「こんな夢を見た」…見るな!

「こんな夢を見た」で有名な夏目漱石の『夢十夜』です。
美しい謎の美女、幻想的なシーンの数々から、何度も映像化、舞台化、漫画化された、全10編の作品集から選ばれたのは……「なんでこれにしたの?」という『第十夜』です!! 最も意味不明で、別に美しくもなんともない『第十夜』の見所とは!
『夢十夜』については、もはや多くの人によって色んな解説や分析が出されているので、深くは言うまい(深く知らない) あくまでも劇団ののが思う、「ここがヤバい!」という点について、一緒につっこんでいきたいと思います。
栗田ばねがイラストとコラムを担当してくれた、テキストの解説と合わせてお楽しみください!(そちらはめっちゃ真面目です!!)

 

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『夢十夜』といえば、皆さん、「こんな、夢を見た」という書き出しを思い浮かべるのではないでしょうか。
栗田ばねが調べたところによると、実は、全ての話がこの始まり方をするわけではなく、第一、二、三、五夜だそうで。『第十夜』は、全然違う始まり方です。

 

 

そして、『夢十夜』を想像する時に、幻想的な美しいお話を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
それ、多分『第一夜』です。美しい女が現れ、男に「もう死にます」と言う。「死んだら埋めてください」「100年待っていてください。きっと逢いに来ますから」と。墓を掘って待ち続ける男。しかし女は来ない。やがて白いユリの花が1輪咲いて、男はその花にキスし、遠くの空に暁の星を見ると、もう100年経っていたことを悟る。
わぁ! なんて幻想的な光景!

 

実は、わたしが大学に入学してすぐの頃、演劇部やダンス部の先輩たちが、『夢十夜』を舞台にしていたんです。1年生のわたしは、それを観て、物凄い衝撃を受けた記憶があります。舞台装置、衣装、照明、振り付け、アイテム使い、宣伝美術、使用曲など、どれもこれも印象的で、まさに総合芸術でした。当時の出演者の中には、その後プロのダンサーや舞台俳優になった方もいて、今も活躍しています。
その後、大学卒業までサークルで舞台公演をしている時は、いつも、どこか必ず、その公演を意識していたほどです。必ずしも振り付けや演出を真似したわけではありませんが、その奇想天外さ、美しさ、出演者の放つ熱量、それを観た時の衝撃を、自分の中で忘れないようにしていた、という感じです。今も、美しいシーンの数々をありありと思い出せます。
「100年待っていてください」と語りかける着物姿のダンサーの女性、舞台にスーッと咲いてくる真っ白いユリの花。差し込む光の筋。感動のシーンでした。

 

ところが。
どうですか。
なんですか、この『第十夜』は。

 

美しいのって、『第一夜』で、後はおかしな話ばかりなんですよ。特に『第十夜』は、最もナンセンスだと言われています。

 

ところで、『第十夜』に出て来る美女は、この『第一夜』の女と同じ美女なんでしょうか? それとも、違う美女なのでしょうか? わかりませんね。そこは明かされていません。
どちらにしても、夏目漱石の他の様々な作品に出て来る、大人しくて謎めいた青白い美女像に、近いものがあります。
そして、『第十夜』の登場人物、庄太郎は、実は『第八夜』にも出て来ます。
主人公は違う男「自分」。
その「自分」が床屋に行くと、鏡の中に、パナマ帽子を被った庄太郎が歩いて行くのが映り込みます。庄太郎は、いつの間に捕まえたやら、女を連れて歩いている。女の顔をよく見ようとしたら、もう行っちゃった。

 

 

この鏡に映ったのは、もしかしたら、『第十夜』で庄太郎が女について行ってしまった、その瞬間なのかもしれません。
そう考えると、ちょっと監視カメラの映像とか、目撃証言っぽくないですか? 鏡越しというのが、また良い。
こうして、一見全く関係ない話同士に微妙な関連があるのは、面白いですね。夢って、時々、はちゃめちゃでナンセンスなわりに、妙にリアルなポイントが混ざっていたりするものです。
このシリーズは新聞に連載していたものですが、『第八夜』を書いてから、そこに出て来た2人を再度登場させたのでしょうか。それとも、全部の構想を済ませてあり、『第十夜』の2人を『第八夜』に予告のようにちょっと出しておいたのでしょうか。謎です。

 

