予期していたのが、お清が声を出してくれた外、旦那を初め後の人は黙っているので少し張合が抜けた調子でこう問うた。暫時く誰も黙っていたが
「どうするッて、どうするの?」
とお清が問い返した、お徳は少々焦急たくなり、
「炭をですよ。炭をあのままにして置けばこれから幾干でも取られます」
「台所の縁の下はどうだ」
と真蔵は放擲って置いてもお源が今後容易に盗み得ぬことを知っているけれど、その理由を打明けないと決心てるから、仕様事なしにこう言った。
「充満で御座います」
とお徳は一言で拒絶した。
「そうか」
真蔵は黙って了う。
「それじゃこうしたらどうだろう。お徳の部屋の戸棚の下を明けて当分ともかく彼処へ炭を入れることにしたら。そしてお徳の所有品は中の部屋の戸棚を整理けて入れたら」
と細君が一案を出した。
「それじゃアそう致しましょう」
とお徳は直ぐ賛成した。
「お徳には少し気の毒だけれど」
と細君は附加した。
「否、私は『中の部屋』のお戸棚へ衣類を入れさして頂ければ尚お結構で御座ます」

「それじゃ先あそう決定るとして、全体物置を早く作れというのに真蔵がぐずぐずしているからこういうことになるのです。物置さえあれば何のこともないのに」
と老母が漸と口を利たと思ったら物置の愚痴。真蔵は頭を掻いて笑った。
「否、こういうことになったのも、竹の木戸のお蔭で御座いますよ、ですから私は彼処を開けさすのは泥棒の入口を作えるようなものだと申したので御座います。今となれゃ泥棒が泥棒の出入口を作えたようなものだ」
とお徳が思わず地声の高い調子で言ったので老母は急に
「静に、静に、そんな大きな声をして聴れたらどうします。私も彼処を開けさすのは厭じゃッたが開けて了った今急にどうもならん。今急に彼処を塞げば角が立て面白くない。植木屋さんも何時まであんな物置小屋みたような所にも居られんで移転なりどうなりするだろう。そしたら彼所を塞ぐことにして今は唯だ何にも言わんで知らん顔を仕てる、お徳も決してお源さんに炭の話など仕ちゃなりませんぞ。現に盗んだところを見たのではなし又高が少しばかしの炭を盗られたからってそれを荒立てて彼人者だちに怨恨れたら猶お損になりますぞ。真実に」
と老母は老母だけの心配を諄々と説た。
「真実にそうよ。お徳はどうかすると譏謔を言い兼ないがお源さんにそんなことでもすると大変よ、反対に物言を附けられてどんな目に遇うかも知れんよ、私はあの亭主の磯が気味が悪くって成らんのよ。変妙来な男ねえ。あんな奴に限って向う不見に人に喰ってかかるよ」
とお清も老母と同じ心配。老母も磯吉のことは口には出さなかったが心には無論それが有たのである。
「何にあの男だって唯の男サ」
と真蔵は起上がりながら
「然ども先ア関係わんが可い」

 

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—すごく犬が鳴いていますが。

◆スズキ:ねぇ、録音に犬の声がめっちゃ入ってるけど。
◆のあ:大丈夫。あれは明治の犬だ。
◆Caori:明治時代にも犬はいたさ。大庭家の庭でも犬飼ってたかもよ?
◆のあ:いや、そしたらもっと早くお源はお縄になってたさ。
◆スズキ:救急車の音も来たぞ。明治時代なのに。
◆のあ:あれは……明治の救急車だ。
◆Caori:ねぇ、この録音機、痴漢撃退する機械にしか見えないんだけど。
◆スズキ:スタンガンね(笑)

 

—ゆっくり読みましょう。

◆のあ:自分が読んでる時は、早い方が気持ちいいんだけど。
◆スズキ:やっぱりもっとゆっくりじゃないと聞き取れないね。
◆のあ:真ん中へんのスピードで丁度いい感じのペース無いかな?
◆中馬:俺は結構、みんなの声量の違いが気になりますね。
◆スズキ:そうね。畑の違うところから来てるし。統一しようとか練習してないからね。
◆のあ:今度やりましょう。あと、速さも一度統一しないとね。毎回、今日は誰と誰がいる、今日はこの人がいない、って感じで組み合わせで稽古してたから。次の稽古で統一しよう。

 

—「まず」は「最初に」か「とりあえず」か?

