遠くに流れるキュウリ

きゅうり

 

さてさて、今回公開された『遠くで鳴る雷』。
どんな、お話なのか。
本編の後の、スズキヨシコ、吉田素子、梅田拓のトークを聞いた後、
この記事を読んでいただけましたら、幸いです!

 

まず、作者=小川未明(おがわみめい)さん。
この方は、「日本のアンデルセン」なんて呼ばれてる人で。
彼が日常生活において「おい、アンデルセン!」
などと呼び掛けられていたのかは謎ですが。
で、「紀州のドンファン」さんは、
「ねぇ、ドンファンさん」って呼ばれてたんですか?

 

アンデルセンの異名の通り、未明さんは、児童文学を書く人です。
大体、明治後期〜大正時代中心〜昭和初期に掛けて、戦前に活躍しています。
ちょうど、NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』の時代なのです。
『花子とアン』のヒロインも英語の児童文学を翻訳していたのですが、
子どもの教育が発展し、海外から多くの児童文学が輸入・翻訳され、
ラジオでのお話の読み聞かせなども発展した時代です。
「児童文学界の三種の神器」などとも言われ、御三家の1人でした。
3人の中では、比較的、野口五郎ポジションでした。

 

小川さんの作品は、『赤い蝋燭と人魚』が有名なのではないでしょうか!
『遠くで鳴る雷』は、無名 of 無名です。

 

このお話の主人公は、少年二郎。(ラーメン二郎っぽい)
そして、あと、家族は母しか出て来ません。
トークでスズキさんが指摘している通り、
「二郎がいるからには、兄の一郎または太郎がいるはずだ」と思われます。
いきなり長男にあえての「二郎/次郎」って付けるのは、斬新すぎるし。
隠しキャラ、兄の「一郎さん」、どうしたんでしょうか。
自立したんでしょうか、メジャーリーグに行ってしまったのでしょうか。
祖父母や父も出て来ないし、三郎や四郎もいないっぽい。

 

大人の小説では、設定の細かさでリアリティーの底上げをするために、
本筋に直接絡んで来ない余分な人や物、地名が沢山出て来て、
その世界観に萌えたりするわけですが、
子どもは余分なことは頭に入らないから省くのでしょうか?

 

シンプルな物語世界。
中でも、ものすごいウェイトを占めているのが、キュウリ!
もはや、主人公は二郎じゃなくてキュウリなんではないかと。
タイトルは『遠くで鳴る雷』だけど、いや、「雷」なんて……。
最後の方にチョロッと鳴るぐらいで、キュウリと比べて、影、激薄ですから。
当時の出版社の編集さんは何を思ってこのタイトルにしたんだか。
『キュウリ』でしょ、絶対。

 

 

前半、すごいワクワクするんですよ、この話。
小学校の時、ホウセンカやアサガオを育て(させられ)ませんでしたか?
あの頃を思い出しちゃったりして、大変ほのぼのするんです。
この辺り、スズキさんの選曲で、
ピアノの練習曲っぽい感じが、大変よく合っています。

 

 

で、ある日、お母さんが遂に「GO!」と。
立派になったキュウリ!

 

きゅうり

 

お母さんが調理してくれて、おいしく食べて、ハッピーエンドだ!
まるかじりか? 浅漬け? 味噌? ピクルスか!?
って思って読み進めてたらですね!

 

お母さん、ドえらい変化球投げて来るんですね。
「これは水神様にお供えします」
「キュウリにおまえの名前書いて、川に投げて来い」
って言い出すわけですよ。

 

え!

 

ガクブルですよ。
丁寧な言葉で淡々と言うから、
なんかもう、母ってサイコパスなのかな、って思いましたよ。
いやぁ、「二郎は反抗的な態度を取らなくて偉いな」って思いました。
これがもし、そこらへんの並みの二郎なら、
「させるか!」「水神にやるキュウリなど無いわ!」
とか言って、その場でキュウリ丸呑みしちゃいますよ。

 

お母さん的には、水神様に捧げるために育ててたみたいですね。
二郎ちゃんがよく川遊びをするので、
水難事故に遭わないように、よろしくってことみたいです。

 

水神様というのは、「すいじん」とも「みずがみ」とも言い、
農業には欠かせない神様です。
何せ水田もありますし、畑にも水やりしますし。
河川の氾濫とか、日照りとか、天候にも関係あります。
怒らせずに仲良くやって行きたいわけです。
色んな姿がありまして、龍や蛇の姿をしたものであったり、
天女のようにひらひらした服装の女性だったり。
地域や、その池、川、滝などによっても、
伝わるお話や、祀ってる神様が異なってくるみたいですよ。

 

中でも、キュウリと言えば、カッパのイメージありませんか?
カッパ巻きってキュウリの海苔巻きですよね。
カッパはどっちかと言ったら妖怪カテゴリーじゃん? と思いますが、
かつては、水神様カテゴリーだったらしいです。
あと、ほら、カッパって相撲も好きじゃないですか。
好きなんですよ、相撲が。
相撲って、なんかもう最近はめくるめく色々がありましたけど、
元々は、神の前で行う、清い神事ですから。
カッパ=相撲好き=水神=キュウリも好き、です。

 

 

で、母の言い付け通り、川にキュウリを流す二郎ちゃん。
ボチャン。

 

この辺り、もう、アニメ『ラスカル』の最終回で、
少年スターリングがラスカルを自然に返すシーンぐらい泣けます。
初めて藁からミルクを吸ってくれたラスカル、
いたずらしたラスカル、一緒に眠ったラスカル、
俺のラスカルみんなのラスカル、
めくるめく走馬燈の思い出が脳内高速回転してる中、
ラスカルを残した岸から、小船で、涙ながらに離れて行くわけです。

 

「ラスカルー!!!!!!」

 

アライグマ

 

ほぼほぼ同じですよ。
あんなキュウリや、こんなキュウリ、
あの日のキュウリや、この日のキュウリ。

 

「キュウリー!!!!!!」

 

キュウリがこれからどんな目に遭うのか、今いずこか、
と、夜もぎんぎんにキュウリのことを考え続けてしまいます。
子どもの時って、そういう不安ありましたよね。
バスに置き忘れた傘が、今頃どこかで暗い倉庫で泣いてるんじゃないかって思ったり。
特に、夜1人で布団に入ってると、そういう怖い想像をしますよね。

 

なんていうか……ほんと……二郎ちゃん、きっとキュウリは大丈夫。
もしかしたら二郎ちゃんも薄々気付いてるかもだけど……
キュウリって、ほら、感情とか全然、無いじゃん?
「二郎を水神様の生贄にして村が守られる」的な話じゃなくて良かったじゃん!