ところで、『第十夜』について、色んな文献、感想、ブログ、解説を読んでいると、結構、真面目なものばかりでした。まぁ、そんな文章を書くような人なので、みんな真面目に読んでいるのでしょう。
「夢とは何だ」とか。「7日間という数字は、聖書っぽい」とか。もちろん「豚のエピソードは聖書の引用だ」とか。
とても面白かったです。分かりやすいし。勉強になりました。

 

しかし!
わたしは、「ダウト!」と言いたい。
というわけで、わたしが「おい!」と思ったポイントを紹介しましょう。

 

その前に、このお話、構造がやや複雑なので、説明します。
まず、「自分」というのがいます。夏目漱石さん自身なのでしょうか? 夢を見ている主人公です。「自分」は、「健さん」っていう人から「庄太郎」の身の上に起きた話を聞かされます。
そして、庄太郎をさらってひどい目に遭わせた「女」。あとは、庄太郎が行方不明になって心配する親戚の人々や、7日後に帰って来たときに庄太郎を出迎えて心配する町内の人たちが出て来ます。

 

 

この話に出て来る人たちが、とにかく変なんですよ!!

 

1人目はもちろん、中心人物、庄太郎。

 

まず、彼は町内一のモテ男で、すごく善良で、正直者だそうです。
って、ほめた後なのに。
彼には趣味がある、それは、夕方から果物屋の前で座って、通り過ぎる女の顔を見ては、しきりに感心すること……「そのほかにはこれというほどの特色もない」
って、次の文ですぐ切り捨てるんですよね。

 

いやいや、さっきほめたじゃん!
しかも特色がその趣味だけってどんなヤツだよ!

 

結構な趣味ですよ、「女を見る」
バードウォッチング的な。
そして、あんまり女が通らない時は、果物を眺めてるらしい。

 

暇すぎ……!!!!

 

どうやって生計立ててる人なんですかね?
あ、この果物屋さんの人か。
と思うじゃないですか。
違うらしい。
「やっぱ商売するなら果物屋に限るよね」的なことを言いながら、自分は特に店をやるわけでもなし。
時々、夏ミカンを眺めて「色がいい」とか品評する。
でも、絶対お金を出して果物を買ったことはない。

 

めっちゃ迷惑!

 

何しに来てるんですか、他人の店に。
女が通らない時は家に帰りなさいよ。
この店の店長はどう思ってるんですかね。毎日毎日、パナマハットかぶった庄太郎太郎がヘラヘラ店頭に座ってること。プチ営業妨害じゃないですか。現代なら間違いなく通報モノ、または動画で拡散されて夕方のニュースになる案件かと思われます。

 

でも、町内の人からは、別に呆れられも見放されもせず。庄太郎がさらわれたり熱を出したりしたら、みんな凄い心配してるんですよ。
何故かっていうと、やっぱり、庄太郎がいいヤツだからだと思います。なんたって、善良で正直。

 

いいヤツなので、ある時タイプの美女が現れて、果物のカゴをさして「これを下さい」って言ったら、庄太郎は、すぐに取って渡して差し上げるわけです。

 

って、待って庄太郎!
お会計した?
そもそも自分のお店じゃないし、店員気取りでカゴ渡すなよ!

 

そして庄太郎、やっぱりいいヤツなので、女が「カゴが重たい」って言ったら、「家まで持ってってあげる」って言って、ホイホイついて行ってしまうわけです。
ここでも漱石、「庄太郎は元来 閑人(ひまじん)の上に、すこぶる気さくな男だから」って書いているんですが、ちょいちょい庄太郎に毒を吐くのは何なんでしょう? 愛情の裏返し?

 

 

もう1人、ヤバいヤツを紹介します。なんと言っても、健さんですよ。

 

物語の1番初めの文は、庄太郎が女にさらわれて、7日経って帰って来たら熱を出して寝込んでる! って、「健さんが知らせに来た」っていうところから始まります。

 

健さんって誰!?

 

健さんって言ったら、かの有名な不器用な健さんしか知りませんが。
いきなり登場して、特に何の説明もなし。おそらく町内の仲間なのでしょう。

 

そして庄太郎から聞かされた、「女にさらわれ、崖っぷちに連れて行かれ、豚の大群と戦った」という一連の流れを語り終えて、健さんが放った一言が、こちらになります ↓

 

健さん「だからあんまり女を見るのはよくないよ」

 

……え! そこ!?

 

自分「自分ももっともだと思った。」

 

自分、まさかの同意!?

