書き換えてもいいですか?

本日前半の稽古は、江戸川乱歩の『指環』です。乱歩の書いた文章が、ひどい、という点についての、議論です。

 

 

栗田「この文章はひどいんだよなぁ。本当にひどい。結局ね、これをうまく読もうとしても、そもそも文章が下手すぎるから、どう読んだって、理解しづらい内容になるんですよ。前振りと落ちの関係がねぇ……。だから、なんとか、良くしたい」

ノア「でも、これって、内容をわかりやすくしようとすると、例えば、漫画とかドラマだとしたら、回想の部分を、説明ゼリフは良くないから、ってちゃんと回想シーンにするわけじゃん」

栗田「それは、ダメだ。それじゃあ、『指環』じゃなくなっちゃう。『指環』の枠組みっていうのは、会話だけっていうのが作品のポイントだから」

田島「会話を直していくの?」

栗田「そう。それと、なんで急にとってつけたような、べらんめえ調なんだよ! って思うけど、そこはかろうじて守って行くよ(笑)」

田島「それが『指環』の唯一のアイデンティティーだからなぁ」

栗田「そうなんだよなぁ」

 

 

ノア「1人が長く喋りすぎてるところを、ちょっと分割していくとかね」

栗田「そうだね。例えばね、ここだけど」

 

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A オヤ、これはおかしい。じゃ、何の為にあの蜜柑を窓から放り出したんだね。
B まあ考えても見ねえ。折角命懸けで頂戴した品物をよ。たとえ蜜柑の中へ押込んだとしてもよ。誰に拾われるか分りもしねえ線路のわきぞへ放られるものかね。おめえがノコノコ拾いに行くまで元の所に落ちていたなぞは、飛んだ不思議と云うもんだ。
A それじゃやっぱり蜜柑を抛った訳が分らないじゃないか。
B まあ聞きねえ、こういう訳だ。
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栗田「これね、耳で聞いてると、すごいむかつくんですよ。この部分で、いっこうに話が進んでないからなんだけど。なんで蜜柑を窓から投げたんだ? って問うてるんですよ、Aは。なのに、それに対してね、盗んだ品物を蜜柑に隠して投げるわけないだろ? って違うこと答えちゃってるんですよ。訊かれたことには、答えてないんだよ」

田島「だから、もう1回、Aが聞き直しちゃってるもんね」

栗田「そうそう。流れが汚いよね」

ノア「まぁ、Bが、話をはぐらかしはぐらかしして、答えようとしないっていう演出はあるかもしれない」

栗田「それがあるにしても、耳だけで聞いてると、わかりづらすぎるんですよね。例えばね、お笑いのライブのカーテンコールに出るじゃないですか。若手がみんなでワチャワチャ喋るんですけど。『今日の、○○のところ、最高に面白かったですよね!』って誰かが言う。その○○について話広げればいいのに、別の誰かが『そういえば、△△も面白かったですね!』って言い出しちゃって、これって実は、聞いてる方からしたら、全く話が進んでないんですよ」

田島「話が飛んでるだけですもんね」

栗田「そう。ちょっとセオリー守れば、整理できることだと思う」

田島「セオリーが無い時代だったのかな。と、思ったけど、乱歩が文章が下手だったっていうのは有名みたいで。評価としては、みんな下手って言ってるんですよ、当時から」

栗田「だって、時代って言ったって、漱石は文章読みやすいもんね。乱歩は谷崎潤一郎に憧れて真似をしたけども、あれは谷崎だけの個性だから、真似しちゃダメなんだ! って高橋源一郎が言ってるし」

田島「さんざんな言われようだなぁ(笑)」

ノア「芥川とかねぇ、上手だもんねぇ」

栗田「これも高橋源一郎が言ってるんですけど、芥川っていうのは、自分の個性とか思想と切り離して、言葉を使える人だったと。だから誰でも読み解けるんですよ」

田島「乱歩の文は個性の塊だもんなぁ」

 

 

ノア「じゃあ、もう本当に手を入れるっていうか、書き直すってことかな?」

栗田「そうなるかな。多分、出て来る話の順番をちょっと入れ替えたり、分けたり、統合したり。整理すればいいだけのような気がする」

田島「後半の流れ、整理したいな」

 

