ののラジオのつくりかた|ラジオドラマを自主制作する方法

ののラジオ製作裏話
ののラジオ製作裏話

劇団ののがお送りする「ののラジオ」

どんな稽古をしているか
どうやって収録しているか
誰がどのように音源編集しているか

紹介します!

同様に低予算で朗読の稽古や収録している方の情報源になれば幸いです。

テキストはどうやって作っているの?

主に、青空文庫で閲覧できる、著作権が切れた日本近代文学などを選出しています。

  1. フォントや行間は、手に持って朗読をする際に読みやすくなるよう、やや大きくしています。
  2. 原文にて、旧漢字や旧仮名遣いになっている部分を現代仮名遣いに直します。
  3. 全ての漢字にふりがなを振ります。
  4. 場面が切り替わるところで、劇団のの独自に章を分けています。原作で「上・中・下」「一・二・三」などと分けられている場合は、それを尊重します。章を分けることによって、登場するキャラクターを把握することができ、稽古をしやすくなります。
  5. セリフ「 」の部分で必ず改行して、役の名前を書き込みます。
『注文の多い料理店』のテキスト
『注文の多い料理店』のテキスト

どのキャラクターがどのセリフを発したか、本文の中で明確でない場合があります。
例えば、上記の『注文の多い料理店』には紳士が2人登場しますが、どちらの紳士が発したセリフか、明言されていないため、稽古で話し合って、発言内容の傾向などを読み取りつつ、自分たちで決めました。
このようなことは、よくあります。

どんな稽古をしてるの?

以前は主に対面で行っていました。

メンバーの自宅や、公共施設の練習室、有料の貸し会議室などで、テーブルを囲めるところで声が出せるところであればどこでも、という感じです。

演劇の練習ではないので、そんなに大きな声を出す必要もなく、個室の居酒屋や公共施設のオープンスペースで、小さな声で読み合わせることもありました。

稽古風景の写真9枚

シーンごとに読み合わせては、シーンの状況、登場人物の気持ちなどを詳細に考え、どんな言い方をするかということをみんなで話し合って決めます。

劇団ののメンバーは年齢の幅が10歳程度ありますが、年齢・バックグラウンド・経験値などにかかわらず、参加するメンバー全員が、自由にアイディアを出し合っています。

わからないことがある時には、その場で、スマートフォンやタブレットを利用して、歴史的な背景や言葉の意味を調べます。

例えば、明治時代に書かれた小説に、「低い声で」「声を低めて」と書かれていた場合、声のトーンを低くするのではなく、当時の意味では、小さな声を表していることがわかりました。
また、大正時代の小説に「どうして」というセリフがありましたが、これは、現代の「なんで? どうして?(Why?)」ではなく「どうやって? どのような方法で?(How?)」という意味なので、ちゃんとそう聞こえるように読む工夫が必要です。

体を動かせる稽古場の時は、立ったり座ったり実際に動いてみました。
文に書かれている距離や体勢を再現したり、セリフを言いながら立ち回ったりしながら、「あぁ、この距離だともっと大声で呼びかける感じだね」「かがんでるからそんなに声が出せなさそう」などと、発声のしかたを知ることもありました。

こういった読解から、演技の方向性を決めることが多々あります。

演技は、基本的には本人の持ち味を大事にするスタイルですが、メンバーの中にアナウンスや朗読の基礎を学んだ人がいるので、たまに技術に特化した個人練習の時間を設けることがあります。
言葉の発音やアクセントなどを、アクセント辞典で調べることもあります。(劇団ののでは、なるべく平成以降に誕生した、いわゆる「若者言葉」にならないように読んでいます。)

演技をするため実務的な話し合いや学びをしているだけではありません。
「このシチュエーション、最近見たこの映画に似てて……」「わたしの友達に、このキャラクターにそっくりな人がいて」「わかる、こういう人いるよね〜」と、ラフな雑談もたくさんしています。

このような稽古のプロセス・議論の内容も、コンテンツの一種としてブログ記事の形で掲載しています。

また、稽古場で調べた古い言葉の意味や歴史的背景などについて、各作品ごとに記事を掲載しています。

配信している音源の後半がラジオ番組のようなフリートーク形式になっていますが、ラフな雑談の内容は、稽古から生まれたものがほとんどです。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、Web会議システムでの稽古が定番スタイルになりました。