 

で、この話、すごい展開が二転三転するんですよね。
わたしの想像力の限界では、
下流まで流れて行って、カッパが食べましたとさ、とか。
海まで流れて行ったキュウリは、広い世界を見ましたとさ、とか。
そんなもんじゃないですか。
とりあえず「はい、めでたし!」って感じだと思っていました。

 

ところが!
なんと、下流で乞食の子どもが発見して、拾っちゃうんですね。
初見の時(ぶっつけ収録でしたけど)声に出して「え!?」って言いました。
なんかもう、全く考えてもいなかったです、この筋を。

 

まず、わたしがびっくりしたのは、母と二郎以外の人物がいきなり登場したこと。
「人間、他におったんかい!」 っていう、その驚きが1番でした。
だから、この展開が何を表してるのか、色々考えましたけど、解らない。
「下流に貧困な集落があるのか?」「低層な階級の出身者なのかな」
「川辺の森で人目を忍んで暮らしてる親子なのかな」「水神の化身?」とか。
その人たちそのものに興味が湧いちゃって。

 

吉田さんがフリートークの中で言っているのは、
せっかく育てたキュウリを、
赤の他人が、いと簡単にかっさらって行くということに対する、
ちょっとした不満というか、「えー……」っていうガッカリ感。
これは完全に二郎目線で、子ども読者に最も近い目線だと思いました。
通過儀礼(キュウリと別れる)を経た子ども(主人公二郎)が報われず、
新参者の第三者(まだあんまり感情移入できない)が、得をした。
自分が努力したり、我慢したり、冒険したりしたら、当然、
褒められるか、何か手に入れるとか、報酬のある結末を期待します。
そりゃ、「えー……」ですよ。

 

梅田くんが唱える説は、ちょっと違って。
二郎が育てた命、キュウリというバトン、
これが、川・水という命の象徴である線を伝って、
別の子ども、すなわち、二郎と同じく未来ある存在に渡されると。
「乞食」と言うからには二郎の家庭よりも圧倒的に貧しいでしょうし。
この子はしかも、発見して拾い上げたキュウリを、その場で食べず、
恐らく同じく貧しく飢えている、母と妹に持ち帰るのだ、と。
持てる者から持たざる者への命のリレー、みたいな解釈をしたようです。
そして、ここで遠雷が鳴って「もう夏であります」と。
新しい季節への予感、夏の清涼感まで出してるんだそうな。

 

うわぁぁぁ! 達観してるよぉぉぉ!
梅田くんはもしかしたら、平成の日本において、
最も小川未明のソウルが解るメイトなんじゃないですか?

 

わたしはと言えば、
「最後に適当に雷鳴らして、ちょっとタイトルに寄せて来るのかよ!」
と思った。
以上です。
本当に文学専攻で卒業したんですかね。

 

雷

 

ちなみに、「遠雷(えんらい)」って、
遠くでゴロゴロ言ってるイメージですか?
それとも、遠くでビシャーンって鳴ってるイメージですか?
文中からは、どっちともつかないです。
ただ、数キロ先まで迫って来てます、音が聞こえてるってことは。
遠くでも意外に近いので、気を付けなければ。

 

作中では「もう夏であります」と言っていますが、もう……秋であります。
キュウリが1番おいしいシーズンを、がっつり外してしまいました。
(6月14日が世界キュウリの日らしいですね)
なので、今年はまぁ、楽しかった夏を思い出しながら聞いていただいて。
来年の6月に、もう1度聞いていただきたいと思います!

 

国民的夫

 

のあのえる、途中から合流しました。

 

ー最後は、風景で終わるんだね。

 

◆梅田:『竹の木戸』もそうだったじゃない? なんかこう、サーッと渋谷村全体の雰囲気みたいな。これは、地上から、空に向かっててさ。
◆のあ:樋口一葉の『たけくらべ』も、最後、花街の室内の空間の一輪挿しの映像から、グッと引いた外の世界の伝聞の話で終わるんだよね。
◆梅田:これは手法なのかね。
◆のあ:カメラをグッと外とか、上とかに向けるような終わり方の小説、確かに、多いかもね。
◆梅田:僕やっぱりそういうの考えちゃうね。気になっちゃう。
◆のあ:映像的な手法なのかもね! アニメの『アンパンマン』も最後、「じゃじゃじゃーん♪」ってエンディングの音楽流れて、夕焼けの山並みとかで終わるね(笑)
◆スズキ:『アンパンマン』(笑) 大河ドラマとかもそういうの多いかも。
◆のあ:1回明るいところから暗い所に行ったり、大きい所から細かい所に寄ったりね。映画の手法って文学から来てる感じあるよね。今、うちでは音声で忠実に再現するっていう活動してるけど、誰か、映像で忠実に再現するっていうの、やってしてほしいな。さぁ、したまえ。
◆梅田:「たまえ」? 「たまえ」と言ったね? 僕がするのかい?
◆のあ:うーん。じゃあ、ちょっと誰か有名な監督に頼もう。戸塚、ちょっと売り込んで来てよ。
◆戸塚:え、俺が行くの? イヤです!
◆のあ:頼んでも、「なんなんだろう、こいつら」って思われるだろうね。ていうか「なんなんだろう、あの戸塚」って思われるんだろうね。
戸塚:あの戸塚だってことは解ってくれてんのかよ、監督。
◆スズキ:良かったね。
◆梅田:ただこれ、話してたのはね、映像化するにしても、「綺麗な秋じゃないね」って話してたの。柿とか栗とか紅葉とかじゃなくて。黄ばんだ、秋の空。薄濁ってるから。
◆のあ:フランドル画の風景画みたいな淋しい感じだな。灰色と黄色が混じっているね。
◆梅田:もう、どんよりしちゃう。次はさ、花火が打ち上がるぐらい明るい物語にしよう。
◆のあ:この時代の文学って、ハッピーな話がなかなか無いよね。あったっけ。
◆スズキ:あ、無いね。思い浮かばないよ。
◆のあ:『舞姫』とか最悪だもんね。
◆梅田:最悪だね。