 

ハイ! この話の教訓は、「あんまり女を見るのはよくない」ということになりそうです。まぁ、たしかによくないよ。皆さんも、女を見る際は気を付けてください。

 

そして、衝撃の結び。

 

自分「けれども健さんは庄太郎のパナマの帽子が貰いたいといっていた。庄太郎は助かるまい。パナマは健さんのものだろう 〜fin〜」

 

健さん!! サイコパス疑惑!!!!!

 

「庄太郎、もう死ぬっぽいし、あの帽子ほしいなぁ〜」ってどんな友人ですか。形見分けフライング。
そしてそれを平然と聞いてる自分も自分でしょう。どういうテンションなんだろう??
でも、そこがまさに夢っぽいところなのかもしません。夢の中で、物凄い恐怖や焦りを覚える時もあれば、逆に、現実ではもっと焦るようなことが起きていても、何故か冷静に受け入れてしまったり。

 

最後に1つ、なんじゃこりゃ、と思ったポイントを紹介します。

 

それは、女が庄太郎を崖っぷちに連れて行き、「ここから飛び込んでごらんなさい。思い切って飛び込まなければ、豚に舐められます」と言った時のことです。
(それ自体、そもそもどういう条件なんですか)

 

 

自分「庄太郎は豚と雲右衛門(くもえもん)が大嫌いだった。けれども命にはかえられないと思って、やっぱり飛び込むのを見合わせていた」

 

またサラっと流しそうになったけど、雲右衛門って……誰!?

 

クモえもーーーーーーーーん!!

 

これに関しても、この一言しか出て来なくて、もう次の瞬間には豚がブーブーやってきてクライマックスになってしまうので、やっぱり何のことやら分かりません。

 

お恥ずかしながら知らなかったのですが、桃中軒雲右衛門(とうちゅうけんくもえもん)さんっていう、明治から大正に掛けて活躍した浪曲師の方がいたそうです。
すごい売れっ子で、浪曲の社会的地位を上げるきっかけとなった人。レコードも出している。彼を主人公にした映画や小説まであるようです。

 

で?
庄太郎が嫌いな雲右衛門が、この人だとして、です。
なんで嫌いなの?
なんで豚と並列で嫌いなの?

 

本当に、なんで嫌いなのか、よく分かりません。他に嫌いなものないのかな??
当時、漱石が雲右衛門さんを嫌いだったのかもしれません。「嫌いな芸能人」みたいな。
雲右衛門からしたら、とんだとばっちりですよ、急に新聞連載の小説で誹謗中傷されて。これが有名税ってやつですかね。

 

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嗚呼。
「なんだよそれ!」というポイントしかない、『第十夜』でした。
お口直しに素敵な素敵な『第一夜』を読むことをオススメして、この記事を終わりにしたいと思います。

ばねとばねが夢の共演

 

いよいよ、今日は、収録です!
いつも稽古している場所にて。

 

普通の送風タイプのヒーターを付けると、「ブーン」という音がしてしまうので、消しました。
そして、それだと寒すぎるので、アラジンストーブをつけました。
アラジンストーブ。
……。

つけ方が判りません。
ネットで調べて、つけました。
こすったら魔神が出て来て暖かくしてくれるわけではないっぽいです。
普通に、地味に、いろいろひねって、マッチで火をつけます。

頑張れ、魔神=戸塚!
君のおかげで部屋が暖まるぞ!

 

さて、別に暖かくなりません。
寒い中、ナレーションの収録を無事に終えました。

 

磯吉役の栗田ばねさん、お源役のCaoriちゃんも到着。
みんなで楽しく収録です。

 

まずは、ナレーションとお源のシーン。
お源さんは独白が多いですね。

Caoriちゃんと戸塚くんのところにあるマイクが、栗田くんの手元の機械につながっています。

マイクスタンド代わりになっているのは、かつて舞台美術で作った木箱。
到着したら、こうなっていました。
スズキヨシコさんがセッティングしてくれたようです。

木箱の蓋に、かろうじてマイクを挟んでテープで固定しているので、
ちょっと揺らしたら取れそう。
そして、木箱は中が空洞なので、ちょっと触ったら音が響きそう。
手作り感溢れております。

テキストは、マイクに触れないように、マイクの向こうで手で掲げて読みます。
実際、朗読大会などでも、このようにします。

 

栗田監督、「アクション!」と叫んでいます。

音をモニタリングしています。
飛行機、救急車などが来たら、一度止めます。
なんという手間でしょう。
これが費用ゼロ収録の限界だ!