今は、世の中ではZoomが主流でしょうか。
Zoomを試してみたこともありますが、劇団ののでは主にSkypeを利用しています。
オンラインでの稽古はタイムラグが気になるところですが、なんとなく、音声のタイムラグがZoomよりも小さい気がしたからです。
正確な検証結果とは言えませんが、今のところ、3〜6人程度で、全員カメラオンで、録画しながら稽古をしていて、Zoomのように参加者の誰かの声が遠くなったり雑音まじりになったりすることはなく、クリアな音声で稽古ができていると感じています。

今までは、同じ空間で相手の息遣いや表情を感じながら、生の声でやりとりしていたため、最初は戸惑いもありましたが、わりとすぐに慣れました。
陽気なメンバーなので、背景の画像で遊んだり、スタンプを送ってみたり、それなりに楽しんでいます。

Web会議室システムの画面のイメージです(マイク・カメラのイラストの出典:Icooon Mono

Web会議システムで稽古することの利点は、遠方のメンバーが参加しやすいこと、簡単に録画を録っておけることと、チャット欄を使用できることです。
チャット欄は、稽古中に配役をメモしておいたり、その場で調べたことのリンク先を共有したり、便利に使っています。

実際のチャットの使用例

どうやって収録しているの?

収録時の防音がしっかりしているほど、音源の質が高くなり、編集で雑音をカットする手間を省くことができます。

場所は、公共施設の音楽練習室・スタジオなど、多少の防音設備があるお部屋をお借りしています。
初期はメンバーの家で録っていたこともありましたが、やはり、通過する救急車・飛行機・車の音、犬・カラスの声など、外からの雑音が結構入ってしまいます。

1人で朗読配信をする方の中には、ご自分のお部屋の中で手作りで防音の環境を作る人もいらっしゃるようですね。
劇団ののは3〜6人ほどでいっきに録ることが多いので、今のところ、自宅では難しそうです。(誰かがめちゃくちゃお金持ちになって防音設備を作るまでは……

マイクは、Sureの有線・ハンディのダイナミックマイク(2万円以下)を1人1本、使用しています。
接続用のキャノン(XLR)ケーブルは、メンバー同士が離れて使用できるよう、長めのものを購入しました。

マイクを使用するキャストの写真
マイクを使った稽古の様子

最初は、防風カバーとしてタオルや雑巾などを使用していましたが、現在は100円ショップで売っていた家具の足用の靴下(パンダ柄)を被せています。
「スポンジを買えば?」と思うこともありますが。

また、破裂音の「ぱぴぷぺぽ」や吐息の「はひふへほ」などがマイクに入って雑音になってしまうため、以前は、100円ショップのアミジャクシを凧糸などで固定してかざしていました。
アミジャクシとは、アク取り用のメッシュのオタマで、我々は愛情をこめて通称「オタマ」と呼んでいました。
それなりに効果はありました。

譜面台に固定したマイクにタオルを被せた写真
初期の奮闘(悪あがき)の様子
マイクにおたまとソックスをつけた様子
中期の奮闘(悪あがき)の様子

これは、当たり前なんですけど、オタマそのものが「ガシャーン」と音を立ててずれて大変だったので、本物の「ポップガード」を買って、今ではとても快適にポップ音をガードしています。
うちでは、クランプ式で、マイクスタンドに取り付けて、アームを曲げるタイプのものを選びました。
1000円前後で入手可能です。

マイクスタンドは、卓上用の、プラスチックの足がついた小さな物を購入しました。
こちらも、簡易なものであれば1000円台で購入可能です。
卓上に置くタイプの場合、キャストが少し机に触るなど、ちょっとした振動で雑音が入ってしまうのが難点です。
公共施設に背の高いものや長いものがある時は、使用することもあります。

現在の完成形

さて、録音機器ですが、初期には、ご厚意でお借りしたTascamのICレコーダーに、直接マイクをさして収録していました。
ICレコーダーには、最高2本までマイクをさせます。
キャストが4名いるときは入れ替わりで使い回したり、2人で1本に向かって話したりしていました。
ICレコーダーは小さいので持ち運びは便利です。

2人1組でレコーディングの様子
2人ひと組で収録

現在は、オーディオインターフェース(4〜5万円程度のもの)を購入して、PCに接続して収録しています。
マイクは、一度に4本させるようになり、さらにキャストごとに細かく音量調節できるようになりました。
また、PCのデスクトップ上で収録をモニタリングしているので、その場ですぐに音声クリップに名前をつけたり、失敗したクリップをその場で削除したり、すぐにクラウドにアップしたり、データ管理がとても楽になりました。
運搬は少々大変です。

収録がとても楽になりました!

