5分の稽古で収録しちゃいました!

今回は、小川未明『遠くで鳴る雷』の収録!
この作品、ナレーションは、演出のあが務めました。
収録日に到着して、その日、初めて読みました。
練習してないんかい!
してないですね。

 

「なんか、もういいよ、大丈夫だよ、読めるよ、短いし」
と、オレオレ詐欺チームの誘い文句のように、スズキさんに言われ、
1回サラッと目を通して、ほぼほぼ、ぶっつけで録りました。

 

酷い話だ!

 

とはいえ、そのぐらいの気軽さ、手軽さ、身軽さで録れるのが、
単独(短編)作品の醍醐味かな、って思っています。
『竹の木戸』や『秋』のように、
大勢で「ああでもないこうでもない」と議論や稽古を重ねるのも一興、
1人で声のトーンやペース配分を考えてインスタントするのもまた一興。

 

で、迷ったのが、読み方です。

 

朗読にも、歌のボーカルのようなところがちょっとありまして。
同じ人がカラオケに行ったとしても、
ぱみゅぱみゅを歌う時と、SUPER FLYを歌う時で、
全部同じ自分の声、同じトーンで歌う人っていないと思うんですよ。
さすがに、完璧な物真似を目指したりはしなくても、
無意識に、雰囲気を本人に似せて歌ってるんじゃないでしょうかね?
そんなに歌がうまくないっていう人でも。

 

朗読やアナウンスでも同じことが言えると思うんです。
作品やニュースの内容に合わせて、声のトーンやスピードを、
意識的に、または無意識に、変えている人が多いと思います。
大御所俳優さん、人気声優さん、有名な朗読の先生とかは、
求められているコンテンツが、その人の声や癖そのものになるため、
また話は別なのでしょうけれど。

 

『遠くで鳴る雷』は絵本のような、児童向け文学です。

 

春に吉田素子さんが読んだ、芥川の『蜘蛛の糸』も、
児童向けに発表された作品ではありますが、
舞台が地獄だったり、仏教用語が多かったり、
口調も丁寧な言葉で、なんだか重厚感がありまして。
吉田さんの、深い、諭すような、落ち着きボイスが似合っていました。
「吉田素子ここにあり」って感じでしたね。
(ちなみに、吉田さんはポケモンとかディズニーに出て来そうな、
アニメっぽい可愛い声も出せます)

 

遠くで鳴る雷

 

さてさて、対して、このお話『遠くで鳴る雷』は、
ひたすら夏休みの絵日記みたいな、ほのぼのした雰囲気です。
教訓めいたものも見当たらないよ。
さて、どうしたものか。

 

直近でノアが読んだのは、芥川の『蜜柑』ですが、
これは、やや低めの声で、腹式呼吸で、真面目にやりました。
頭の中で常にNHKのアナウンサーを思い浮かべて読みました。
ちなみに推定48歳、黒髪ショートカット、グレースーツ、ファンデ白め、
英語ペラペラ、NHKスペシャルの戦争物常連、です。
知らんがな。

 

こんなこと考えながら読むの、ちょっとバカみたい、って思いますけど、
元の顔や声に個性や自信が無い人間っていうのは、
「鉄板」「必殺技」が無いわけです。
なんだか今まで蓄積した色んな引き出し開けてみたり、
新しくダウンロードしてみたりしないと、いけないわけです。

 

しかも、裏設定をしっかり決めたら、
それを徹頭徹尾、忘れないように演じきらないと、
途中でキャラ変わって来ちゃうんですよね。
技術が無いのも相まって、喉のポジションがブレブレになって、
急に声が低くなりすぎたり、気分で若くなっちゃったり。
物語の大筋の盛り上がりやペース配分と違うところで、
妙な違和感を感じる、変化が来ちゃうわけです。

 

そういえば吉田さんも、お釈迦様は小日向文世さんを、
カンダタのセリフのとこは千鳥の大悟さんを、
それぞれイメージして読んだらしいですが。
たとえ個性があっても、やっぱり妄想って必要らしいです。

 

