立つんだ吉田

今日は、夢野久作『きのこ会議』、小泉八雲『雪女』、そして宮沢賢治『注文の多い料理店』トークの収録日です。豪華3本立て!

吉田素子さん、あの打ち合わせの日から、翌日すぐに1人カラオケで、数時間、キノコたちの演じ分けを練習したそうです。
そして、喉を枯らしたそうです。何してるんだよ。

正直、意外でした。
打ち合わせの翌日の朝には、吉田さんはもう飽きているだろうと思っていたからです。
「今日は急にキノコに目覚めているけど、どうせ明日になったら、『めんどくさ、つーか、何、キノコって』または『え? キノコ? 何の話だっけ?』などと言い出し、この話は無くなるだろう」と、思っていたからです。
まさか、キノコについて調べたり、カラオケで練習するなどとは思っていませんでした。
吉田さんをここまで動かすキノコとは、本当に、一体何者なんでしょうか。

今日も気合いが入っており、収録する部屋を借りる2時間ほど前にロビーに集まって、練習と、念入りな打ち合わせをしました。
眉間にシワを寄せ、大変真剣なご様子。これは、ハツタケ村長を演じているところです。

吉田さんが、人生で真面目になる瞬間、それは、受験、冠婚葬祭、きのこ会議、だけです。

さてさて、いよいよみんなが集まり、収録です。

早く来てまで真剣にキノコキャラの最終調整していたことを告げると、スズキさんに、少し引かれました。
しかし、そんなことで、吉田さんはヘコタレません。
「え? なんで? 当たり前じゃん。練習するっしょ」と、キノコへの敬愛を曲げることはありません。
見てください、この良い姿勢。まるでテングタケだ。

ところで、今回のキノコたち、発言があるキャラクターには、それぞれ、演技の参考にした有名人さんがいます。
まず、ナレーションは、アニメ『はたらく細胞』のナレーションのコピー。
次に毒のないキノコさんたち。
ハツタケは、村長さんキャラ。ということで、おじいちゃん政治家さんを参考にしました。某村山元総理などでしょうか?
マツタケは、リーダーシップを発揮し、威勢や威厳もあるけど、どこか世間知らずで上品な感じが漂う。ということで、名優の高橋英樹さんだそうです。
シイタケは、アイドル。某AKBの前田敦子さんを参考に、可愛くモテモテな感じです。

と、ここまで毒気のないキノコさんたちは順調に来たのですが、毒キノコの一軍が来たところで、吉田さんのスランプが来ました。

毒気が足りない。
正義感を感じて、ヒーローっぽく聞こえてしまう。
マツタケの英樹との区別がよくわからない。

などなど、様々な問題点を指摘され。
ちょっと凹みました。
「なんだよ……ダメ?」

そこで、真剣な話し合い、試行錯誤を重ねた結果、「よし、仲村トオルさんだ」という結論に至りました。
この、仲村さんの再現率はちょっと凄いと思うので、ぜひ本編を聞いていただきたいです。あっちゃんの真似とかももちろん上手なんですけど、仲村さんの比ではないです。声が男性だったら結構モノマネでいいところに行くのではないかという上手さです。

ところで、今回のディレクター吉田さん。物凄い圧で、みんなを巻き込み始めました。自分が演じ分ける4人のキノコたちに加え、取り巻きの民衆キノコたちの、「そうだそうだ!」「いいぞー!」「その通り!」などというガヤが必要なのだそうで。
スズキさんも、ナレーションも、ガヤとして参加することになりました。
ちなみに、吉田さん本人も参加しているんですよねぇ……そして、1番ノリノリ。なので、吉田さんが力いっぱい演説して、それを吉田さん本人が泣き叫んで賞賛するという、よく分からない音声になっています。

『雪女』の収録のために来て、待っていた戸塚くん。
音を立てず、静かにコンディションを整える戸塚くん。
キノコに夢中になる8歳年上の大人を、虚無になって見守る戸塚くん。

自分に関係ないと思っていたら……

菌糸の魔の手が、伸びて来ました。
というわけで、途中から、唐突に男性キノコの声が入って来ます。
軽いパワハラの構図を目の当たりにしました。
しかし、突然の参加でもちゃんと真面目にやりこなすのが、戸塚くんです。

そして、『雪女』の収録も無事に済みました。

戸塚くんは、タブレットで朗読する派です。

栗田ばねさんが到着して、『注文の多い料理店』のトークも収録しました。

『注文の多い料理店』は、奇しくも、『きのこ会議』と通じる部分が色々あります。どちらも童話のようなファンタジーで、自然 VS 人間のお話になっています。が、それぞれ違う方に軍配が上がるんですよね、そこが面白いです。
音源編集をした栗田さんの製作裏話が面白く、今までで最大人数の4人トークなので、ぜひお楽しみに!