音声ファイルは、WAVファイルにしています。
mp3形式で収録すると、元の音質が悪くて、編集時のクオリティーに差し障りがあります。

昔から変わらないのは、仲間によるモニタリングです。
その時、収録に同席している手が空いているメンバーで、台本を見て、言い間違いがないか、アクセントが間違っているところがないか、飛ばしている箇所がないか、チェックしています。
間違いを見つけたら、挙手をして、「今のところは◯◯じゃないかな?」と指摘をして、録り直しをします。
雑音が入った時も、「机が揺れたね」「ちょっとマイクに近いかもしれない」と気付いた点を伝えます。

モニタリングするメンバーの写真
紙の台本やタブレットでチェックします

キャストは、時には、ただ座って声を吹き込むだけでなく、役に合わせて寝転がった体勢で読んだり、立って読んだりすることがあります。
立って読むと、座っている時よりもお腹から大きな声を出すことができます。

ちなみに、フリートークのパートについては、スタジオなどで本編の収録をするついでに録ることもありますが、そこまで音質にこだわっていないため、オンラインで録ることが増えました。
Skypeを繋いだ状態で、各自、自分のパソコンのデスクトップ上で録音機能を使って、「せーの」で収録します。
トークが終了したら、各自クラウドにアップロードして共有します。

どうやって編集しているの?

編集は、メンバーが、分担して行っています。
興味関心などに合わせて、担当作品を決めています。

使用しているソフトはバラバラで、各自が使いやすいものを使っています。

  • WindowsやMacに元々入っているソフト(無料)
  • 比較的発展的な機能を有したフリーソフト(無料)
  • Adobe Audition(有料・もともと持っている)

まずは、収録したナレーションやキャストのセリフの音声クリップを、テキストの通りになるように順番に並べて、繋げ合わせます。
読み間違えたり、読み直したりしたところは、切り貼りします。
雑音を軽減したり、音量差を調節したりします。
雑音には、「サーッ」という空調の音や、紙の台本のページをめくる音などがあります。

次に、場面に合ったBGMを選んで、キャストの声に合わせて並べます。
音楽は、著作権フリー・商用無料などの条件で公開されている音源を使用しています。
Web上で、「BGM フリー」などのキーワードで検索すると、アーティストさんが楽曲を無償提供しているWebサイトが見付かります。

BGMは、場面転換や盛り上がりなど、演出の上でとても大事な演出要素です。
音源編集を担当したメンバーが口を揃えて言うのは、「実際に編集している時間よりも、『まさにこれだ!』という、ちょうどいい音楽を探している時間の方が長い」ということです。

最後に、作品の舞台として描かれている時代・場所・季節・時間帯などにふさわしい環境音、必要だと考えられる効果音を添えます。
これには、ちょっとした調べ物や、注意深い読解などが必要です。
劇団ののでは、作品の中に「バケツを持ち上げながら」「扉を開けました」などと書かれている場合、なるべくその音を再現しようとしています。
また、「正午になると」とあれば柱時計の音を12回入れたり、昼時に通る行商の声を入れたりと、作品の中で直接言及されていない音を想像で入れることもあります。

効果音についても、Web上で著作権フリーのものを探して使用しています。

これら、外部のWebサイトから素材を借用する場合は、利用規約をよく読んで、配信時のクレジット表記などにも注意しましょう。

劇団ののが目指している「音風景(サウンドスケープ)を再現すること」については、別途、詳しく紹介します。

ちなみに、オープニングとエンディングには、劇団ののオリジナルのタイトルコールを使用しています。

おまけ:低予算・小規模チームへのお役立ち情報

以上、劇団ののが活動開始時から現在までチャレンジして確立してきたプロセスを紹介しました!

無理なく継続できるやり方がベスト!