さて、『遠くで鳴る雷』を『蜜柑』と同じNHKトーンで読んだら、
淡い淡い、夏休みの絵日記の水彩画が、
どんよりフランドル画のように重たくなっちゃいそう。
というわけで、ちょっと軽めの声と口調で行くことにしました。

 

どのぐらい軽くするか、で迷いましたが、
そうだ、NHK総合じゃなくて、Eテレにしよう!
という謎の横滑り。
「宮沢りえちゃんが、動物番組とかCMでナレーション当ててる風」
という謎の設定をダウンロードしてみました。

 

口角を上げたまま、ちょっと喉の奥めから、息まじりに声を出す。
母音に「 ゛」を付ける気持で。
基本、のほほんと楽しそうに読んで、
悲しそうな場面は、ちょっとしゅんとする。

 

これでなんとかなるだろう!

 

鬼監督スズキさんに
「はい、もういい? 読み方決まった? 行くよ!」
と、機材のスイッチをポチられ、
いざ、収録!

 

意気揚々と1ページ読み終わり、
早速つまずいたのが、セリフの部分です。
なんと、主人公の少年、二郎と、その母、登場!!!!!

 

おえ!?
これ、人が出て来るの?
そして、どっちもうまく読めません!!!!!!

 

これは、なかなか意外なアクシデントに足を取られました。
「1920〜1950年代の洋物の映画に出て来る親子」にしかならないんです。
すっごい、お金持ちのお家のボンと、上品なお母さんみたいな。
声に、どうしても角というか、輪郭、エッジがあるっていうか、
キーン、リーン、と響きみたいなものがくっきり出てしまうらしく。

 

いくつもの二郎、いくつもの母を試しましたが、
スズキさんに却下されました。
「いや、その二郎、絶対に金髪だろ、キュウリ育てないだろ」
「母、上流階級じゃん!」
このままでは、ドレスにつば広帽で紅茶をいただく母と、
セーラー服で子馬に乗る二郎になってしまう!!!!!

 

伝わらないと思うんで、絵にしてみたんですけど、
どうも、こんな感じの世界観になってしまうんですよ。

 

 

ファンの人には怒られそうですが、萩尾望都風に描いてみました。
数分で書いたので許してください。

 

そこへ、録音室の重たい二重スライドドアが、
ガラッ、ゴゴーッ!
と開いて現れたのが、救世主、吉田素子さんです。

 

スズキ「ねぇ」
ノア「母を読んでよ」
吉田「おう。え……は? あたし『秋』を読みに来たんだけど!?」

 

遠くで鳴る雷

 

ということで(?)吉田さんが母の役になりました。
自動的に(?)スズキさんが二郎ちゃんの役になりました。

 

 

酷い話だ!

 

この記事の冒頭で単独作品の魅力について語ったのに、
もう早速、矛盾して来ましたね。
そうです、これは、実は、複数名出演作品なんです!
あっははは!

 

『遠くで鳴る雷』のフリートークでは、そのお2人が、
当日、いきなり役を振られた理由はあんまり詳しく述べていませんが、
戸惑った心境を明かしています。

 

さて、スズキさん曰く、「飛び込み二郎ちゃん」ですが。
少年らしく、ピュアで、素朴で、いい感じですよね!
空気にフワーッと溶けていくような声が、子どもらしくて。
スズキさんって、日常でもよく、
不安そうな、困り眉のような表情をするのが印象的なんですけど。
キュウリへの心配をする感じがリアルです。

 

そんなスズキさんの演技に引っ張られ、
「無い母性が、出たよね!」という吉田さん。
こちらは、『トトロ』に出て来る、
サツキちゃんとメイちゃんのお母さんをイメージしたそうです。
時代が同じなので、まさにぴったり合っています。
包み込むような、落ち着いた、温かな母の声、素敵です。
ドレスじゃなくて、ちゃんと着物とか割烹着とか、してそうです。

 

まぁ伝わると思うんですけど、一応描いてみました。
そうそう、これだよ、これが求めてたお母さんと二郎ちゃんですよ!