 

 

ー秋って言うけど、これって秋だけの話じゃないね。

 

◆のあ:結構長いスパンの話だよね。2年ぐらい経ってるね。
◆スズキ:そこが『竹の木戸』と違うね。あれは数ヶ月の話だから。
◆のあ:作品通して秋みたいなイメージ持ちがちだけど、実は結構、春、夏、秋、冬って一巡してて、それぞれの季節の話、してるんだけどね。
◆スズキ:でもさぁ、出て来る植物が松とか、ずっと夏も冬も真っ黒で、変わらないものがあるから。ずーっと、信子のつまらなさとか生活の単調さを出して来るじゃん? だから季節感とか時間の流れを感じ辛いんだよなぁ。
◆のあ:たしかに。

 

ーこの話、国木田独歩『竹の木戸』よりやるせなくなるの、何でだと思う?

 

◆梅田:僕は、あの話よりも、なんかすっごい、モヤモヤするの、これは。
◆スズキ:『竹の木戸』は、磯吉以外、わりと人間らしい感じがしたんだけど。
◆のあ:大庭家は、植木屋夫婦を切り離して、今後も何事も無かったように幸せに暮らしていくんだろうな、っていう、ハッピーエンドが半分残っている感じだったのかな。お源だけちょっと可哀想だったけれども。
◆スズキ:あれは、磯吉という特殊な人間による一時的な災害のお話だった気から。でも、こっちは、みんながみんな、解って行動した故のディザスターという風に見える。
◆のあ:お源もちょっとバカっぽい所があったもんね。自業自得っぽい所というか。解ってなくて体当たりで行動してる部分が。
◆スズキ:『秋』に出て来る人たちは、自分の投げた石がどんな波紋を呼ぶか解った上で行動してるから。そこがなんかなぁ。
◆戸塚:あ。『竹の木戸』の話は、ある程度、オチみたいなものが付いてるんだけど。『秋』は、俊吉に関してはちょっとよく解らないけど、姉妹中心に、みんなモヤモヤしたものを抱えたまま終わっている所が、ちょっとなぁ。
◆スズキ:なるほどね!
◆のあ:『竹の木戸』は、人間関係が2つ、完全にぶっ壊れて、縁が切れてるからね。そもそもお源が死んで夫婦関係が壊れるし、磯吉は大庭家と縁が切れて引っ越すし。でも、『秋』の人たちは、関係性の、と或る一部分は壊れたかもしれないけど、表面上の付き合いが続いちゃいそうな余韻があって。
◆スズキ:『竹の木戸』はフラストレーションが一度、爆発してるからね。『秋』でも、照子がもっとぶっちゃけたりしたら、スッキリしたのかもしれない。
◆梅田:照子はね、虫をね、あのヨコバイを! 潰せば良かったんだよ! ピシャンとね。それか、鶏が卵投げ付けるとか。「浮気してんじゃねーぞ!」って。それか、もう自死するか。そしたらスッキリするよ!
◆スズキ:激しいなぁ(笑) 俊吉と信子が庭から戻って来たら、照子が死んでるのか。
◆のあ:大量のヨコバイを食べてね。むしゃむしゃー!
◆梅田:え、ヨコバイ、家の中にそんなにいっぱいいたの?(笑)
◆のあ:信子も爆発すれば良かったんだよね。
◆スズキ:「譲ったんじゃねーよ、安全パイに逃げたんだよ! 金持ってる男と結婚したけど俊吉が良かったと思ってるんだよ!」って。爆発しないからだよね。
◆のあ:そっか、お源は1回、磯吉に対して爆発してるのか。泣いたりとか。爆発したのにダメだから、死んでるっていう、諦めがあるからね。
◆スズキ:そうそう、解決しようとしてるから。照子は翌日も平静を装おうとしてるじゃん。
◆のあ:でもこれがわりと現実じゃない? 『竹の木戸』みたいなことってなかなかないじゃん(笑)
◆スズキ:『竹の木戸』な日常はイヤだよ(笑)

 

 

ーだからイヤなんです。

 