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Aが、いいかげん、しらじらしい芝居はやめようぜ、と言う。
Bが、「おまえこそ。俺はあの時、窓から蜜柑を投げたが、それを後から取りに行くなんて、なかなかやるじゃん」と言う。
Aは、「でも蜜柑には指環は入ってなかった。おまえが先回りして拾うなんて、さすがだ」と言う。
Bは、「投げた蜜柑は取りに行ってない」と言う。
Aは、「じゃあなぜ蜜柑を投げたのか?」と訊く。
Bは、「指環を蜜柑に隠して投げて、あとで取りに行くのは常套手段だが、その間、誰に盗まれるかもわからないのに、そんなことするわけないだろう」と返す。
Aが、「それじゃあ蜜柑を投げた意味がわからないじゃないか」と、もう一度、訊く。
Bは、「蜜柑を窓から放ってそれをAに目撃させておけば、Aはそのことを言いふらす。皆に、指環はもうここにはないと思い込ませることができるはず。しかし、Aは黙っている。ここで、Aがあとで蜜柑を取りに行くつもりなんだな、同業者か! ということに気付いた」と説明。
Aが、「でも、Bがまだ持っていたんだとしたら、なんで身体検査で見つからなかったんだ?」と不思議がる。
Bは、「Aの腰に下げたタバコ入れに隠させてもらった。そして、Aが改札口を出る前に抜き取った。蜜柑を取りに行こうと頭いっぱいのAは隙だらけで利用しやすかった」と種明かしする。
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田島「なんかこの、情報を小出しにしてる感が、ミスリードのつもりっていうか。大オチの部分を引き伸ばしてはいるんだけど……」

ノア「それがかえって、同じこと何度も言ったりしてて、時系列も行きつ戻りつしてるから、聞いてる方が迷子になるんじゃないかな」

田島「順番が前後するのは、まぁ、1つのことを別角度からなぞり直してるっていうのはあるかもしれないけど」

ノア「『こういうことだった』『いや、実はこういうことだったんだ』みたいな?」

田島「でもその戻り位置が不規則なんだよね。あとね、時系列で言うと、たまに話それるじゃん? この人たち。話がそれる時は、『ちょっと話がそれるのですが』っていうおことわりが最初にあると、いいのにね」

栗田「そもそもね、こんな短い短編の中で前後してるんじゃないよ! って言いたい。ミスリードっていうのはね、読む側が『あ、きっとこうに違いない』って思ったら違った、っていうのをやっていかなきゃいけないんだから。ミスリードもされてないもんね」

 

 

栗田「ここもひどいな」

 

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B おめえも中々隅へは置けないよ。あの時、俺がソッと窓から投げ出した蜜柑のことを一言も云わないで、見当をつけて置いて、後から拾いに出掛けるなんざあ、どうして、玄人だよ。
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栗田「これはさ、Aのことを褒めている体をなした、説明ゼリフだからね」

ノア「ドラマで多いよね。『3年前、おまえからの電話で、△△ちゃんが入院したけど、○○先生の手術で助かったって聞いた時は、嬉しくて泣いたんだぜ』みたいな」

田島「それそれ(笑) 日常会話って、お互い知ってる内容については、絶対言わないもんね」

栗田「しかも、大事なキーワードなのに蜜柑を投げたっていうエピソードが、ここで、この形で初出なのもむかつくよね。これ、後半の頭だよ」

田島「いきなりなんの話? って、頭が追いつかない」

ノア「前半で自分が聞き逃したのかな、って思っちゃうね(笑)」

栗田「いや、この出し方はないわ。前半でAが『あの時、蜜柑を勧めてくださいましたよね』って言った時、Bはそれをわりとスルーするんですけど、この時点でもうちょっと何か、トリックのキーワードとして、印象を残しておけばよかったのかもね。基本、ミステリーって、謎出し→謎バラし、の繰り返しじゃないですか。そこの構成はしっかりさせたいなぁ」

ノア「それで言うと、読む側/聞く側って、Aに感情移入したいじゃない?」

栗田「なんで?」

田島「Aに感情移入して、ミスリードされて、Bに種明かしされて、びっくりするっていうのが王道かな」

ノア「今は、まずAの目線に立つのが難しいからなぁ」

栗田「嗚呼もう。乱歩にもうちょっと理系の脳みそがあれば……!」

田島「それに関して、こんなエピソードがあって。乱歩がトリック全集を作ろうとしたんだけど、分類が下手で。1ジャンルの中にリストできるトリックが少ないから、結局ジャンルがどんどん増えてっちゃって、全然分類になってないじゃんって批判されてて。しかも、完成してないんですよ。乱歩の全てを表してる感じ」