 

 

ほんとに戸惑ったのかな? って思うぐらい、
やれって言われて、いきなり演じられるから凄いですよね。
トークで言わなければ、当日、突然役が決まったこと、
バレなかったと思うんですよね。
2人とも5分ぐらいしか練習してないですもん、ホントに。

 

この作品の見所、いや、聞き所? は、
いきなり振られて読んだ2人のセリフ部分のナチュラルさ、です!
自信持ってオススメします。

 

たとえ空腹でも

 

夕方、スズキ家の書斎にて、フリートークの収録を行いました。
芥川の『蜘蛛の糸』と『蜜柑』についてです。

 

まずは、収録した音声を確認して、内容を思い出します。
トラックが沢山あるので、どれがどれかを選別するのが大変です。

 

台本と見比べながら、音声を聞いて、内容を確認します。

どうでもいいことですが、ここで発覚したのは、
『蜜柑』は、何も振り返らずに一発録りしたため、
「死亡広告」という単語を、がっつり「死亡報告」と読んでいたことです。
録り直しせず、編集で裏技を使ったので直っていますが、
耳を澄ませて聞いたら、違和感を発見できますよ!
(一体、何のお知らせでしょうね)
そして、「死亡広告」は語彙にも載っているので、チェックしてみてね!
(今のは重要なお知らせです)

 

吉田さんは、結構、何も覚えていません。
稽古のこと、収録した時のこと、作品の内容。
この時はお腹が空いたことで頭がいっぱいです。

ですが、マイクを握ると急に喋り出すので、とても不思議です。
何かのスイッチが入るそうです。

 

国民的夫

 

のあのえる、途中から合流しました。

 

ー最後は、風景で終わるんだね。

 

◆梅田:『竹の木戸』もそうだったじゃない? なんかこう、サーッと渋谷村全体の雰囲気みたいな。これは、地上から、空に向かっててさ。
◆のあ:樋口一葉の『たけくらべ』も、最後、花街の室内の空間の一輪挿しの映像から、グッと引いた外の世界の伝聞の話で終わるんだよね。
◆梅田:これは手法なのかね。
◆のあ:カメラをグッと外とか、上とかに向けるような終わり方の小説、確かに、多いかもね。
◆梅田:僕やっぱりそういうの考えちゃうね。気になっちゃう。
◆のあ:映像的な手法なのかもね! アニメの『アンパンマン』も最後、「じゃじゃじゃーん♪」ってエンディングの音楽流れて、夕焼けの山並みとかで終わるね(笑)
◆スズキ:『アンパンマン』(笑) 大河ドラマとかもそういうの多いかも。
◆のあ:1回明るいところから暗い所に行ったり、大きい所から細かい所に寄ったりね。映画の手法って文学から来てる感じあるよね。今、うちでは音声で忠実に再現するっていう活動してるけど、誰か、映像で忠実に再現するっていうの、やってしてほしいな。さぁ、したまえ。
◆梅田:「たまえ」? 「たまえ」と言ったね? 僕がするのかい?
◆のあ:うーん。じゃあ、ちょっと誰か有名な監督に頼もう。戸塚、ちょっと売り込んで来てよ。
◆戸塚:え、俺が行くの? イヤです!
◆のあ:頼んでも、「なんなんだろう、こいつら」って思われるだろうね。ていうか「なんなんだろう、あの戸塚」って思われるんだろうね。
戸塚:あの戸塚だってことは解ってくれてんのかよ、監督。
◆スズキ:良かったね。
◆梅田:ただこれ、話してたのはね、映像化するにしても、「綺麗な秋じゃないね」って話してたの。柿とか栗とか紅葉とかじゃなくて。黄ばんだ、秋の空。薄濁ってるから。
◆のあ:フランドル画の風景画みたいな淋しい感じだな。灰色と黄色が混じっているね。
◆梅田:もう、どんよりしちゃう。次はさ、花火が打ち上がるぐらい明るい物語にしよう。
◆のあ:この時代の文学って、ハッピーな話がなかなか無いよね。あったっけ。
◆スズキ:あ、無いね。思い浮かばないよ。
◆のあ:『舞姫』とか最悪だもんね。
◆梅田:最悪だね。

 

 

ー秋って言うけど、これって秋だけの話じゃないね。

 