ところで。

どうした、吉田さん。

キノコターンが終わり、燃え尽きてしまったようです。
灰になった吉田。
立つんだ、吉田。
しかし、天を仰ぎ、どこか満足げです。
おつかれさまです、本当に。

さて。この後、ナレーターのノアにはもう1つの役目が残っておりまして。
実は、作品の前後に入る、テーマ音楽をバックに、タイトルコールをしているのは演出ノアなのですが。
「ハツタケ:吉田素子、マツタケ:吉田素子、シイタケ:吉田素子」と延々、全キャラクター分を読むという苦行を課せられました。
この音源は、笑いを堪えているのが丸わかりなのと、せっかく本人が笑いを堪えたのに、スズキさんと栗田さんの笑い声が普通に入っていたため、後日録り直しが決定致しました。
しかしまぁ。あれだけ「吉田素子」を連呼させられたのに、程なくして「加賀美もちこ」という芸名に、改名しました。ふざけんな。

きのこ愛が止まらない

夏の暑さも引き、しかし、まだそんなに秋めいても来ていない、中途半端な気候のある日。都内某所。キャストの吉田素子さんと、会いました。

色々話し終わった後、吉田さんから伝えられたこととは……

「そうえいばさ、夢野久作の『きのこ会議』っていうのがあって。ちょっと読んでみて」

と、いうことでした。

何せ吉田さんは、怪談シリーズを選んでくれたのですが。その時に配信した『縊死体』の作者、夢野久作さんの作品を読んでいて、これを見つけたそうです。

「こんなのあるんだ! 『きのこ会議』……なんて楽しそうなタイトルなんだ!」

と、吉田さんは、思ったそうです。そして読んでみると、これまた、はまってしまったそうです。

そこで、スマートフォンの画面で、一緒に青空文庫を読んでみたのですが。なんとたくさんのキノコが登場するのでしょうか。初めて見るキノコの名前が、たくさん並んでいます。

「いいね、いいね、これ劇団のので読んでみたいね」

と言うと、すかさず、

「わたしはね、このキノコたちの役を、全部自分でやるつもり」

と、吉田さん。

あ、もうそこまで決まっていたんですね、吉田さんの中では。 さっきまで、思い出した風を装って、「そういえば、こんなのもあった気がする。もし良かったらどうかな」みたいなテンションだったのに。

「うん。わたし、全部のキノコの役を、声変えて、演じ分けるから。全部を1人でやるよ」

ま、まじか。 この『きのこ会議』、前半はきのこたちが会議をしているんですが、後半に、人間の家族が登場するんです。4人家族。

「あ、そうそう、その家族の役もね、それも全員わたしがやるから。お父さんもお母さんも。娘も息子も。キノコたちとは、また違う感じで。トーン変える。

そ、そうか。 なんだろう、この堅い決心は。わたしは、未だかつて、こんなに意志の堅い吉田さんを、見たことがあるだろうか、いや、ない。

「でね、ナレーション部分はやってほしいんだけどさ。『はたらく細胞』っていうアニメがあるんだけど知ってる? あれのナレーションをコピーしてほしい」

わかりました。 演出は、見たことないアニメのナレーションをコピーすることになりました。

「でさ、いつも出してるテキストの、解説の部分あるじゃん? それには、こんな感じで……」

と、紙の隅に、なにやら、キノコの絵を描く吉田さん。

ん? じばにゃん?

「ポケモン図鑑みたいな感じで。キノコをキャラクター別に分けてね、特徴とか、分布とか、そういうのを書いてくわけ。毒の有無とか。きのこ図鑑的な?」

え、こんなにいっぱい出て来るきのこ、全部について調べるの……

「うん、調べる。わたしが調べるよ。あとさ、キノコ1つ1つに対して、まぁ、吉田が、このキノコについて思うひとこと、みたいな? キノコへのコメントをさ、書くよ」

すごい、なんだろう、このやる気は!?  キノコへのコメントについては、正直「書くよ」って威張るほどでもない投げ遣りな内容だが。しかも、2枚目にしてさっそく「No Image」なのが不安すぎるのだが。 しかし、今日の吉田さんは何か違うぞ。

まるで見えない力に突き動かされているようだ。この人は、一体何故そんなにきのこに惹かれているんだ!? 

たしかに、『きのこ会議』は面白いとは思うけど、そこまで熱心になるようなことなのか?