◆スズキ:この「まず」がよく解らないんだよな。「まず、このガヤガヤがひとしきり済むと」っていう。
◆のあ:あぁ、現代だと、「まず」って書いたら、「次に」「最後に」って続いて来るものがありそうだよね。
◆Caori:でも、やっぱりそれと一緒なんじゃないかな。この場面の中の第一段階なんじゃない? まずはガヤガヤがあって、ハイ、お徳のシーン、っていう。
◆和華:うん、何かしら、第二幕開幕の前なんじゃないですかね。
◆スズキ:辞書だと、何がともあれ、当面優先させること、みたいな意味だ。あと、お徳も、炭が無くなった時、「ひとまず御隠居様に申し上げてみようと思った」って、この「ひとまず」も同じかな、って。
◆和華:最初に、真っ先に、いち早くってことじゃないですか?
◆スズキ:「ひと」って「1」かな。とりあえず、とどっちだろう。
◆のあ:「先に」って言い換えるとどう?
◆Caori:ここは文脈で「とりあえず」だと思ってた。
◆スズキ:いや、優先してじゃない?
◆のあ:結果だけ見ると、どちらにしろ、順番は最初なんだよね(笑)

 

—お清さんは磯吉を本当に気味悪がっています。

◆Caori:あ、わたし今お徳を代読したけど、もっと、もちこ(吉田)みたいな口調でやった方がいい?(笑)
◆スズキ:みんなもちこ?
◆のあ:「みんなもちこ」っていう絵本ありそう(笑)
◆Caori:じゃあみんなもちこで行くわ、わたし。
◆のあ:いつもより強めの口調で磯吉の悪口言ってたね。
◆スズキ:ちょっと、お清さんを強くしてみたんだけど。どうだった?
◆Caori:お徳の上司、強くなったな、って思ったよ。この後殺されるんじゃないかみたいな感じが無くなった。
◆スズキ:え。
◆のあ:今まで、コナンとか金田一だったら絶対に最初に殺されるキャラクターみたいだったじゃん。
◆スズキ:事件起きてすぐ1番怖がってた人って、絶対に次のスケープゴートになって遺体で発見されるよね。
◆のあ:今まで磯吉のこと話す時、見知らぬ妖怪の噂話するみたいだったんもんね。
◆Caori:今の方がいいよ。多分、怯えるよりは、hateに近いんじゃないかな。なんか、パリピに対する毛嫌いみたいな。相容れないから近付きたくないっていう気持。

 

—独歩の家の近所にも貧しい夫婦が住んでいたそうです。

◆和華:実際、国木田独歩が渋谷に住んでた時、隣の小屋に、そんなに裕福ではない夫婦が住んでいたっていうのは、本当らしいんですよ。
◆皆:え、そうなんだ!
◆スズキ:へぇ……その人たちが読んだらどう思うんだろうね。
◆Caori:自分たちのことだって気付かないんじゃない?(笑)
◆スズキ:独歩は、その人たちとは相容れないと感じてたのかなぁ。
◆和華:どうなんでしょうね。独歩は、武蔵野に引っ越してからもかなり馴染んでいて、町内会みたいな所でも仲良くなって、お墓をこっちに作るかも考えていたぐらいだそうです。育った山口県に環境が似てたらしくて。基本的には山口が1番好きみたいなんですけど。

 

江戸の残り香と近代化の波

 

所変わって、居酒屋で稽古です。
スズキヨシコ、和華ちゃんと、稽古です。

和華ちゃんは文学の研究中なので、かなり内容が濃いものになりました。
たまに、我々素人ではついて行けなくなりました。

 

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ここからは、稽古でやった場面と、それについてキャストが話した内容をお届けします。
キャストが話した内容は、文字に起こし編集しています。
なお、議論は明確な答えを出すものではなく、情報は必ずしも正確ではありません。
演出を付けるために自由な発想に基づいて発言しております。

 

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—磯吉アンチ派ですか? 容認派ですか?