◆スズキ:日常だからこそ、リアルで、なんかイヤなんだろうね、生々しくて。
◆梅田:そうそう。それなのよ。何回か、喧嘩したのに、翌朝、何事もなかったようにする場面、よく出て来るじゃない?
◆スズキ:夫と信子もそうだし、照子と信子もそう振る舞うね。
◆のあ:わたしね、そういうのできないかもしれない。「朝が来たから」「寝て起きたから」っていう理由で、話し合いに決着が着いてないのに、切り替えようと思ったことがないかもしれない。納得するまでは。翌朝も、続きを話しちゃうような気がする。「昨日のこと、わたしも悪かったけど、あなたはここに関しては謝ってほしいんだけど」って(笑)
◆梅田:僕もわりとそうなんだけど。理屈っぽいから。何か一緒にやる人と、モヤモヤはしたままやりたくはないじゃない? でも多分、この人たちは、本当に仲良くなってなくて、お互いを取り繕ってるから、そこで切り替えができちゃうんじゃないかな、って僕は思った。
◆スズキ:波風を立てないようにしているっていう。
◆のあ:気に入らないポイント話し合ってまで一緒にいたい間柄じゃないのかな。どうなんだろう、これって日本的ってことなのかな。なんか、現代だと、ハッキリ言うのは欧米風の考え方で、ぼかすのは日本風なイメージあるけど。逆にこれは、近代化してるってことなのかな。
◆スズキ:あ、どうなんだろう。江戸時代ならハッキリ言うのが文化なのかもしれない。だって、これ『竹の木戸』のお徳とお源だったら、黙っちゃいないでしょ? あそこまで行くと、理解できないじゃん。
◆梅田:そうね。「あんたぁ! 俊さんと庭にいたらしいじゃないか!」「まぁ勘弁しておくれよ!」ってね。目で殺し合っちゃうからね。
◆のあ:っていうと、近代化の象徴である大庭家に近いメンタリティーなんだろうね。お清さんとか真蔵とか。事なかれ主義に寄っている。
◆スズキ:ノーブルな人たちなんでしょうね。
◆梅田:そりゃそうでしょう。間違いなくノーブルな人たちだよ、信子さんとか夫さんとか。
◆スズキ:女学校行った後、大学まで出ちゃってさ。一橋とか。エリートだよ。

 

ー夫はエリートだけど、信子の趣味には理解が無いね。

 

◆のあ:これ、朝ドラの『花子とアン』を思い出すんだ。仲間由紀恵さんの夫役が吉田剛太郎さんで。商売で成り上がったお金持ちだけど、元々そんなに教養が無いから、妻の趣味に理解が無くて。着物とかアクセサリーは買い与えるけど、妻が何に興味を示して燃え上がっているのか、共有することができない。結局、妻は文学青年と駆け落ちする。
◆スズキ:別の生き物みたいな感じなんだろうね。
◆のあ:でも、ドラマの設定だと、彼なりに、妻のそういう面への憧れはあって、「俺は解ってやれないけど、あいつは本を読んでる時が一番幸せそうな顔をしているんだ」みたいな場面があるんだよね。
◆梅田:なんやねん! なんやねん!
◆のあ:ただし、信子が夫とは違う世界にいるとして、じゃあホントに俊吉と同じ枠の生き物なのか、信子が俊吉の世界に入れているのかっていう話だよね。

 

ー信子と夫は別行動?

 

◆のあ:ねぇ。すっごくどうでもいいことなんだけど、気になってることがあって。信子が俊吉と照子の家に泊まることになった場面あるじゃない? 「夜が更けて、とうとう泊まることになった」って。これ、どうやって夫はそれを解るのかな? 携帯かな? メールかな?
◆スズキ:あぁ。
◆のあ:現代だったらすぐ連絡して「今日泊まりになったー」とか言えるけど。この時代は何だろう? 時間決めてどこか喫茶とか旅館とか、電話あるところで電話入れるのかな。それか、「あれ? 妻、帰って来ないな。泊まりか!(納得)」ってなるのかな。心配じゃないのかな。
◆梅田:夫、忙しくしてるんでしょ。これは夫の出張について来たんでしょ、信子は。
◆スズキ:そもそも、東京に着いた後、別行動とか? 信子は実家にいて、そこから照子の家に来たとか。
◆のあ:別行動なの!?
◆スズキ:別行動なんじゃない?
◆梅田:夫はなんだか所用が沢山あって。構ってられないんじゃない?
◆のあ:構ってあげてよ(笑)
◆梅田:いやぁ、よくあるサラリーマンなんだと思うよ。そういう旦那を甲斐甲斐しくしく支えるのがいい妻、っていう。

 

 

ー夫だけ名前が無いよ!

 

◆梅田:こないだね、かおりん(Caori)と一緒に帰っててね、電車の中で「3人は役名があるけど、梅ちゃんだけ名前が無いね。夫じゃん」って言われて。「そうだね、名前が無いね!」って話をしてたの。僕だけ名前が無いの。
◆のあ:じゃ、付けよう。何がいい? 駿介?
◆スズキ:俊吉と駿介か。
◆戸塚:登場人物の半分が俺みたいになるじゃん。
◆スズキ:紛らわしい〜(笑)
◆のあ:じゃあかおりんは戸塚信子か。
◆スズキ:俺の妻は照子でしょ。
◆のあ:あ、そうか。
◆スズキ:紛らわしい〜(笑)
◆梅田:かおりんとは、「夫に名前が無いのは、ジェネラリーな、オーディナリーな、概念としての「夫」なのかな」って話してたんだ。
◆のあ:そういう大事な話は、電車じゃなくて稽古でしてよっ(笑)
◆梅田:たしかに。すまんっ(笑)
◆スズキ:『竹の木戸』の「老母」とか、「細君」とかと同じポジションじゃないかな。役割の方が重要なんじゃない?
◆のあ:そう考えると、『竹の木戸』の「礼ちゃん」「金公」「初公」は、出てすら来ないくせになんで名前あるんだろうね(笑) あえて出て来ない癖に周辺環境にリアリティーを増幅させるためかなぁ。
◆スズキ:命名基準が不思議だよね(笑)
◆梅田:でもね、この作品の夫は、やっぱり名前を付けたらダメなんだよ。僕、それは解る。その人の個性とか人格とか考え方が大事な訳じゃないから。世間一般の、この時代の「夫代表」だからさ。
◆のあ:あ、そっか。それで解った。礼ちゃんのことって、「礼ちゃん」って呼び掛けなきゃいけないじゃん? 本人に。「おい、そこの子ども」って呼べないじゃん? 金公のことを「おい、友人A」とは呼べない。お徳のことも「おい、女中」とは呼べないんだよね? でも、「ご隠居様」「奥方様」「親方」「増屋さん」は、そのままそう呼べる。真蔵のことも、「旦那様」とは呼べるけど、真蔵にはパーソナリティーがあるから、名前が付いてるんだね。この『秋』の夫は「あなた」「旦那様」「主人」って呼べれば、誰であってもいいってことだよね。
◆梅田:そうそう、真蔵は、いわゆる夫じゃないんだよ。
◆スズキ:ちょっと、まんま、作者っぽいポジションだったね。
◆梅田:そう、なんか典型的ではない性格を有していたじゃない? もし明治然とした、「1言ったら、みんながいっせいに言うこと聞く」っていうような、家父長制の、強い夫だったとしたら、明治代表の「夫」って呼ばれるかもしれないけど。そういう人じゃないし。真蔵っていうキャラクターの特異さの方が色濃く表現されてて、そこが描写されてて。でも、この夫の行動は、さもありなんって感じ。
◆スズキ:仮名付ける?
◆梅田:竹内涼真。
◆スズキ:出た(笑)
◆のあ:わたしはねぇ、昔だったら高嶋政伸さんとかだと思ってたの。でも今は凄いことになっているからなんか違うね。
◆梅田:あの人はもう妖怪の領域になっちゃったからね。ねぇ、あの人って、あんな人だった!?(笑)
◆のあ:あと、ちょっと年齢高いけど、チームナックスの安田顕さんとか。綺麗で神経質な感じの人がいいね。
◆梅田:牛乳鼻から吹き出す人か。
◆のあ:その情報無かった(笑) 同じチームだけど戸次さんでもいいね。
◆梅田:解るー。
◆スズキ:半沢直樹は?
◆梅田:あれはむしろ俊吉じゃないかな。
◆のあ:「半沢直樹」なら、むしろ滝藤さんが夫さんじゃないかな。