「君ねぇ、ここはもう少しこうしたまえ。
気持を考えていこう、気持の発露をね」
的なことを、グダグダと指示しています。

おおよそ、2人の演技には関係ありません。
というか、全く、関係ありません。

あ、だって、ほら、よく見たら、

監督ごっこに飽きちゃって、DJごっこ始まってるし。

 

さてさて、いよいよ磯吉の出番です。

磯吉とお源は、2人で1つのマイクを使ってやりました。
2人で1つを使うと、距離感や角度が難しいですが、交互に使います。

栗田さんがずっとご機嫌で暴れ回っているので、
Caoriさん、笑いをこらえながらの演技です。
2人が共演しているシーン、ほぼ、笑いをこらえながらやっています。
苦行です。
そう思って聞くと、よりいっそう彼女の演技の巧さが解るのではないでしょうか。

ばねさんがこだわったのは「貧乏が好きな者はないよ」というセリフです。
お源さんに貧しい生活を責められて、やっと発した言葉。
イライラをおさえつつ、押し出すように、でも動揺せず。
このさじ加減が難しいところ。
「もっと決めぜりふっぽく言います」と言っていました。
「内容的に何も決まってないけどね」と、Caoriさん。

 

おぉぉぉ、アラジンストーブ。
……全然暖かくなりません。
全員、屋外にいるのと同じ格好。
寒い中で演じたので、植木屋夫婦の家の寒さ、身に染みて演技できたかもしれません。

 

ところで、皆さん。
明治時代の日常音風景には欠かせない、行商人。
実は、全て栗田ばねさんの声です。
豆腐屋も、パン屋も、納豆屋も、全部、栗田ばね。
よく聞いてみると「あ〜参ったなぁ〜こりゃ」とか、台本にないことも言っています。
あと、磯吉と行商人が夢の共演を果たしてしまっている部分もあります。
お楽しみに〜♪

 

お菓子も炭も値段に比べて小さいぞ

 

引き続き、暖房が効かない寒い部屋での稽古です。
Caoriさんが途中で抜けました。

 

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ここからは、稽古でやった場面と、それについてキャストが話した内容をお届けします。
作品本文は、青空文庫からコピーしたものに、読み易いよう改行を加えています。
キャストが話した内容は、録音した物を文字に起こし更に編集しています。
なお、議論は明確な答えを出すものではなく、情報は必ずしも正確ではありません。
演出を付けるために自由な発想に基づいて発言しております。

 

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—共演者の心は、みんなバラバラです。

◆栗田:さ〜くら〜。さ〜くら〜。あ〜。あ〜。わたしくしは、とらさん。あ〜。
◆のあ:次は、シーン3かな。井戸端会議のシーンだね。
◆栗田:い〜どばたかいぎ〜。い〜どばたかいぎ〜。わたくしは、とらさん。
◆吉田:あれ? 3やらなかったっけ?
◆のあ:今までの稽古でやった記憶が無いな。
◆吉田:でも、見て。わたしの台本、お徳のセリフのところに丸付けてってるよ。
◆スズキ:あ、ホントだ……あれ、途中から丸消えてるよ。
◆のあ:多分、ここは1回も読んでないなぁ。
◆吉田:あ、そうだ思い出した。「自分の役」って思って台本に丸付けて、途中で飽きたんだ。
◆スズキ:何だよ!(笑)
◆栗田:あー解るっ。古本屋で、難しい本買って来たら、めっちゃ線が引いてあるんだけど、10ページ過ぎた辺りでもう線が無くなって、この人ここで断念したんだな、っていう。
◆吉田:それだよ。あとね、初回の稽古で、あ、わたしもしかしたらお徳じゃなくなるかもしれないし、って思って。
◆のあ:梅ちゃんがあの場で直感に従って適当に決めた配役だからね。もう定着してるけど。
◆スズキ:あのさぁ、みんなそろそろ、録ってる時に静かにする練習しない?
◆中馬:途中で面白くなって吹き出しちゃったりしてますからね。
◆スズキ:ガサガサするしさぁ。
◆のあ:じゃあ、静かに。3を読みます。ハイどうぞ!
◆皆:……。
◆のあ:あれ? お源、誰?(笑)
◆栗田:ホラ、言った先からもうダメなんだよ。
◆中馬:じゃあ俺やりたいです。
◆のあ:じゃあナレーションはばねさんで。橋爪功さんのように読んで下さい。
◆栗田:は〜しづめ〜。は〜しづめ〜。あ〜。あ〜。
◆のあ:絶対勘違いしてる。
◆吉田:じゃあ、橋爪と、お源と、わたしで。
◆中馬:ダメだ、みんなバラバラだ!

