小川未明「遠くで鳴る雷」|遠くに流れるキュウリ

さてさて、今回公開された『遠くで鳴る雷』。

どんな、お話なのか。

本編の後の、スズキヨシコ、吉田素子、梅田拓のトークを聞いた後、
この記事を読んでいただけましたら、幸いです!

作者 小川未明さんとは

まず、作者=小川未明(おがわみめい)さん。

この方は、「日本のアンデルセン」なんて呼ばれてる人です。

彼が日常生活において「おい、アンデルセン!」などと呼び掛けられていたのかは謎です。
「紀州のドンファン」さんは、「ねぇ、ドンファンさん」って呼ばれてたんでしょうか?

アンデルセンの異名の通り、未明さんは、児童文学を書く人です。大体、明治後期〜大正時代中心〜昭和初期に掛けて、戦前に活躍しています。ちょうど、NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』の時代なのです。

『花子とアン』のヒロインも英語の児童文学を翻訳していたのですが、子どもの教育が発展し、海外から多くの児童文学が輸入・翻訳され、ラジオでのお話の読み聞かせなども発展した時代です。

「児童文学界の三種の神器」などとも言われ、御三家の1人でした。
3人の中では、比較的、野口五郎ポジションでした。

小川さんの作品は、『赤い蝋燭と人魚』が有名なのではないでしょうか!
『遠くで鳴る雷』は、無名 of 無名です。

設定がとてもシンプル

このお話の主人公は、少年二郎。(ラーメン二郎っぽい)

そして、あと、家族は母しか出て来ません。

トークでスズキさんが指摘している通り、「二郎がいるからには、兄の一郎または太郎がいるはずだ」と思われます。いきなり長男にあえての「二郎/次郎」って付けるのは斬新すぎるし。

隠しキャラ兄の「一郎さん」どうしたんでしょうか。自立したんでしょうか、メジャーリーグに行ってしまったのでしょうか。祖父母や父も出て来ないし、三郎や四郎もいないっぽい。

大人の小説では、設定の細かさでリアリティーの底上げをするために、本筋に直接絡んで来ない余分な人や物、地名が沢山出て来て、その世界観に萌えたりするわけですが、子どもは余分なことは頭に入らないから省くのでしょうか?

非常にシンプルな物語世界です。

タイトルはキュウリじゃないのか

中でも、ものすごいウェイトを占めているのが、キュウリ!

もはや、主人公は二郎じゃなくてキュウリなんではないかと。

タイトルは『遠くで鳴る雷』だけど、いや、「雷」なんて……最後の方にチョロッと鳴るぐらいで、キュウリと比べて影、激薄ですから。

当時の出版社の編集さんは何を思ってこのタイトルにしたんだか。『遠くに流れるキュウリ』でしょ絶対。

結構シビアな展開だった

前半、すごいワクワクするんですよ、この話。

小学校の時、ホウセンカやアサガオを育て(させられ)ませんでしたか? あの頃を思い出しちゃったりして、大変ほのぼのするんです。この辺り、スズキさんの選曲で、ピアノの練習曲っぽい感じが、大変よく合っています。

で、ある日、お母さんが遂に「GO!」と。

立派になったキュウリ!

きゅうり

お母さんが調理してくれて、おいしく食べて、ハッピーエンドだ! まるかじりか? 浅漬け? 味噌? ピクルスか!?

って思って読み進めてたらですね!

お母さん、ドえらい変化球投げて来るんですね。

「これは水神様にお供えします」
「キュウリにおまえの名前書いて、川に投げて来い」

って言い出すわけですよ。

え!

ガクブルですよ。丁寧な言葉で淡々と言うから、なんかもう、母ってサイコパスなのかな、って思いましたよ。

いやぁ、「二郎は反抗的な態度を取らなくて偉いな」って思いました。これがもし、そこらへんの並みの二郎なら、「させるか!」「水神にやるキュウリなど無いわ!」とか言って、その場でキュウリ丸呑みしちゃいますよ。

お母さん的には、水神様に捧げるために育ててたみたいですね。二郎ちゃんがよく川遊びをするので、水難事故に遭わないように、よろしくってことみたいです。

キュウリが好きな水神様とは?

水神様というのは、「すいじん」とも「みずがみ」とも言い、農業には欠かせない神様です。何せ水田もありますし、畑にも水やりしますし。河川の氾濫とか、日照りとか、天候にも関係あります。怒らせずに仲良くやって行きたいわけです。

色んな姿がありまして、龍や蛇の姿をしたものであったり、天女のようにひらひらした服装の女性だったり。地域や、その池、川、滝などによっても、伝わるお話や、祀ってる神様が異なってくるみたいですよ。