と、わたしはこの時点では内心、吉田さんのやる気に対して押され気味でおりました。

所変わって。

キノコの話が深まりそうだったので、一緒にお夕飯をいただくことに。

しかし、ここでまた吉田さんのきのこ愛が爆発。

「あれ? 季節限定メニューにするよね? まさか裏切らないよね?」

え? た、たしかに、見るとそこには2種類のきのこ料理が。ドヤ顔で期間限定メニューを奨励してくる吉田さん。

「ほら、やっぱ、キノコなんだよ」

何が?

「今、キノコがキテるんだよ!」

まぁ、旬の食べ物だからね。そりゃ巡ってくるよね。

「いや、いいんだよ、無理しなくて。他の好きな物、食べなよ」

食べづらいよ。普通のメニュー食べづらいよ。

もはや選択肢は2択しかないようだ……! 我々は、2つのキノコ料理を注文。

「で、どうする? 夕飯食べる流れになったけど、もう話すこと特にないね……結構全部決めたし……」

そうなんだよなぁ……。

「よし、わかった、フリートークで何を話すか、トピック決めておこう」

と、再びノートを取り出し、キノコのイラストを落書きしながら、思考を深める、吉田さん。

「キノコトーーク! え? どうする? 2人で何話そうね。キノコについて……キノコとの個人的な思い出とか。ある?」

思い出かぁ……(遠い目)

「ないか。わたしも、別にないよ」

わたしは思った。では、この人は何故そんなにキノコに思い入れを持っているんだろうか。思い出1つもないくせに。

「じゃあ……キノコ占いする? そんなあなたは、マイタケ! みたいな。動物占いみたいなやつだよ。クジ引いて、読み上げていく……あ! あみだくじ、どう? 辿っていくと、キノコのどれかにたどり着くんだよ」

それを、音声でやるのですか?

「とりあえずキノコ占いは決定で。っていうか、もう話すことなくない? あ、あと、キノコの豆知識とか。こんなレシピがおいしいとかね。じゃ、わたしキノココーヒーについて話すわ」

キノココーヒーってなんだろう?

「キノココーヒーね。あるんだよ、そういうのが。あ! そうだ! ……あ、いやぁ、でもこれはなぁ〜」

お、なんだ? どんなアイディアでも、キノコ占いよりはマシなのでは。

「や、キノコと言えばさ、きのこの山と、たけのこの里、どっちが好きか、っていう論争、あるじゃん?」

ん? それは……

それはお菓子の話であって、きのこの山は、キノコではない! もはやキノコの話ではないぞ!

「どっち派?」

大変言いづらいが、わたしは幼い頃より、生粋のたけのこ派なのでした……。 いや、どちらも好きなんですよ、出されたらどちらも食べるよ。2つ並んでたって、きのこを買うこともある。 でも、世界の終わりにどちらかしか残せないとか、無人島にどっちかしか持って行けないって言われたら、たけのこ派なんですよね。

「偶然にも今年さ、公式に、全国できのこVSたけのこの戦いがあって。たけのこ派が僅差で勝ったんだよね。日本人はもっとキノコに愛を持つべきだよ。それを訴えていこう」

吉田さん、気付け。

あれは、お菓子だ。

小麦とチョコでできたお菓子なんだ。1ナノグラムのキノコエキスも入っていないんだ。

「でもさ〜ぁ、あれ、キノコじゃないんだよな。お菓子なんだよな」

気付いたか。

「それはね、思ってた。でも他に話すことないから話そう。あとさ、うちらはさ、もうちょっとちゃんと、キノコについて学ぶべきだよね。とりあえず、まずは Wikipedia 読もう。だってさ、知らないこといっぱいあるよ。例えば、キノコって漢字あるじゃん? なんでたけかんむりなのかな、とか、気にならない? (検索)あ、くさかんむりだったわ! あっはっは! でもさ、なんで○○タケって言うのかな、とか、気にならない?」

たしかに。くさかんむりなのに。「しいきのこ」とか「まいきのこ」じゃなくて、「しいたけ」「まいたけ」っていうのは、何故なんだろう?

「ねぇ! 知ってた!? よく「ベニテングダケ」って言うじゃん。あれ、間違ってるんだって。竹は「青竹(あおだけ)」とか「真竹(まだけ)」って言うけど、キノコは濁っちゃいけないらしいよ!」

え、そうなの!?