 

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国木田独歩より 竹の木戸

 

植木屋は其処らの籔から青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工の木戸を造くって了った。出来上ったのを見てお徳は
「これが木戸だろうか、掛金は何処に在るの。こんな木戸なんか有るも無いも同じことだ」
と大声で言った。植木屋の女房のお源は、これを聞きつけ
「それで沢山だ、どうせ私共の力で大工さんの作るような立派な木戸が出来るものか」
と井戸辺で釜の底を洗いながら言った。

「それじゃア大工さんを頼めば可い」
とお徳はお源の言葉が癪に触り、植木屋の貧乏なことを知りながら言った。
「頼まれる位なら頼むサ」
とお源は軽く言った。
「頼むと来るよ」
とお徳は猶一つ皮肉を言った。
お源は負けぬ気性だから、これにはむっとしたが、大庭家に於けるお徳の勢力を知っているから、逆らっては損と虫を圧えて
「まアそれで勘弁しておくれよ。出入りするものは重に私ばかりだから私さえ開閉に気を附けりゃア大丈夫だよ。どうせ本式の盗棒なら垣根だって御門だって越すから木戸なんか何にもなりゃア仕ないからね」
と半分折れて出たのでお徳
「そう言えばそうさ。だからお前さんさえ開閉を厳重に仕ておくれなら先ア安心だが、お前さんも知ってるだろう此里はコソコソ泥棒や屑屋の悪い奴が漂行するから油断も間際もなりや仕ない。そら近頃出来たパン屋の隣に河井様て軍人さんがあるだろう。彼家じゃア二三日前に買立の銅の大きな金盥をちょろりと盗られたそうだからねえ」
「まアどうして」
とお源は水を汲む手を一寸と休めて振り向いた。
「井戸辺に出ていたのを、女中が屋後に干物に往ったぽっちりの間に盗られたのだとサ。矢張木戸が少しばかし開いていたのだとサ」
「まア、真実に油断がならないね。大丈夫私は気を附けるが、お徳さんも盗られそうなものは少時でも戸外に放棄って置かんようになさいよ」
「私はまアそんなことは仕ない積りだが、それでも、ツイ忘れることが有るからね、お前さんも屑屋なんかに気を附けておくれよ。木戸から入るにゃ是非お前さん宅の前を通るのだからね」
「ええ気を附けるともね。盗られる日にゃ薪一本だって炭一片だって馬鹿々々しいからね」

「そうだとも。炭一片とお言いだけれど、どうだろうこの頃の炭の高価いことは。一俵八十五銭の佐倉があれだよ」
とお徳は井戸から台所口へ続く軒下に並べてある炭俵の一を指して、
「幾干入てるものかね。ほんとに一片何銭に当くだろう。まるでお銭を涼炉で燃しているようなものサ。土竈だって堅炭だって悉な去年の倍と言っても可い位だからね」
とお徳は嘆息まじりに「真実にやりきれや仕ない」
「それに御宅は御人数も多いんだから入用ことも入用サね。私のとこなんか二人きりだから幾干も入用ア仕ない。それでも三銭五銭と計量炭を毎日のように買うんだからね、全くやりきれや仕ない」
「全く骨だね」
とお徳は優しく言った。
以上炭の噂まで来ると二人は最初の木戸の事は最早口に出さないで何時しか元のお徳お源に立還りぺちゃくちゃと仲善く喋舌り合っていたところは埒も無い。

 

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—「どうして」は理由ではない?