 

ー関西人が卑しいって酷いよね。

 

◆梅田:これは完全に芥川龍之介の偏見でしょ(笑)
◆のあ:これって、歯が抜けてて、赤いキャップ被って、ビニル袋持って、カニ道楽の前にいるおっさんのようなこと? 自動販売機の裏側とかからフラッと出て来るおじさんのこと?
◆梅田:ピンポイントだね。凄い解るけど。卑しそうだけど(笑)
◆スズキ:でも、夫さんのさ、下卑た同僚たちと意外に話が合うっていうシーンあるじゃない?
◆のあ:あったっけ?(笑)
◆戸塚:え。あったっけ……?
◆梅田:あら、そんなのあったっけ?(笑)
◆スズキ:あったよ! あ、ここ、ここ。ほら、この神戸の、舞子に行った時のこと。同僚たちとうまくやってて。信子からすると相容れない、理解できない、イメージ悪い人物たちと、意外に上手くやっているっていうか「気が合うらしかった」って書いてある。きっと、飲んだくれて「うちの嫁がさぁ」とか言うタイプなんじゃないかな。
◆梅田:そういう人って大正時代からいたんだね。
◆スズキ:ホントそう! いたんだよ!
◆梅田:受け継いでいるね、サラリーマンの遺伝子を。
◆スズキ:脈々と!
◆梅田:脈々とねぇ〜。イヤだわぁ〜。
◆スズキ:「嫁のいる家は牢獄だよ!」「小説書いてて襟が無いんだよ!」って。
◆梅田:当時からいたのか。
◆のあ:THE☆みんなの夫なのか。
◆スズキ:国民の夫。国民的夫だよ。
◆梅田:それ、なんか急に良さそうじゃん(笑)
◆のあ:芥川は、そんな夫を、ダサいというか、つまらん男だと思ってたんだろうね。
◆スズキ:うん。芥川は、俊吉側の視点から、夫を否定的な描写していると思う。

 

ー信子ってダメ主婦だよね。

 

◆スズキ:家事できない系じゃないかな。
◆のあ:当時は家にいて、全部できないとダメだったんだろうね。わたしね、この時代に、家事が無駄にプロフェッショナル化されたと思っている。女性が暇すぎて、家にいすぎて。アメリカの家電の広告とか、できる主婦の雑誌とか教本ができて、台所の設備が進化して、女学校が進化して。本来別にやらなくてもいい「やるべき」「すべき」「これがあるべき手本」っていうのが、ここでできちゃったんだと思う。現代も残っちゃってるし。
◆スズキ:「羽仁もと子」的な! ノウハウが蓄積されちゃったんだろうね。絽刺しとかね。
◆梅田:文学とかやっちゃってる時点で、ちょっと違う方に目が向いてるんだろうね。
◆スズキ:文学って、目に見える形で、生活に使い辛いからね。
◆梅田:文学やったら家事なんてできないよ。文学だもの。
◆スズキ:金にならないしな。
◆のあ:わたし、文学専攻だったんですが(笑)
◆梅田:あ、えっと、別に、何1つできないとは言ってないさ!(笑)
◆のあ:いやぁ〜結局できないんだなぁ〜(笑)

 

 

ー俊吉をどう演じるのか!?

 