◆のあ:結構長いスパンの話だよね。2年ぐらい経ってるね。
◆スズキ:そこが『竹の木戸』と違うね。あれは数ヶ月の話だから。
◆のあ:作品通して秋みたいなイメージ持ちがちだけど、実は結構、春、夏、秋、冬って一巡してて、それぞれの季節の話、してるんだけどね。
◆スズキ:でもさぁ、出て来る植物が松とか、ずっと夏も冬も真っ黒で、変わらないものがあるから。ずーっと、信子のつまらなさとか生活の単調さを出して来るじゃん? だから季節感とか時間の流れを感じ辛いんだよなぁ。
◆のあ:たしかに。

 

ーこの話、国木田独歩『竹の木戸』よりやるせなくなるの、何でだと思う?

 

◆梅田:僕は、あの話よりも、なんかすっごい、モヤモヤするの、これは。
◆スズキ:『竹の木戸』は、磯吉以外、わりと人間らしい感じがしたんだけど。
◆のあ:大庭家は、植木屋夫婦を切り離して、今後も何事も無かったように幸せに暮らしていくんだろうな、っていう、ハッピーエンドが半分残っている感じだったのかな。お源だけちょっと可哀想だったけれども。
◆スズキ:あれは、磯吉という特殊な人間による一時的な災害のお話だった気から。でも、こっちは、みんながみんな、解って行動した故のディザスターという風に見える。
◆のあ:お源もちょっとバカっぽい所があったもんね。自業自得っぽい所というか。解ってなくて体当たりで行動してる部分が。
◆スズキ:『秋』に出て来る人たちは、自分の投げた石がどんな波紋を呼ぶか解った上で行動してるから。そこがなんかなぁ。
◆戸塚:あ。『竹の木戸』の話は、ある程度、オチみたいなものが付いてるんだけど。『秋』は、俊吉に関してはちょっとよく解らないけど、姉妹中心に、みんなモヤモヤしたものを抱えたまま終わっている所が、ちょっとなぁ。
◆スズキ:なるほどね!
◆のあ:『竹の木戸』は、人間関係が2つ、完全にぶっ壊れて、縁が切れてるからね。そもそもお源が死んで夫婦関係が壊れるし、磯吉は大庭家と縁が切れて引っ越すし。でも、『秋』の人たちは、関係性の、と或る一部分は壊れたかもしれないけど、表面上の付き合いが続いちゃいそうな余韻があって。
◆スズキ:『竹の木戸』はフラストレーションが一度、爆発してるからね。『秋』でも、照子がもっとぶっちゃけたりしたら、スッキリしたのかもしれない。
◆梅田:照子はね、虫をね、あのヨコバイを! 潰せば良かったんだよ! ピシャンとね。それか、鶏が卵投げ付けるとか。「浮気してんじゃねーぞ!」って。それか、もう自死するか。そしたらスッキリするよ!
◆スズキ:激しいなぁ(笑) 俊吉と信子が庭から戻って来たら、照子が死んでるのか。
◆のあ:大量のヨコバイを食べてね。むしゃむしゃー!
◆梅田:え、ヨコバイ、家の中にそんなにいっぱいいたの?(笑)
◆のあ:信子も爆発すれば良かったんだよね。
◆スズキ:「譲ったんじゃねーよ、安全パイに逃げたんだよ! 金持ってる男と結婚したけど俊吉が良かったと思ってるんだよ!」って。爆発しないからだよね。
◆のあ:そっか、お源は1回、磯吉に対して爆発してるのか。泣いたりとか。爆発したのにダメだから、死んでるっていう、諦めがあるからね。
◆スズキ:そうそう、解決しようとしてるから。照子は翌日も平静を装おうとしてるじゃん。
◆のあ:でもこれがわりと現実じゃない? 『竹の木戸』みたいなことってなかなかないじゃん(笑)
◆スズキ:『竹の木戸』な日常はイヤだよ(笑)

 

 

ーだからイヤなんです。

 