上記で紹介したのは、あくまでも劇団のの流の方法です。

どんな機材を使うか、どの程度手間を掛けて編集するかということは、人数・規模・予算などに合わせて変わるものなので、正解はありません。

劇団ののの場合は、収益を目的とした活動ではないため、「手間暇をかけること」は良いとして、「お金をかけること」を始めると、あまり続かなそうです。
例えば、もっとお金を掛けて、高価なコンデンサーマイクを使って、有料のスタジオで本格的なレコーディングをすることもできるのかもしれませんが、今のところは検討していません。

(まぁ、正直、かなり手間暇を掛けているから、活動期間のわりには発表している作品数が少ないのですが、「質を落として数をたくさん増やす」というのも、活動趣旨からはずれてくるので悩ましいところです。)

最後におまけとして、さらに少人数・安価の小規模で行いたいという人に向けて、お役立ち情報を紹介します。

あまり大変な方法を採用すると、継続するのがしんどくなってしまいます。
ご自分やチームに合った方法で、楽しく創作を続けてください!

マイク

それほど高音質にこだわらないのであれば、比較的安価なマイクやICレコーダー、スマートフォンの録音機能などを使用するのでもじゅうぶんでしょう。

雑音のある中で人間の声をきれいに録るためには、マイクが音源(人の口元)に近いことが必要です。
例えば、オンライン会議で使用するようなマイク付きのヘッドセットや、有線のピンマイクをICレコーダーやパソコンに繋いで録音するのも良いでしょう。

収録場所としてかなり静かな場所を確保できるのでなければ、広範囲の音をたくさん拾うタイプのものや感度が高い高価なものは避けた方が良いでしょう。

収録

収録は、なるべく騒音・雑音がしない場所が望ましいでしょう。
普段静かだと思っている場所も、マイクで収録してみると、意外に車の音や空調の音が入っています。
道路際や消防署の付近は避けましょう。
エアコンや扇風機など音が鳴る家電があったら、なるべくオフにしましょう。

また、会議室などの材質や広さによっては、自分の声が天井や壁に反響して返ってくることもあります。
自室で1人で行う場合は、段ボールや毛布などで自分の周りを取り囲んで狭い空間を作ると、音を吸収してくれるようです。(本格的に継続して取り組む場合は、簡易な防音用品を購入するのも良いのかもしれません。)

吹き込んだ声が割れている(録音できる音量の上限を超えている)と、編集でそれ以上よくなりません。
しかし、声が小さすぎると、雑音も大きく拾ってしまいます。
何回か試しに短い文を読んで録音して、イヤホンやヘッドホンで、聞き返しながら、声の大きさとマイクとの距離を適切に調節しましょう。

マイクに息が吹きかかるような話し方をすると、かなりの雑音が入ります。
特に「はひふへほ」「ぱぴぷぺぽ」の音には注意です。
どうしても息がかかってしまう場合は、マイクにタオルなどの布を被せましょう。

編集

有料ソフトにはたくさんの機能がついていて、細かい点で融通がきくので、高度で複雑な編集をしたい場合には、確かにとても便利です。
ただ、収益目的でない場合、ソフトの利用料にお金をかけるのはもったいないかと思います。
特に、単純にナレーションに音楽を合わせたり、ちょっとした効果音を足したりするだけの簡易な編集を行いたい場合は、PCに備わっている無料の編集ソフトでじゅうぶん良いものが作れます。
エコーをかけたりすることもできますよ!

無料のソフトにも、ナレーション全体の雑音をざっくりカットしてくれるノイズリダクションの効果が備わっているので、ぜひ使用しましょう。
賑やかな音楽を添える場合は、雑音はそれほど気にならなくなります。

編集する際の注意点は、静かな部屋で行うこと、編集中はパソコンの音量の設定を一定に保つことです。
条件をコロコロ変えると、完成品の音量やバランスが、「前半は小さいけど後半はやたら音量がでかいなぁ」「なんだか急にBGMが小さくなったな」というように、変わってしまうからです。

完成品は、いろんな環境で試聴することを推奨します。
例えば、静かな部屋で・PCで・高額なヘッドフォンで聴く場合と、電車の中で・スマートフォンで・イヤホンで聴く場合で、聞こえ方が変わるからです。

More

タイトルとURLをコピーしました