※底本は旧仮名遣いのため、『慄へる薔薇』
貧しいながらも、郊外の庭付きの家に引っ越した、若い画家の卵と、その新妻。
夫は、妻に苦労を掛けていることを身にしみて知っており、後ろめたさを感じているが、甲斐甲斐しく家事をして支えてくれる様子に、かえって素直になることができず、軽口ばかり叩いていた。
そんな中、彼の絵が展覧会で取り上げられ、絵を見た女性からファンレターが送られてくる。
芸術とは何か、芸術で出世してゆくこととは何か……静かな風景と静かな言葉のやりとりの中に、熱く強い葛藤と愛情が紡がれる。