◆スズキ:日常だからこそ、リアルで、なんかイヤなんだろうね、生々しくて。
◆梅田:そうそう。それなのよ。何回か、喧嘩したのに、翌朝、何事もなかったようにする場面、よく出て来るじゃない?
◆スズキ:夫と信子もそうだし、照子と信子もそう振る舞うね。
◆のあ:わたしね、そういうのできないかもしれない。「朝が来たから」「寝て起きたから」っていう理由で、話し合いに決着が着いてないのに、切り替えようと思ったことがないかもしれない。納得するまでは。翌朝も、続きを話しちゃうような気がする。「昨日のこと、わたしも悪かったけど、あなたはここに関しては謝ってほしいんだけど」って(笑)
◆梅田:僕もわりとそうなんだけど。理屈っぽいから。何か一緒にやる人と、モヤモヤはしたままやりたくはないじゃない? でも多分、この人たちは、本当に仲良くなってなくて、お互いを取り繕ってるから、そこで切り替えができちゃうんじゃないかな、って僕は思った。
◆スズキ:波風を立てないようにしているっていう。
◆のあ:気に入らないポイント話し合ってまで一緒にいたい間柄じゃないのかな。どうなんだろう、これって日本的ってことなのかな。なんか、現代だと、ハッキリ言うのは欧米風の考え方で、ぼかすのは日本風なイメージあるけど。逆にこれは、近代化してるってことなのかな。
◆スズキ:あ、どうなんだろう。江戸時代ならハッキリ言うのが文化なのかもしれない。だって、これ『竹の木戸』のお徳とお源だったら、黙っちゃいないでしょ? あそこまで行くと、理解できないじゃん。
◆梅田:そうね。「あんたぁ! 俊さんと庭にいたらしいじゃないか!」「まぁ勘弁しておくれよ!」ってね。目で殺し合っちゃうからね。
◆のあ:っていうと、近代化の象徴である大庭家に近いメンタリティーなんだろうね。お清さんとか真蔵とか。事なかれ主義に寄っている。
◆スズキ:ノーブルな人たちなんでしょうね。
◆梅田:そりゃそうでしょう。間違いなくノーブルな人たちだよ、信子さんとか夫さんとか。
◆スズキ:女学校行った後、大学まで出ちゃってさ。一橋とか。エリートだよ。

 

ー夫はエリートだけど、信子の趣味には理解が無いね。

 

◆のあ:これ、朝ドラの『花子とアン』を思い出すんだ。仲間由紀恵さんの夫役が吉田剛太郎さんで。商売で成り上がったお金持ちだけど、元々そんなに教養が無いから、妻の趣味に理解が無くて。着物とかアクセサリーは買い与えるけど、妻が何に興味を示して燃え上がっているのか、共有することができない。結局、妻は文学青年と駆け落ちする。
◆スズキ:別の生き物みたいな感じなんだろうね。
◆のあ:でも、ドラマの設定だと、彼なりに、妻のそういう面への憧れはあって、「俺は解ってやれないけど、あいつは本を読んでる時が一番幸せそうな顔をしているんだ」みたいな場面があるんだよね。
◆梅田:なんやねん! なんやねん!
◆のあ:ただし、信子が夫とは違う世界にいるとして、じゃあホントに俊吉と同じ枠の生き物なのか、信子が俊吉の世界に入れているのかっていう話だよね。

 

ー信子と夫は別行動?

 

◆のあ:ねぇ。すっごくどうでもいいことなんだけど、気になってることがあって。信子が俊吉と照子の家に泊まることになった場面あるじゃない? 「夜が更けて、とうとう泊まることになった」って。これ、どうやって夫はそれを解るのかな? 携帯かな? メールかな?
◆スズキ:あぁ。
◆のあ:現代だったらすぐ連絡して「今日泊まりになったー」とか言えるけど。この時代は何だろう? 時間決めてどこか喫茶とか旅館とか、電話あるところで電話入れるのかな。それか、「あれ? 妻、帰って来ないな。泊まりか!(納得)」ってなるのかな。心配じゃないのかな。
◆梅田:夫、忙しくしてるんでしょ。これは夫の出張について来たんでしょ、信子は。
◆スズキ:そもそも、東京に着いた後、別行動とか? 信子は実家にいて、そこから照子の家に来たとか。
◆のあ:別行動なの!?
◆スズキ:別行動なんじゃない?
◆梅田:夫はなんだか所用が沢山あって。構ってられないんじゃない?
◆のあ:構ってあげてよ(笑)
◆梅田:いやぁ、よくあるサラリーマンなんだと思うよ。そういう旦那を甲斐甲斐しくしく支えるのがいい妻、っていう。

 

 

ー夫だけ名前が無いよ!