そうそう、そういのを待っていたんだ。そういうのを話そう。 なんか、キノコに興味が湧いてきました。もっと調べようと思えてきました。 こうしてまた1人、キノコの魅力に取り憑かれた人間が増えていくのでした。

ところで、季節限定のキノコメニューでしたが、大変おいしくいただきました。

キノコいっぱい入ってるし。やっぱり、キノコってすごい美味しいですね。独特の強い風味と、噛みごたえ、でも柔らかくて。不思議な食べ物です。

お店のお兄さんも、キノコの風味に負けない独特さでした。吉田さんのお膳は逆さまに置かれました。

そして、わたしのデザートは、食べている途中で持って行かれました。「ごゆっくりどうぞ!」と言って、下げられてしまいました。
世の中は、まだ解明されていない不思議なことで、満ちあふれています。

5分の稽古で収録しちゃいました!

今回は、小川未明『遠くで鳴る雷』の収録!
この作品、ナレーションは、演出のあが務めました。
収録日に到着して、その日、初めて読みました。
練習してないんかい!
してないですね。

 

「なんか、もういいよ、大丈夫だよ、読めるよ、短いし」
と、オレオレ詐欺チームの誘い文句のように、スズキさんに言われ、
1回サラッと目を通して、ほぼほぼ、ぶっつけで録りました。

 

酷い話だ!

 

とはいえ、そのぐらいの気軽さ、手軽さ、身軽さで録れるのが、
単独(短編)作品の醍醐味かな、って思っています。
『竹の木戸』や『秋』のように、
大勢で「ああでもないこうでもない」と議論や稽古を重ねるのも一興、
1人で声のトーンやペース配分を考えてインスタントするのもまた一興。

 

で、迷ったのが、読み方です。

 

朗読にも、歌のボーカルのようなところがちょっとありまして。
同じ人がカラオケに行ったとしても、
ぱみゅぱみゅを歌う時と、SUPER FLYを歌う時で、
全部同じ自分の声、同じトーンで歌う人っていないと思うんですよ。
さすがに、完璧な物真似を目指したりはしなくても、
無意識に、雰囲気を本人に似せて歌ってるんじゃないでしょうかね?
そんなに歌がうまくないっていう人でも。

 

朗読やアナウンスでも同じことが言えると思うんです。
作品やニュースの内容に合わせて、声のトーンやスピードを、
意識的に、または無意識に、変えている人が多いと思います。
大御所俳優さん、人気声優さん、有名な朗読の先生とかは、
求められているコンテンツが、その人の声や癖そのものになるため、
また話は別なのでしょうけれど。

 

『遠くで鳴る雷』は絵本のような、児童向け文学です。

 

春に吉田素子さんが読んだ、芥川の『蜘蛛の糸』も、
児童向けに発表された作品ではありますが、
舞台が地獄だったり、仏教用語が多かったり、
口調も丁寧な言葉で、なんだか重厚感がありまして。
吉田さんの、深い、諭すような、落ち着きボイスが似合っていました。
「吉田素子ここにあり」って感じでしたね。
(ちなみに、吉田さんはポケモンとかディズニーに出て来そうな、
アニメっぽい可愛い声も出せます)

 

遠くで鳴る雷

 

さてさて、対して、このお話『遠くで鳴る雷』は、
ひたすら夏休みの絵日記みたいな、ほのぼのした雰囲気です。
教訓めいたものも見当たらないよ。
さて、どうしたものか。

 

直近でノアが読んだのは、芥川の『蜜柑』ですが、
これは、やや低めの声で、腹式呼吸で、真面目にやりました。
頭の中で常にNHKのアナウンサーを思い浮かべて読みました。
ちなみに推定48歳、黒髪ショートカット、グレースーツ、ファンデ白め、
英語ペラペラ、NHKスペシャルの戦争物常連、です。
知らんがな。

 

こんなこと考えながら読むの、ちょっとバカみたい、って思いますけど、
元の顔や声に個性や自信が無い人間っていうのは、
「鉄板」「必殺技」が無いわけです。
なんだか今まで蓄積した色んな引き出し開けてみたり、
新しくダウンロードしてみたりしないと、いけないわけです。

 

しかも、裏設定をしっかり決めたら、
それを徹頭徹尾、忘れないように演じきらないと、
途中でキャラ変わって来ちゃうんですよね。
技術が無いのも相まって、喉のポジションがブレブレになって、
急に声が低くなりすぎたり、気分で若くなっちゃったり。
物語の大筋の盛り上がりやペース配分と違うところで、
妙な違和感を感じる、変化が来ちゃうわけです。

 

そういえば吉田さんも、お釈迦様は小日向文世さんを、
カンダタのセリフのとこは千鳥の大悟さんを、
それぞれイメージして読んだらしいですが。
たとえ個性があっても、やっぱり妄想って必要らしいです。