栗田「乱歩は無駄が多いよね。乱歩全集っていっぱいあるんだけど、あんなに長いのは、無駄な文章が多すぎるからだと思うよ」

田島「連載するためっていうのもあるんだろうけど」

ノア「少年ジャンプみたいな」

栗田「そう、だから乱歩はもうジャンプ作家だと思えばいいんだよ、それしかない」

ノア「そう考えると、藤子・F・不二雄ってすごいね。あれだけ連載しながら、1年に1回長編を書いているんだからね」

栗田「あれは素晴らしい理系の頭なんですよ、だから。ドラえもんの第1話なんて、無駄が無くて美しすぎるじゃないですか」

 

と、ここで、梅田くんが乱入。

 

梅田「ところで、君たちは、なんの話をしてるの?」

田島「え? そっちはなんのテーマですか?」

 

 

梅田「僕らはね、さっきから、もちこが携帯電話の機種を換えたけど、また戻すことについて話してたよ。『やっぱりあの男は違った。いっときの魅力で目移りしたけど、血迷ってた。結局、元の男のところに戻るんだよ』っていう話だよ」

加賀美「そうそう、『ごめん、やっぱりあなただった、って謝って戻るしかない』っていう話だよ」

田島「……」

 

 

梅田「あ、それだけじゃないよ? ちゃんとした話もしてたよ。朗読で読む題材として、「おーい、お茶」の俳句はどうか、っていう話してたの」

 

 

ノア「え、著作権どうなの?」

加賀美「あ〜、その話ももうとっくに出たわ〜」

 

 

梅田「これはぜひとも言い訳したいんだけどね、この件について、伊藤園は特に著作権は主張してないんだよ。ホームページ見たんだから、僕ら。ね」

スズキ「いや誰も朗読するやつがいるなんて思ってないからねぇ」

栗田「じゃあ、春の歌詠み会みたいな感じで行きますか? すみ〜〜〜れ〜〜〜」

 

梅田「ほら見て。千葉県の竹内くん、埼玉県の中村ちゃん……」

ノア「……まぁ中村ちゃんは投稿した時点で諦めなきゃいけないと思うよ。自販機で200円せずに買える媒体に、句をリリースしちゃったんだから」

 

 

栗田「これなんか、見てくださいよ。こいつ、サラリーマン川柳に出して落選したやつをこっちに送ったら選ばれた句なんじゃないの? 絶対そうです」

加賀美「ひどい(笑) なんで一句も詠んでないやつにそこまで言われなきゃいけないんだ」

梅田「ハイ、じゃあ、劇団のので読んでいいの?」

スズキ「ダメって言ってんだろ!?(怒)」

梅田「あははは!」

 
 
 

スズキ「はい、話戻すと、つまり、この乱歩の書いた元のバージョンと、改編して良くなったバージョンを、両方やるということかな?」

栗田「良くはなりません、元が悪すぎるから。“最悪なもの” が、“やや悪いもの” になります」

加賀美「ひどい言われようだ(笑)」

 

 

スズキ「書き直しって、誰かが執筆やってくれるんですか?」

栗田「もう、しました」

加賀美・梅田・スズキ・ノア「えっ?」

 

 

栗田「本当にひどい人たちだ! 書き直しました、って全体のラインに流したでしょ!?」

スズキ「ごめん、気付かなかった」

加賀美「わたしも、気付かなかった」

田島「僕は、気付きましたよ」

加賀美「お!」

田島「1度開いて読まずに閉じたので、多分この中で1番悪質な人間ですね」

加賀美「なんで!?(笑)」

 

 

栗田「もうやめだやめだ!(怒)」

田島「ははははは」

 

 

加賀美「まぁ、つまりね、乱歩っていうのは、後世にこれだけ議論を巻き起こす作品を遺した、そういうことだよ」

ノア「君がまとめるなよ」

 

 

ということで、最後に録音をして、稽古が終わりました。

 

 

劇団のの初、原文のアレンジに挑戦です!

波乱の予感!

 

 

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