 

◆梅田:こないだね、かおりん(Caori)と一緒に帰っててね、電車の中で「3人は役名があるけど、梅ちゃんだけ名前が無いね。夫じゃん」って言われて。「そうだね、名前が無いね!」って話をしてたの。僕だけ名前が無いの。
◆のあ:じゃ、付けよう。何がいい? 駿介?
◆スズキ:俊吉と駿介か。
◆戸塚:登場人物の半分が俺みたいになるじゃん。
◆スズキ:紛らわしい〜(笑)
◆のあ:じゃあかおりんは戸塚信子か。
◆スズキ:俺の妻は照子でしょ。
◆のあ:あ、そうか。
◆スズキ:紛らわしい〜(笑)
◆梅田:かおりんとは、「夫に名前が無いのは、ジェネラリーな、オーディナリーな、概念としての「夫」なのかな」って話してたんだ。
◆のあ:そういう大事な話は、電車じゃなくて稽古でしてよっ(笑)
◆梅田:たしかに。すまんっ(笑)
◆スズキ:『竹の木戸』の「老母」とか、「細君」とかと同じポジションじゃないかな。役割の方が重要なんじゃない?
◆のあ:そう考えると、『竹の木戸』の「礼ちゃん」「金公」「初公」は、出てすら来ないくせになんで名前あるんだろうね(笑) あえて出て来ない癖に周辺環境にリアリティーを増幅させるためかなぁ。
◆スズキ:命名基準が不思議だよね(笑)
◆梅田:でもね、この作品の夫は、やっぱり名前を付けたらダメなんだよ。僕、それは解る。その人の個性とか人格とか考え方が大事な訳じゃないから。世間一般の、この時代の「夫代表」だからさ。
◆のあ:あ、そっか。それで解った。礼ちゃんのことって、「礼ちゃん」って呼び掛けなきゃいけないじゃん? 本人に。「おい、そこの子ども」って呼べないじゃん? 金公のことを「おい、友人A」とは呼べない。お徳のことも「おい、女中」とは呼べないんだよね? でも、「ご隠居様」「奥方様」「親方」「増屋さん」は、そのままそう呼べる。真蔵のことも、「旦那様」とは呼べるけど、真蔵にはパーソナリティーがあるから、名前が付いてるんだね。この『秋』の夫は「あなた」「旦那様」「主人」って呼べれば、誰であってもいいってことだよね。
◆梅田:そうそう、真蔵は、いわゆる夫じゃないんだよ。
◆スズキ:ちょっと、まんま、作者っぽいポジションだったね。
◆梅田:そう、なんか典型的ではない性格を有していたじゃない? もし明治然とした、「1言ったら、みんながいっせいに言うこと聞く」っていうような、家父長制の、強い夫だったとしたら、明治代表の「夫」って呼ばれるかもしれないけど。そういう人じゃないし。真蔵っていうキャラクターの特異さの方が色濃く表現されてて、そこが描写されてて。でも、この夫の行動は、さもありなんって感じ。
◆スズキ:仮名付ける?
◆梅田:竹内涼真。
◆スズキ:出た(笑)
◆のあ:わたしはねぇ、昔だったら高嶋政伸さんとかだと思ってたの。でも今は凄いことになっているからなんか違うね。
◆梅田:あの人はもう妖怪の領域になっちゃったからね。ねぇ、あの人って、あんな人だった!?(笑)
◆のあ:あと、ちょっと年齢高いけど、チームナックスの安田顕さんとか。綺麗で神経質な感じの人がいいね。
◆梅田:牛乳鼻から吹き出す人か。
◆のあ:その情報無かった(笑) 同じチームだけど戸次さんでもいいね。
◆梅田:解るー。
◆スズキ:半沢直樹は?
◆梅田:あれはむしろ俊吉じゃないかな。
◆のあ:「半沢直樹」なら、むしろ滝藤さんが夫さんじゃないかな。