◆のあ:稽古場では、結構、磯吉を嫌いって言う人が多いんだけど。
◆スズキ:そうだね。わりとうちのメンツは嫌い派が多いね。
◆のあ:勿論、自分の元彼と重ねて、お源に感情移入とか同情する人もいるし。基本的に無責任な人を是とはしなかったり。
◆和華:そうでしょうね。
◆スズキ:磯吉は、普通に考えてやってること酷いからね。
◆のあ:そうそう。例えば、梅ちゃんが真蔵の役やりたいって言ったのは、まぁ栗田ばねの方が磯吉に似合うというのもあるけれど、「僕は、何1つ磯吉に共感できるところが無い。むしろ自分はお源側になっちゃいそう」って言ってた。でも、一定数、磯吉に浪漫を持つ人がいるんだよね。ワークショップの時は嫌い派ばかりでもなかった。女性で「磯吉はかっこいいと思う。職人なのよ」「お源は悪い男に惚れちゃったのよ」っていう人も結構いるし。論文でも、あれがあの時代の良き職人であるっていう論もある。
◆スズキ:そうね。いたね、擁護派。
◆のあ:お源が磯吉を評価するシーンだけど。これを、お源の一方的な妄想だと。押しかけ女房だと思ってる人もいる。「磯吉はただ、黙々と食べて、寝て、本能のままに生きてるだけ。仕事だって、自分が食べて行ける分はしている。そこにお源が来たから生活が苦しくなる。仕事についても、親方とのやりとりなど、自分なりの信念を持ってバリバリ働いた様子が書かれている。お源が勝手に惚れて、理想を重ねて、期待したり裏切られたりしている」っていうことを言っている。論文は。あとまぁ、次の女も、磯吉が持ち掛けた話じゃなくて、また勝手に寄りついてくるほど、モテちゃんだろうと。
◆和華:それ! わたし、そっち派です。
◆スズキ:いましたよ、ここに! お源にダウトな人。
◆のあ:いましたね。和華ちゃんそっち派ですか。影のある男に惹かれるタイプとか?

 

—お源の孤立と思考の飛躍。

◆和華:いや、うん、わたしは磯吉ベースじゃなくて、お源ベースで、そう考えます。お源という、繭の中に包まれた人。お源は、狭い狭い繭を自分で作って、その中で自分が考えたことがその世界の中のルールの全てにしてしまう。主婦として家で1人で過ごして、周囲の人間関係も切ってしまう。自分の安全な繭の中では、磯吉が重要な登場人物になる。お源が見ているのは、磯吉の本質ではなく、お源フィルターが掛かった、虚像としての磯吉ですよ。
◆スズキ:それはある。交流無かったら思考偏向的になるよね。
◆のあ:あんな男に惚れちゃって、ってみんなからも思われてたみたいね。

 

—じゃあ、磯吉ってイケメンだったと思う?