◆スズキ:お徳がたらいが盗まれた噂出した時、お源が「どうして」って訊くじゃん? お清も
増屋が炭が盗まれた話をした時に「どうして」って言ってたけど。これってさ、「どのようにして」「How」なんじゃない?
◆中馬:あぁ、「まぁ! いかようにして?」ってこと?
◆スズキ:そうそう。「Why」じゃなくて。定かではないけど。その後に来る答えが、大体理由じゃなくて経緯の説明なんだよな。
◆のあ:明治……。今、亡くなった人を1人生き返らせていいと言われたら、独歩さんだな。

 

—長い文章は分解して練習してみましょう。

◆吉田:「井戸辺に出ていたのを、女中が屋後に干物にいったぽっちりの間に盗られたのだとサ」って言い辛いんだけど。まずさ、長いし。「女中が」の後、「え、これでウラって読むの!?」って思ってる間に、引っ掛かる。
◆スズキ:確かに「屋後」で「ウラ」って凄いよね。
◆吉田:更に「ぽっちり」が出て来るから。ぽっちりって言うなっ!
◆中馬:繋げない方がいいのかな。い〜どばた〜に〜、じょ〜ちゅ〜が〜、う〜らに〜♪
◆のあ:あのさ、さっきから疑問なんだけど、それは有効な練習方法なの?
◆中馬:前に、変なニャーニャーした声で音を分解してずっと繰り返し読んでると、飽きた頃には滑舌が良くなってるって、教えてくれたじゃないですか。
◆のあ:教えたけどさ。
◆中馬:でも、飽きた頃には、周りからひんしゅくを買っているんです。
◆のあ:1人でやる練習だから。
◆中馬:でも、ひんしゅくを買うと、気持良くなっちゃうんです。
◆のあ:君は何を言ってるんだい?
◆吉田:区切って繰り返すしかないのかぁ。
◆スズキ:頑張れ〜。

 

—お徳はいじわるばあさんではありません。

◆のあ:お徳、23歳だよ(笑)
◆栗田:今、姑みたいだね。
◆吉田:やぁ、どうしても40-50歳を思い浮かべちゃうんだよな。
◆のあ:なんでさ!(笑)
◆スズキ:しかも「器量も悪くない」って書いてあるんだから。お徳、可愛いそうですよ。
◆中馬:可愛い子、いいなぁ。
◆のあ:もっと可愛いお徳でお願いします。
◆吉田:可愛くね。……ハァ〜(溜息)
◆栗田:「ハァ〜」って。
◆のあ:炭の文句言う時、今、炭屋を呪う鬼ババアみたいになってるよ。
◆中馬:もはや老母。
◆のあ:それ言ったら中馬もさ、「お源は軽く言った」「お源は折れて出た」のとこ、軽くもないし折れてもないよ。
◆中馬:反骨精神が出ますね。

 

—お徳は、明るく相手にダメージを与えることができます。

◆のあ:もっと、軽いトーンで嫌味を言うんじゃないかなぁ?
◆スズキ:もっとナチュラルなマウンティングなんじゃない?
◆吉田:あれ〜ぇっ? これが木戸だろうか〜♪ 掛け金はぁ、どこにあるのぉ?
◆中馬:ですぅ〜♪
◆のあ:あ、タラちゃん。
◆中馬:嫌味は言ってるんですけど、後半、炭の話になると、共感とかもありますしね。
◆吉田:なんか急に仲の良い女子女子してて。
◆スズキ:最後の「全く骨だね」って急に優しくなるよね。
◆のあ:最後の方は仲良く終わるからね。
◆スズキ:でもホラ、見て。「いつものお源とお徳」に立ち返るって書いてあるけどさ、いつものお源とお徳を出せるの、作品中ここしかないよ。
◆吉田:ひょえ〜。
◆スズキ:この「頼むと来るよ」はもっと親切に教えてあげたら?
◆吉田:ここ言いにくいね。親切なの言いにくいね。
◆スズキ:優しく言われた方が、ドキッとなるよね。
◆吉田:これ凄い皮肉だから、「さぁさぁ言ってやるぞぉ?」っていう気合いが入っちゃって。もっと無邪気に人を傷付ける感じだよね。
◆スズキ:教えてあげてるんだよ。頼むと来るんだよ、って。
◆吉田:頼むと、来るよっ! 頼むと来〜るよ♪ 頼むと……来るよ?
◆中馬:もはやピザのCMみたいになって来ましたね。
◆吉田:えへ♪
◆のあ:確かに(笑)
◆中馬:お源を見ないで言うぐらいでもいいのかな、って思います。軽く。
◆栗田:1番普通の言い方するといいんじゃない? 善意で言ってる風に。
◆中馬:来るよ!
◆スズキ:頼むと来るよ!
◆中馬:来るんで〜すぅ〜。
◆栗田:頼むと来るよ、と、もうひとつ、お肉を言った。
◆中馬:もう全員お徳ですね。
◆スズキ:全員。
◆栗田:善意。
◆中馬:ゼンギ?
◆栗田:ゼンギ?
◆中馬:ゼンゼンゼンギ?
◆中馬・栗田:わぁぁぁぁぁ〜っ!!!!!
◆栗田:大沢親分の……いいです。何でもないです。
◆吉田:何なんだよもうっ!