◆戸塚:俺は、俊吉演じる上では、信子のことは別に従姉妹であるとか、文学の話をしている、ぐらいの認識でいていいんですよね。
◆スズキ:そうじゃないかな。
◆戸塚:これ、照子のことを好きかどうかも解らないですよね。
◆のあ:芥川は「自分の妻になる女は芸樹に理解が無いぐらいで結構」って言ってるから、ちょっとバカなぐらいが可愛いとか思っているかもしれない。
◆戸塚:多分、凄い恋愛結婚とかじゃないと思うんだけど。
◆スズキ:物足りないとか、信子の方が良かったとかは、思ってないんじゃないかな。
◆戸塚:うん、思ってないと思う。もし、本当に信子の方が良かったって思ってたら、俊吉なら、2人きりになった時に、信子に直接それを言っちゃうと思うんだよね。ただね、解らないのは、こいつが発する思わせぶりな発言とかが、特に意味が無く言ってるのか、それとも、意味があって言ってるのか。このシーンは難しそうです。
◆スズキ:芥川は解ってる。芥川は解ってるんだけど、俊吉は解ってないんじゃない? そこだよね。
◆のあ:俊吉が……解ってやってるなら……1番怖い説だよね。
◆戸塚:そう、怖いんだよ。
◆スズキ:そう、それはゲスいんだよ!
◆のあ:戸塚は、どうやるのがやりやすいの? 演技としては。解ってるていか、解ってないていか。
◆梅田:これって、俊吉が解ってやってると、もうお話が終わっちゃう気がする。「悪いのはコイツだ!」って。
◆戸塚:そうそう。聞く側が「もしかしたらこいつ解ってやってるのか?」って思うぐらいが丁度いいと思う。
◆スズキ:こっちからそれを出しちゃうとね。全体的に思わせぶりで、結論を出さない感じじゃん?
◆戸塚:結論を出さないことが、この作品の意義なのかな、って。
◆梅田:やっぱジャパ〜ンだよ。
◆のあ:でも、照子は、意外に「お姉様も好きだけど、俊吉さんは貰います」って、結構正直に言っていているよね。手紙だけど。
◆スズキ:そこが、照子の純粋であり、従順であり、弱い所でもあり、強みでもあるね。
◆梅田:そしてそれを知っていて喜ぶ、信子。ジャパ〜ンだね。
◆スズキ:そしてそれを知っていて弄ぶ俊吉だったら、もう許せないよ。
◆のあ:そして更にそれを解っている鶏。
◆梅田:鶏! 可哀想に! そりゃもう、2人が庭に来たら、寝たふりだよ(笑)
◆のあ:それか、母が黒幕だったら怖くない? 信子に縁談を持って来て、照子と俊吉をくっつけて、信子にそれを知らせる。
◆梅田:いいね、ホラーだね。

 

ーリアル俊吉の生態。

 

◆のあ:最近ね、心理を知りたいと思って、俊吉っぽいやつ3人ぐらいと友達になったんだけど。
◆梅田:お。どうだった?
◆のあ:やつらはやっぱり酒を好むね。
◆梅田:やっぱそうなんだよ。やつらには、酒なんだよ。
◆のあ:あと、やたら桜を見たがるね、この時期。
◆梅田:どうせね、夏になったら花火、秋になったら紅葉を見たがるよ、多分。そんで、冬になったら雪見したがるんだよ。理由なんて何でもいいんだよ、風流だったら。彼らが見たいのは、酒飲んでる自分だから。
◆スズキ:うわぁ。
◆のあ:よく解ってるね、その通りなんだよ。
◆梅田:俊吉はそういうやつだから。
◆のあ:あとまぁ、女たらしというよりは、本当に、根っからの人たらしだね。
◆梅田:そうそう、女だからって訳でもないんだよね、やつらは。
◆スズキ:やつらはね。人ったらし、解る。解るなぁ。
◆のあ:楽しそうでいいな、と思った。あんまり先のこととか考えてないっぽい。
◆スズキ:風来坊なんだね。
◆のあ:そう、その場が楽しくて、ほろ酔いで、桜が綺麗だったら、見たがるんだよ。見てる間が浮かれてて幸せなだけだから。
◆スズキ:だから、月見たくなるんだね。「いい月だよ」って、庭に行って、思い付きで鶏小屋見るんだろうね。全部気分なのかな。

 

 

ー従姉妹って結婚していいの?

 

◆戸塚:たしか、従姉妹は大丈夫なはず。
◆のあ:従姉妹っていいんだ! 現代でも?
◆スズキ:4等親離れてるのかな。おじさんはダメで、おじさんの子は大丈夫なんだよ。
◆梅田:ずーっと従姉妹同士が結婚する村とか、やばそうだね。そういう村さ、金田一耕助とかに出て来そう。従姉妹とは結婚しないなぁ、今の価値観で言ったらね。
◆のあ:親戚of親戚だもんね。
◆スズキ:今と親戚の捉え方が違うのかもね。

 

それいけ響け夫の声

 

引き続き、梅田節が炸裂しております。
後半は、まだ語られていなかった人物、信子の夫について!
梅田、出番です!

 

 

ー信子と夫は相性が悪い?

 

◆スズキ:信子がこんな浮ついた感じじゃ、夫も可哀想だね。
◆梅田:でもまぁ、夫さんはね、しょうがないのかな。この時代の男性だからさ。信子がちょっと不満に思うのも。
◆スズキ:まぁ浮気される典型パターンの夫だよね。
◆梅田:僕ならね、信子が本気で小説家になって物書きしようとしたらさ、「シャツぐらい自分でやるよ」ってなるよ。洗濯とかも自分でやるし勿論。
◆スズキ:えらーい!
◆梅田:いや当たり前だよ! でもそれは現代だからで。この時代は、男は男の仕事、女は女の仕事みたいなコモンセンス(常識)があるから、しょうがないのかな、って。
◆スズキ:考えてみるとさ、俊吉と照子のところには女中がいるでしょう? この夫も、女中を雇って、信子の仕事を応援するっていうやり方もあったはずだよね。
◆梅田:夫は常に「倹約したい」みたいなこと言ってたよね。
◆スズキ:そっか。こいつ倹約家だったんだ。ケチか。「ネクタイも、手作りより買った方が安いじゃん」的なこと言ってなかった?
◆梅田:ケチ、うーん……そうかもしれないけど。夫さんはねぇ、大阪行った時もさ、周りの人と比べて身綺麗な感じって書いてあったし。こだわりがあるんじゃないかな。ほら、この夫ってきっと、見た目がシュッと綺麗で、あの人みたいな……最近のイケメン俳優で、いない? ここの……顎にほくろがある人(竹内涼真)。
◆スズキ:あぁ! JRの青森のポスターの人(三浦春馬)?
◆梅田:ここにほくろがある人だよ(竹内涼真)。
◆スズキ:銀行だか郵便局だからのポスターの人(三浦春馬)?
◆梅田:あ、そうそう! シティーボーイ風だけど中身は古風な感じの人(竹内涼真)。
◆スズキ:あぁ、その人かぁ(三浦春馬)。
◆戸塚:今、検索したんですけど。「竹内涼真」ですよ。
◆梅田:それ!!(竹内涼真)
◆スズキ:それ!?(竹内涼真)
◆戸塚:違いました?
◆スズキ:そんなに若い人か(竹内涼真)。
◆戸塚:この人は仮面ライダーの人ですよ(竹内涼真)。
◆スズキ:そっちもほくろ付いてるんだよ(三浦春馬)。
◆梅田・戸塚:誰だ?
◆スズキ:そっかぁ、2種類以上いたのかぁ、くそぉ。
◆戸塚:2種類?
◆スズキ:この夫、現代だったら、ちょっと眉毛整えたりとか、うっすら化粧とかしてるんだろうね。お肌とか白くてね。
◆梅田:お風呂上がりにヘアバンド巻いちゃう、ネイルケアしちゃう、的な。
◆スズキ:お、でもヒゲ生やしてるんだよね。
◆梅田:そうね。
◆スズキ:さっきの俳優、ヒゲを生やしたらどうなるんだ?
◆梅田:やっぱり綾野剛?
◆スズキ:あ、確かに、あの人の顔の上、ヒゲ、時々いるね。清潔なヒゲなんでしょうね。無精髭じゃなくて。
◆梅田:そうそう、意図のあるヒゲだよ。意図のないヒゲとは全然違うよ。見たら判るもん。「あ、あのヒゲ、あえてのヒゲだな」「ただ生えてるだけのヒゲだな」って。トリミングってあるじゃん。
◆スズキ:いい人ではあるんだろうな。悪い人ではないと思う。
◆梅田:いい人なんだけど、あんまりよく見えてないんだろうね。