 

ー関西人が卑しいって酷いよね。

 

◆梅田:これは完全に芥川龍之介の偏見でしょ(笑)
◆のあ:これって、歯が抜けてて、赤いキャップ被って、ビニル袋持って、カニ道楽の前にいるおっさんのようなこと? 自動販売機の裏側とかからフラッと出て来るおじさんのこと?
◆梅田:ピンポイントだね。凄い解るけど。卑しそうだけど(笑)
◆スズキ:でも、夫さんのさ、下卑た同僚たちと意外に話が合うっていうシーンあるじゃない?
◆のあ:あったっけ?(笑)
◆戸塚:え。あったっけ……?
◆梅田:あら、そんなのあったっけ?(笑)
◆スズキ:あったよ! あ、ここ、ここ。ほら、この神戸の、舞子に行った時のこと。同僚たちとうまくやってて。信子からすると相容れない、理解できない、イメージ悪い人物たちと、意外に上手くやっているっていうか「気が合うらしかった」って書いてある。きっと、飲んだくれて「うちの嫁がさぁ」とか言うタイプなんじゃないかな。
◆梅田:そういう人って大正時代からいたんだね。
◆スズキ:ホントそう! いたんだよ!
◆梅田:受け継いでいるね、サラリーマンの遺伝子を。
◆スズキ:脈々と!
◆梅田:脈々とねぇ〜。イヤだわぁ〜。
◆スズキ:「嫁のいる家は牢獄だよ!」「小説書いてて襟が無いんだよ!」って。
◆梅田:当時からいたのか。
◆のあ:THE☆みんなの夫なのか。
◆スズキ:国民の夫。国民的夫だよ。
◆梅田:それ、なんか急に良さそうじゃん(笑)
◆のあ:芥川は、そんな夫を、ダサいというか、つまらん男だと思ってたんだろうね。
◆スズキ:うん。芥川は、俊吉側の視点から、夫を否定的な描写していると思う。

 

ー信子ってダメ主婦だよね。

 

◆スズキ:家事できない系じゃないかな。
◆のあ:当時は家にいて、全部できないとダメだったんだろうね。わたしね、この時代に、家事が無駄にプロフェッショナル化されたと思っている。女性が暇すぎて、家にいすぎて。アメリカの家電の広告とか、できる主婦の雑誌とか教本ができて、台所の設備が進化して、女学校が進化して。本来別にやらなくてもいい「やるべき」「すべき」「これがあるべき手本」っていうのが、ここでできちゃったんだと思う。現代も残っちゃってるし。
◆スズキ:「羽仁もと子」的な! ノウハウが蓄積されちゃったんだろうね。絽刺しとかね。
◆梅田:文学とかやっちゃってる時点で、ちょっと違う方に目が向いてるんだろうね。
◆スズキ:文学って、目に見える形で、生活に使い辛いからね。
◆梅田:文学やったら家事なんてできないよ。文学だもの。
◆スズキ:金にならないしな。
◆のあ:わたし、文学専攻だったんですが(笑)
◆梅田:あ、えっと、別に、何1つできないとは言ってないさ!(笑)
◆のあ:いやぁ〜結局できないんだなぁ〜(笑)

 

 

ー俊吉をどう演じるのか!?

 