中でも、キュウリと言えば、カッパのイメージありませんか? カッパ巻きってキュウリの海苔巻きですよね。

カッパはどっちかと言ったら妖怪カテゴリーじゃん? と思いますが、かつては、水神様カテゴリーだったらしいです。

あと、ほら、カッパって相撲も好きじゃないですか。

好きなんですよ、相撲が。

相撲って、なんかもう最近はめくるめく色々がありましたけど、元々は、神の前で行う、清い神事ですから。

カッパ=相撲好き=水神=キュウリも好き、です。

二郎とキュウリ 涙のお別れ

で、母の言い付け通り、川にキュウリを流す二郎ちゃん。

ボチャン。

この辺り、もう、アニメ『ラスカル』の最終回で、少年スターリングがラスカルを自然に返すシーンぐらい泣けます。

  • 初めて藁からミルクを吸ってくれたラスカル
  • いたずらしたラスカル
  • 一緒に眠ったラスカル
  • 俺のラスカルみんなのラスカル

めくるめく走馬燈の思い出が脳内高速回転してる中、ラスカルを残した岸から、小船で、涙ながらに離れて行くわけです。

「ラスカルー!!!!!!」

アライグマ

ほぼほぼ同じですよ。

  • あんなキュウリ
  • こんなキュウリ
  • あの日のキュウリ
  • この日のキュウリ

「キュウリー!!!!!!」

キュウリがこれからどんな目に遭うのか、今いずこか、と、夜もぎんぎんにキュウリのことを考え続けてしまいます。

子どもの時って、そういう不安ありましたよね。バスに置き忘れた傘が、今頃どこかで暗い倉庫で泣いてるんじゃないかって思ったり。特に、夜1人で布団に入ってると、そういう怖い想像をしますよね。

なんていうか……ほんと……二郎ちゃん、きっとキュウリは大丈夫。もしかしたら二郎ちゃんも薄々気付いてるかもだけど……

キュウリって、ほら、感情とか全然、無いじゃん? 

「二郎を水神様の生贄にして村が守られる」的な話じゃなくて良かったじゃん! 

驚きの展開 キュウリの流れ着く先

で、この話、すごい展開が二転三転するんですよね。

わたしの想像力の限界では、下流まで流れて行って、カッパが食べましたとさ、とか。
海まで流れて行ったキュウリは、広い世界を見ましたとさ、とか。
そんなもんじゃないですか。
とりあえず「はい、めでたし!」って感じだと思っていました。

ところが!
なんと、下流で乞食の子どもが発見して、拾っちゃうんですね。

初見の時(ぶっつけ収録でしたけど)声に出して「え!?」って言いました。
なんかもう、全く考えてもいなかったです、この筋を。

まず、わたしがびっくりしたのは、母と二郎以外の人物がいきなり登場したこと。「人間、他におったんかい!」 っていう、その驚きが1番でした。

だから、この展開が何を表してるのか、色々考えましたけど、解らない。「下流に貧困な集落があるのか?」「低層な階級の出身者なのかな」「川辺の森で人目を忍んで暮らしてる親子なのかな」「水神の化身?」とか。その人たちそのものに興味が湧いちゃって。

吉田素子の解釈

吉田さんがフリートークの中で言っているのは、せっかく育てたキュウリを、赤の他人がいと簡単にかっさらって行くということに対する、ちょっとした不満というか、「えー……」っていうガッカリ感。

これは完全に二郎目線で、子ども読者に最も近い目線だと思いました。

童話を読む子どもは、主人公が努力したり、我慢したり、冒険したりしたら当然、褒められるか、何か手に入れるとか、報酬のある結末を期待するわけです。通過儀礼(キュウリと別れる)を経た子ども(主人公二郎)が報われず、新参者の第三者(まだあんまり感情移入できない)が、得をした。

そりゃ、「えー……」ですよ。

梅田拓の解釈

しかし、梅田くんが唱える説は、ちょっと違って。

二郎が育てた命、キュウリというバトン、これが、川・水という命の象徴である線を伝って、別の子ども、すなわち、二郎と同じく未来ある存在に渡されると。「乞食」と言うからには二郎の家庭よりも圧倒的に貧しいでしょうし。この子はしかも、発見して拾い上げたキュウリを、その場で食べず、恐らく同じく飢えている母と妹に持ち帰るのだ、と。持てる者から持たざる者への命のリレー、みたいな解釈をしたようです。

そして、ここで遠雷が鳴って「もう夏であります」と。新しい季節への予感、夏の清涼感まで出してるんだそうな。

うわぁぁぁ! 達観してるよぉぉぉ!

梅田くんはもしかしたら、平成の日本において、最も小川未明のソウルが解るメイトなんじゃないですか?

わたしはと言えば、
「最後に適当に雷鳴らして、ちょっとタイトルに寄せて来るのかよ!」
と思った。

以上です。

本当に文学専攻で卒業したんですかね。

雷

ちなみに、「遠雷(えんらい)」って、遠くでゴロゴロ言ってるイメージですか? それとも、遠くでビシャーンって鳴ってるイメージですか?

文中からは、どっちともつかないです。ただ、数キロ先まで迫って来てますね、音が聞こえてるってことは。遠くでも意外に近いので、気を付けなければ。

初夏にぴったりのお話でした

作中では「もう夏であります」と言っていますが、もう……秋であります。キュウリが1番おいしいシーズンを、がっつり外してしまいました。(6月14日が世界キュウリの日らしいですね)なので、今年はまぁ、楽しかった夏を思い出しながら聞いていただいて。来年の6月に、もう1度聞いていただきたいと思います!

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