 

 

ー夫は一流大学のエリート

 

◆スズキ:夫は一橋大学だから、ちゃんとしてるのかな。一橋大学ってやっぱりそういう所なのかな。
◆梅田:お堅いんだろうね。早稲田とか慶応とはちょっと違って。
◆スズキ:俊吉って早稲田の文学部にいそうじゃない。
◆梅田:とりあえず、信子みたいな女性は、ICUにはいないね。
◆スズキ:そうね! 信子は、ICU生のように「今日は、楽だから。寮からジャージで学校来ちゃいました〜」みたいなこと、絶対しないね。基本ピンクとか白のコーディネートで、ちゃんとおしゃれに決めて来そうだね。
◆梅田:この中で唯一、ICUにいそうなのは俊吉かなぁ?
◆スズキ:意識高い系のICU生ね。
◆梅田:ICUにいるじゃない、たまに。俊吉みたいな罪深い人。モテモテの。
◆スズキ:いるね。
◆梅田:もう僕はね、両手を振って、大きな声で叫びたい。ほら! 周りをよく見て! みんなが不幸せになっていくよ! って。教えてあげたい。言ってあげたい。
◆スズキ:ほんと、なんなんだろうね、あの男はね。

 

ー夫のセリフを読んでみてどうですか?

 

◆スズキ:夫のセリフは前半のネチネチ感がいいですね。
◆梅田:僕さ、もうちょっとネチネチを強く出した方がいいのかな? って思ったんだけど、どう?
◆スズキ:確かにね、なんか、いい人が諭してあげてるみたいには聞こえがち。
◆梅田:もっとイヤな感じの方がいいかな?
◆スズキ:うーん、でもこれはまだ序盤だからさぁ、まだ少しはいい人感あってもいいのかなって思ったよ。
◆梅田:でも、なんか不満を漏らしてる感が足りないような感じ。ネチネチやると早くない?って感じ。ちょっと不満が出てきたぐらいはもうちょっとやった方がいいのかな、って。
◆スズキ:「いつになく」嫌味を言ったっていう書き方だからね。色の付け方って難しいよね。自分でやってる時と、録音したの聞いてみた結果も、聞いてみるとまた違ったり。

 

 

ー録音して気になった……こだまする! 僕の声!

 

◆梅田:僕の声ってさ……すっごい、こもっちゃうんだよね! 響くっていうの?
◆スズキ:あぁ〜。梅さんの声は、謎の反響みたいな感じあるよね。
◆梅田:戸塚くんの声って、遠くでもクリアに聞こえるの、音量が小さくなるだけで。
◆戸塚:そうなんですか? 考えたことないけど。
◆梅田:僕と戸塚君の声が同時に聞こえると、同じ部屋で録ったのに、マイクからの距離関係無く、2人は違う空間にいるんじゃないか、って思っちゃう。宇宙と工場とか。教室と洞窟とか。僕は1人でかまくらにでも頭突っ込んでるんじゃないかっていう。喋り方を変えればいいのかな?
◆スズキ:普段から響いてるから、声質の問題じゃない?
◆梅田:やっぱ!? 響いてる!? 何でだろうね!? 戸塚君の声は高かろうか低かろうが、遠かろうが近かろうが、クリアじゃない?
◆スズキ:「声を響かせるな」って、演技しててなかなか言われない指摘だよね(笑) 役者に要求することじゃないよ。本来、いいことなはずなんだけど(笑)
◆梅田:普通に喋ってるつもりなんだけどね、電車の中とかでも、一緒にいる人に「シーッ! 声大きいから!」って言われるんだ。すっげえ、聞こえてるみたい。周りの人にも。そんなに声出してるつもり無いのよ?
◆スズキ:やっぱ、入れ物の問題じゃない? 胴体とか、頭蓋骨とか。響くようにできてるんだよ、きっと。
◆梅田:え。空洞とかがあるのかな。
◆スズキ:体に空洞!?(笑) 他人より反響してるんじゃない?
◆梅田:自分でも、響いてるのが判るんだよね。アーアーアーーーー♪ これ裏声ね、アーーーーーッ!
◆スズキ:100%裏声だったら大丈夫かもしれないけど(笑)
◆梅田:地声は、鐘がゴーンってなってる感じよね。『竹の木戸』聞いててね、ほら、自分でイヤホン付けて聞いてるとね、気になったんだよ。他の皆さんとなんか違うんだよ、わたしだけ。
◆スズキ:『竹の木戸』の時は、録音した部屋が広かったから余計響いてたかも。天井とかに跳ね返って。でもね、いずれ聞く人が慣れるから。
◆梅田:聞く人って、この朗読シリーズを視聴する人?
◆スズキ:そうそう、「あ、この役、梅田さんだ。相変わらず響いてるなー」って(笑)
◆梅田:「梅田を覚えてください」って?(笑) 「1人だけ、いつもかまくらの中で喋ってる梅田さん」? 慣れてくれるかしら。あ、あと僕、「ラリルレロ」がダメなんだよね。あと、句読点の前が消えちゃうんだね。「ちゃんと言おう」って意識しないと。