◆戸塚:俺は、俊吉演じる上では、信子のことは別に従姉妹であるとか、文学の話をしている、ぐらいの認識でいていいんですよね。
◆スズキ:そうじゃないかな。
◆戸塚:これ、照子のことを好きかどうかも解らないですよね。
◆のあ:芥川は「自分の妻になる女は芸樹に理解が無いぐらいで結構」って言ってるから、ちょっとバカなぐらいが可愛いとか思っているかもしれない。
◆戸塚:多分、凄い恋愛結婚とかじゃないと思うんだけど。
◆スズキ:物足りないとか、信子の方が良かったとかは、思ってないんじゃないかな。
◆戸塚:うん、思ってないと思う。もし、本当に信子の方が良かったって思ってたら、俊吉なら、2人きりになった時に、信子に直接それを言っちゃうと思うんだよね。ただね、解らないのは、こいつが発する思わせぶりな発言とかが、特に意味が無く言ってるのか、それとも、意味があって言ってるのか。このシーンは難しそうです。
◆スズキ:芥川は解ってる。芥川は解ってるんだけど、俊吉は解ってないんじゃない? そこだよね。
◆のあ:俊吉が……解ってやってるなら……1番怖い説だよね。
◆戸塚:そう、怖いんだよ。
◆スズキ:そう、それはゲスいんだよ!
◆のあ:戸塚は、どうやるのがやりやすいの? 演技としては。解ってるていか、解ってないていか。
◆梅田:これって、俊吉が解ってやってると、もうお話が終わっちゃう気がする。「悪いのはコイツだ!」って。
◆戸塚:そうそう。聞く側が「もしかしたらこいつ解ってやってるのか?」って思うぐらいが丁度いいと思う。
◆スズキ:こっちからそれを出しちゃうとね。全体的に思わせぶりで、結論を出さない感じじゃん?
◆戸塚:結論を出さないことが、この作品の意義なのかな、って。
◆梅田:やっぱジャパ〜ンだよ。
◆のあ:でも、照子は、意外に「お姉様も好きだけど、俊吉さんは貰います」って、結構正直に言っていているよね。手紙だけど。
◆スズキ:そこが、照子の純粋であり、従順であり、弱い所でもあり、強みでもあるね。
◆梅田:そしてそれを知っていて喜ぶ、信子。ジャパ〜ンだね。
◆スズキ:そしてそれを知っていて弄ぶ俊吉だったら、もう許せないよ。
◆のあ:そして更にそれを解っている鶏。
◆梅田:鶏! 可哀想に! そりゃもう、2人が庭に来たら、寝たふりだよ(笑)
◆のあ:それか、母が黒幕だったら怖くない? 信子に縁談を持って来て、照子と俊吉をくっつけて、信子にそれを知らせる。
◆梅田:いいね、ホラーだね。

 

ーリアル俊吉の生態。

 

◆のあ:最近ね、心理を知りたいと思って、俊吉っぽいやつ3人ぐらいと友達になったんだけど。
◆梅田:お。どうだった?
◆のあ:やつらはやっぱり酒を好むね。
◆梅田:やっぱそうなんだよ。やつらには、酒なんだよ。
◆のあ:あと、やたら桜を見たがるね、この時期。
◆梅田:どうせね、夏になったら花火、秋になったら紅葉を見たがるよ、多分。そんで、冬になったら雪見したがるんだよ。理由なんて何でもいいんだよ、風流だったら。彼らが見たいのは、酒飲んでる自分だから。
◆スズキ:うわぁ。
◆のあ:よく解ってるね、その通りなんだよ。
◆梅田:俊吉はそういうやつだから。
◆のあ:あとまぁ、女たらしというよりは、本当に、根っからの人たらしだね。
◆梅田:そうそう、女だからって訳でもないんだよね、やつらは。
◆スズキ:やつらはね。人ったらし、解る。解るなぁ。
◆のあ:楽しそうでいいな、と思った。あんまり先のこととか考えてないっぽい。
◆スズキ:風来坊なんだね。
◆のあ:そう、その場が楽しくて、ほろ酔いで、桜が綺麗だったら、見たがるんだよ。見てる間が浮かれてて幸せなだけだから。
◆スズキ:だから、月見たくなるんだね。「いい月だよ」って、庭に行って、思い付きで鶏小屋見るんだろうね。全部気分なのかな。

 

 

ー従姉妹って結婚していいの?

 

◆戸塚:たしか、従姉妹は大丈夫なはず。
◆のあ:従姉妹っていいんだ! 現代でも?
◆スズキ:4等親離れてるのかな。おじさんはダメで、おじさんの子は大丈夫なんだよ。
◆梅田:ずーっと従姉妹同士が結婚する村とか、やばそうだね。そういう村さ、金田一耕助とかに出て来そう。従姉妹とは結婚しないなぁ、今の価値観で言ったらね。
◆のあ:親戚of親戚だもんね。
◆スズキ:今と親戚の捉え方が違うのかもね。