 

—お徳は、遠くから相手にダメージを与えることができます。

◆吉田:ねぇ、この「これが木戸だろうか」って、誰かそばにいるわけじゃないでしょ?
◆スズキ:いない。1人。お源は井戸にいて、お徳は木戸にいる。
◆吉田:これって、独り言がでかいのかな? それとも聴かせようとしてるのかな。
◆スズキ:勿論、聴かせようとしてるんだよ。お源に。
◆栗田:もうちょっとヤッホー感出してみて。
◆吉田:ヤッホー感。木戸から井戸ってどんぐらい距離あるのかな。
◆のあ:えっ!?
◆吉田:えっ!?
◆のあ:あ、ごめん「木戸から井戸」について行けてなくてパニクった。
◆中馬:そのぐらいついて来て下さい。
◆のあ:お源は、家を出て、木戸を開けて、女中部屋の前を裏庭を横切って、井戸まで行く。3m以上は確実にあると思うんだけど。7m、10mとか、もっとかもしれないし。
◆吉田:だいぶでかい声だね。お徳ってお源に近付いて来るのかな。歩きながらとかもありうるよね。
◆スズキ:やなやつだな。
◆吉田:やなやつなんだよお徳は。

 

—明治時代の人のテンションが掴めない。

◆吉田:なんかなぁ〜。昔の人のテンションってよく解んないね。
◆スズキ:独歩もここまで精密に読まれること想定しないで書いてから。
◆中馬:独歩は想定しています。
◆栗田:独歩は計算してるよ。精密に書いてるよ。
◆スズキ:はい。

 

—こそこそ泥棒って、なんだか可愛いです。

◆吉田:「こそこそ」って、何? 「こそこそ泥棒」で1つの単語?
◆中馬:こそこそと、泥棒が、って意味ですか?
◆吉田:その後うろうろも出て来るから、おかしいよね。何処で切るの?
◆栗田:しかも、その前に「本式の泥棒」が先に出て来てるから。本式に対する格下のこそこそじゃない?
◆スズキ:こそこそ泥棒って、ちゃんと辞書に載ってて。略して「こそ泥」だって。
◆栗田:ちょっと可愛く読んでみて。
◆吉田:みんな〜ぁ。気を付けて〜ぇ。こそこそ泥棒が、来るよぉ〜♪
◆のあ:ディズニーランドのアトラクションのお姉さんみたい。
◆吉田:次は、クズ屋だよっ♪
◆中馬:こそこそしてない泥棒って何でしょうね。
◆栗田:堂々泥棒。強盗かな。
◆中馬:強盗かぁ! 金を出せって堂々と来ますね。
◆スズキ:空き巣は?
◆のあ:空き巣は人がいない時を狙って入ってるじゃん。心根がこそこそだよ。怪盗キッドは?
◆中馬:堂々ですね。

 

—今も昔も、商品は値上がりし、サイズダウンしています。

◆スズキ:「1俵85銭の佐倉があれだよ」の「あれだよ」は「あのざまだよ」っていう意味なんじゃないかな。今だと、「あそこにあるのが、例のあれさ」って提示してるように聞こえる。
◆中馬:「あれっぽちだよ」ってことでしょ。炭が高いってことですからね。俵が小っちゃいのかな、って思うんですけど。お徳用買ってるのに損してるみたいな。
◆のあ:「いくら入っているもんかね」ってカントリーマ●ムが小っちゃくなってってるのと同じでしょ。
◆スズキ:憤慨だよね。
◆のあ:あれ? あれは小さい時にまだ自分の手が小さかったから? 今成長した自分の手には小さく感じているだけ?
◆中馬:いやいつの話してるんですか! や、確実に小さくなってますよ。
◆吉田:う●い棒が細くなってってるのは気のせい?
◆皆:えっ!
◆スズキ:一時期、ダ●スが10個になる噂もあったよね。
◆中馬:それはもはや●ースじゃない!
◆のあ:国民をバカにしてるな。
◆スズキ:そうだよ。そこまでバカじゃないよね。
◆中馬:ダースって10個のことだと思っちゃうじゃないか!