◆のあ:磯吉ってイケメンだったと思います? 大体、浪漫を持つ派、擁護派は…雑に括ると「ダメンズウォーカー予備軍」は、読んですぐ自動的に、磯吉がイケメンとして脳内再生されるんだと思うのね。映画に出て来るDV男とかも大体イケメン俳優さんが演じるじゃないですか。「女がこれに惚れたのはまぁ仕方が無い」と思わせる装置として。理想の見た目の人を捕まえて、中身はまぁ後から教育してそのうち変わって行くだろう、というよくある落とし穴。
◆和華:あぁ、どうだろう。もう1つ考えられますよね。磯吉は、本当にすっごい気持ち悪い男で。誰から見ても、別にかっこよくも無くてショボい、めっちゃ気味悪いし、仕事もできない。でもお源だけが、磯吉をかっこいいと思い込んで、「自分はその女だ」と誇っている。お源の繭ワールドでは、周りは磯吉に畏怖を感じて避けてるんだと思ってるけど、繭の外=現実は、まじでドン引きされてるだけ。
◆スズキ:新しい! 「磯吉、マジできもいだけ」説か。
◆のあ:あり得るよね。磯吉の容姿についてどこにも書かれてないし。その解釈を否定する要素は本文には見当たらないね。確定する要素も無いけど。
◆スズキ:この説は初めて出たんじゃないかな、ワークショップも含めて、初めて。

 

—ちなみに、磯吉を擁護する人はこんなポイントを見てます!

◆のあ:でも磯吉は優しい所もある、っていう人が、凄い所に目を付けるんだよね。
◆スズキ:そう、びっくりするよね。
◆のあ:まず、頭が痛くて寝てるお源に、「どう痛むんだ、おい」と何回か声を掛けてる。ちゃんと心配してるんだ、と。あと、奥さんが寝てて家事やってても、責めることなく自分でちゃんと準備してると。
◆和華:そこっすか! 気にも留めてないでしょ。
◆のあ:うん。でも、心配してもらってるのに返事してないのはお源だよ、と。あと、2人で布団共有してる時、磯吉の背中が出ている。お源に掛けてあげてるんだ、って言うんです。
◆和華:えー! そこ!?
◆スズキ:そうなんだよぉ…。
◆のあ:大体、女性なんだけど。心配になるよね、この考え方は。典型的なDVとかギャンブル依存のパートナーに対する「でも、いい所もあるんです、あの人」の視点だから。人のいい所を探すのは大事だけども。「もし本当にお源のことを思っていたら、新しい布団を2人、ちゃんと買えるよう、仕事すると思いませんか?」って問い返すと、みんな「あ…」ってちょっと目が泳ぐ。勿論、その人たちが間違ってるとも思わない。
◆和華:心配なんですよね。
◆のあ:そう心配。
◆スズキ:まぁ、最終、何を言っても、犯罪を犯しているので、この男は。どれだけ擁護されても(笑)
◆和華:犯罪はダメです。
◆のあ:お源が追い込んだからだ、っていう人もいるね。
◆和華:なんか、根が深いな。

 

 

—和華ちゃん、老母の役ですが。

◆和華:祖母の喋り方と似てるんですよね。
◆のあ:あ、そうなんだ。
◆和華:そうなんですよぉ。
◆スズキ:諄々と?
◆和華:自分なりの理論を自分のペースで。
◆のあ:素敵だねぇ。
◆和華:関東圏の古い人の喋り方なのかなぁ? あ、わたし、計算してみていいですか。
◆のあ:何を?(笑)
◆和華:老母っていつ生まれなのかなって。(iPhoneを出し)まず、この作品が明治41年=1908年の発表です。まぁ同じ年に起きた話ってことで計算しましょう。年齢がある人、例えばお徳は23歳ですから明治18年=1885年生まれ。お源も同じぐらい。細君は29歳なので、明治12年=1879年生まれ。磯吉は27-28歳なんで、同じぐらいだけど正確じゃない。お清は妹だから細君より下だけど、お徳よりは上でしょうね。真蔵はこれ年齢が出て来ないんですが。