 

ー夫は何歳なんだろう?

 

◆スズキ:例えば、この「襟飾りにしてもさ」の「さ」は、伸ばした方がネチネチ感が出るとか?
◆梅田:「その襟飾りにしてもさぁ〜」って感じ?
◆戸塚:なんか、語尾を伸ばしすぎると現代っぽいね。
◆梅田:そうだね。思ったより。
◆戸塚:若者っぽくなっちゃうかも。
◆梅田:あれ、待って。夫って何歳だったんだっけ? 信子よりは年上かな。
◆スズキ:夫は、高商を卒業したてなんでしょ?
◆戸塚:「出身」っていうだけで卒業したてかどうかは判らないですよ?
◆スズキ:学生時代に縁談が進んで、卒業と同時に結婚したんじゃないの? あ、違うか。信子が卒業する頃には、夫はもう働いていたのだとすると、23歳とか……? 信子とは、年齢近いのかな。
◆梅田:年齢差、どのぐらいなんだろうね。照ちゃんは、信子より4-5歳離れてるのかな。
◆スズキ:そんなに信子と年が離れてないわりには、夫の方が年上っぽいイメージあるんだよね。
◆梅田:信子を子ども扱いしてる感じがあるよね。当時の、「主人と奥さん」っていう立場もあるのかもしれない。

 

 

ーサラリーマンはつらいよ。

 

◆梅田:夫さんってさ、お酒はいつから飲んでたのかな。「初めて、お酒飲むなぁ、ドキドキ!」とか無さそうじゃん。俊吉は、「酒を飲むことが大人だ」「男のたしなみだ」みたいなので、かぶれてるっていうか。夫にとっては、そういう特別な物でもないし、日常の中に酒がありそうじゃん。僕が、夫のあんまり好きじゃない所はさ、酒臭いまま寝てさ、隣の信子が臭くて眠れなかったってさ、どうなの? って思う。
◆スズキ:梅さんはそういうことやらないのか。
◆梅田:いや、やる(笑) いや、昔だったらあるかもしれないけど! 今は、無い。正体不明になるまで飲んだりしないもの。
◆スズキ:夫さんは、仕事でイヤなことでもあったんじゃないの?
◆梅田:この人、多分、営業さんなんじゃない? 付き合いの接待とか。
◆スズキ:きっと体育会なんじゃない?
◆戸塚:この当時の会社員ってそういうのあるんですか?(笑)
◆スズキ:いっそうあるんだと思ってた。「俺の酒が飲めないのか」みたいなの。
◆梅田:そういうノリが伝統的なんだったら、大正時代にもルーツありそうだよね。日本が近代化してさ、明治時代でサラリーマンが出現してさ。サラリーマンたるもの何をするべきなのかが段々固まって来てさ。最終的に「接待」っていう所。
◆スズキ:こないだの『竹の木戸』で、主人公の真蔵がサラリーマンで、エリートだったから、この夫もエリートだよね、わりと。

 

ー夫は、何が楽しくて生きてるんだろうね……。

 

◆梅田:え。
◆スズキ:だって。
◆梅田:彼なりに何かあると信じたい!(笑)
◆スズキ:趣味って言えるもの、晩酌して経済新聞とか読んでるのしか出て来なくない?
◆梅田:彼なりの理想の生活が、まさにそれなんじゃないですか? でも、理想とは乖離してくるからイラッとくるわけで。
◆スズキ:「俺の理想の生活が、信子の小説ごときのために脅かされている」と。
◆梅田:そうそう、具体的な展望とかがあるわけじゃなくて、「慎ましやか」とまで言わなくても、彼なりの「テンプレートな結婚生活♪」っていうのがあって。経済の話題とか、食事したりお酒飲んだりしながら、そういう内容を喋り合ったりしてさ。
◆スズキ:へぇ……。

 

 

ーあんまり周りにいないタイプ?

 

◆梅田:あ、今思ったんだけど。あんまり、よっこ(スズキヨシコ)の周りに、こういう人いないんじゃないかな、って。環境的に。出会ったことがないのかもね、こういうタイプの人に。
◆スズキ:あぁ、そうね。多分、無い。言われてみれば。
◆梅田:俊吉タイプの方が、よっぽどいっぱいいるでしょ、周りに。
◆スズキ:いる! 俊吉は、いっぱい存在する。ちょっとずつ色んなタイプの俊吉がいる。意識して計算して俊吉な人、できてなくて天然で俊吉な人。基本、共通してチャラいんだけど。夫みたいな人が好きっていう人もいるだろうね、パートナーとして。
◆梅田:そうね。その後、どういう生活を一緒に送っていくのか、イメージしやすいんじゃない? そのうち夢のマイホーム買って、車買って、時々は旅行にも行って、定年になったら年金で楽しく暮らして、みたいな。もう、俊吉は、絶対にしないねそんなこと!
◆スズキ:あ、しないね。できないね。安定した人生とか。
◆梅田:年金というシステムそのものに、何かひとこと言っちゃいそうだよね。
◆スズキ:払うかどうかを検討しそうだね。