 

さて、『遠くで鳴る雷』を『蜜柑』と同じNHKトーンで読んだら、
淡い淡い、夏休みの絵日記の水彩画が、
どんよりフランドル画のように重たくなっちゃいそう。
というわけで、ちょっと軽めの声と口調で行くことにしました。

 

どのぐらい軽くするか、で迷いましたが、
そうだ、NHK総合じゃなくて、Eテレにしよう!
という謎の横滑り。
「宮沢りえちゃんが、動物番組とかCMでナレーション当ててる風」
という謎の設定をダウンロードしてみました。

 

口角を上げたまま、ちょっと喉の奥めから、息まじりに声を出す。
母音に「 ゛」を付ける気持で。
基本、のほほんと楽しそうに読んで、
悲しそうな場面は、ちょっとしゅんとする。

 

これでなんとかなるだろう!

 

鬼監督スズキさんに
「はい、もういい? 読み方決まった? 行くよ!」
と、機材のスイッチをポチられ、
いざ、収録!

 

意気揚々と1ページ読み終わり、
早速つまずいたのが、セリフの部分です。
なんと、主人公の少年、二郎と、その母、登場!!!!!

 

おえ!?
これ、人が出て来るの?
そして、どっちもうまく読めません!!!!!!

 

これは、なかなか意外なアクシデントに足を取られました。
「1920〜1950年代の洋物の映画に出て来る親子」にしかならないんです。
すっごい、お金持ちのお家のボンと、上品なお母さんみたいな。
声に、どうしても角というか、輪郭、エッジがあるっていうか、
キーン、リーン、と響きみたいなものがくっきり出てしまうらしく。

 

いくつもの二郎、いくつもの母を試しましたが、
スズキさんに却下されました。
「いや、その二郎、絶対に金髪だろ、キュウリ育てないだろ」
「母、上流階級じゃん!」
このままでは、ドレスにつば広帽で紅茶をいただく母と、
セーラー服で子馬に乗る二郎になってしまう!!!!!

 

伝わらないと思うんで、絵にしてみたんですけど、
どうも、こんな感じの世界観になってしまうんですよ。

 

 

ファンの人には怒られそうですが、萩尾望都風に描いてみました。
数分で書いたので許してください。

 

そこへ、録音室の重たい二重スライドドアが、
ガラッ、ゴゴーッ!
と開いて現れたのが、救世主、吉田素子さんです。

 

スズキ「ねぇ」
ノア「母を読んでよ」
吉田「おう。え……は? あたし『秋』を読みに来たんだけど!?」

 

遠くで鳴る雷

 

ということで(?)吉田さんが母の役になりました。
自動的に(?)スズキさんが二郎ちゃんの役になりました。

 

 

酷い話だ!

 

この記事の冒頭で単独作品の魅力について語ったのに、
もう早速、矛盾して来ましたね。
そうです、これは、実は、複数名出演作品なんです!
あっははは!

 

『遠くで鳴る雷』のフリートークでは、そのお2人が、
当日、いきなり役を振られた理由はあんまり詳しく述べていませんが、
戸惑った心境を明かしています。

 

さて、スズキさん曰く、「飛び込み二郎ちゃん」ですが。
少年らしく、ピュアで、素朴で、いい感じですよね!
空気にフワーッと溶けていくような声が、子どもらしくて。
スズキさんって、日常でもよく、
不安そうな、困り眉のような表情をするのが印象的なんですけど。
キュウリへの心配をする感じがリアルです。

 

そんなスズキさんの演技に引っ張られ、
「無い母性が、出たよね!」という吉田さん。
こちらは、『トトロ』に出て来る、
サツキちゃんとメイちゃんのお母さんをイメージしたそうです。
時代が同じなので、まさにぴったり合っています。
包み込むような、落ち着いた、温かな母の声、素敵です。
ドレスじゃなくて、ちゃんと着物とか割烹着とか、してそうです。

 

まぁ伝わると思うんですけど、一応描いてみました。
そうそう、これだよ、これが求めてたお母さんと二郎ちゃんですよ!

 

 

ほんとに戸惑ったのかな? って思うぐらい、
やれって言われて、いきなり演じられるから凄いですよね。
トークで言わなければ、当日、突然役が決まったこと、
バレなかったと思うんですよね。
2人とも5分ぐらいしか練習してないですもん、ホントに。

 

この作品の見所、いや、聞き所? は、
いきなり振られて読んだ2人のセリフ部分のナチュラルさ、です!
自信持ってオススメします。