◆スズキ:67-68歳の老母の子どもで、29歳の妻がいるよ。30代かなぁ。40代もありうる?
◆和華:でも、これ、この話の構造上、真蔵って近代化の象徴として、明治生まれなんじゃないかって思うんですよね。磯吉との対比とか考えてもね。だから、役割としては、30代かなぁ。
◆スズキ:老母わりと遅く生んだね。他に兄弟いるのかな。
◆のあ:老母が隠居ってことは家督継いでるから長男だと思い込んでたなぁ。まぁ、細君も29歳だけど娘の礼ちゃん7歳だから。22歳で生むってことね。老母も特別遅くは無かったのかも。
◆和華:じゃあ真蔵30代にしておこう。で、老母なんです。てことはこの人、1860-1861年ぐらいの生まれですから。
◆スズキ:あ、1人だけ江戸時代生まれじゃん。

◆和華:そうですね。アヘン戦争とか。天保改革とか。天保生まれです。
◆のあ:よく考えたら凄いや。どこにいたか知らないけど。下手したら、上野の戦いとか見てるんじゃないの?(笑)
◆スズキ:ペルリ見たかな、ペルリ(笑)
◆のあ:幕末と維新の生き証人だ。おばあちゃん。やっぱりちょっと、他のキャラクターと使ってる言葉が違うんだよな。やっぱり10-20代でその人の喋り方ってほぼ固定されると思うけど、そこから40年も経ってるからね。

◆スズキ:老母の娘時代気になるな。
◆のあ:スピンオフ「天保の娘 老母 ペルリと戦う」
◆スズキ:老母なのに娘おかしいでしょ(笑)
◆のあ:名前書いてないんだもん(笑)
◆スズキ:あ、著作権切れてるから二次創作もありでしょ。
◆のあ:スピンオフ「礼ちゃん女学校へ行く」、スピンオフ「磯吉と新しい女」、スピンオフ「増屋 のれん分け」、スピンオフ「お徳が女中じゃなかったら」
◆スズキ:磯吉の新しい女の目線からこの話を振り返るタイプのドラマとかも面白そうだよね。
◆のあ:それ凄いオペラの題材とかになりそうだな(笑)

 

—江戸 VS 明治

◆和華:やっぱりね、何かしら、明治時代の近代を象徴する人物と思想、相対して、江戸時代から残って来た物、みたいなのが、すごく対比されてると思う。それは真蔵と磯吉の対比であったり、大庭家と女中のお徳であったり、老母みたいな人であったり。これ、お源の死って、江戸時代の夢幻みたいなものがここで終わって、真蔵たち明治から大正へと移っていく者たちが前に前に淡々と突き進むっていうメタファーとも捉えられませんか?
◆のあ:近世から近代へ、ってこと? 思想的な移行? それとも本当に時代そのものの擬人化?
◆スズキ:お源は磯吉が盗んだ炭俵を脚継ぎに死んでるけど。
◆和華:それも何かのメタファーなんだろうか。江戸時代が自分で自分の首を絞めて終わる。
◆のあ:でも、明治って決してクールに始まったものじゃなくて、犠牲払ってグチャグチャに始まって我無者羅に戦争して突き進んでく感じがするけど。
◆和華:あぁ、そうかぁ。磯吉がそのまま江戸を引き摺って継続されてくラストもありますしね。それだけで説明はしきれないですね。
◆のあ:でも、作品中、エリートvs日雇い労働者、真蔵vs磯吉、みたいな近代的発展と近世の名残がいびつに入り交じってるのが結構描かれてるのは確かだよね。

 

—真蔵=独歩の視点?

◆和華:なんか、一見、真蔵が独歩自身で、憂いているような感じするじゃないですか。独歩って凄い男尊女卑の人みたいですね。
◆のあ:そう言われてるよねぇ。そのわりには真蔵みたいな人を書くんだよね。すごく女性に対してジェントルでしょ。口調とか。扱いが。まるで梅ちゃんにピッタリ。
◆スズキ:これ病床で最後の何作か書いてる時のやつだから、なんか弱って丸くなってるんじゃない?(笑)
◆のあ:悟ったのか(笑) やっぱり作品と作者本人って、一致しないな、いつも。
◆和華:そうですね。別物ですね。