芥川龍之介の作品『秋』に登場する、ちょっと難しい言葉の意味を調べてみました。
劇団ののは、言語学や歴史学のプロフェッショナルではありません。
様々な文献や辞書をあたったり、プロフェッショナルの方に手助けをいただいたりはしていますが、あくまでも自力で調べ物をした結果を掲載しています。誤った情報が含まれている場合がありますので、ご注意ください。
また、調べ物をした結果、真実が突き止められないこともあります。
ご了承ください。
- 女子大学【じょしだいがく】
- 才媛【さいえん】
- 文壇【ぶんだん】
- 自叙体小説【じじょたいしょうせつ】
- 女学校【じょがっこう】
- 後家【ごけ】
- 縁談【えんだん】
- 文科【ぶんか】
- 当世【とうせい】
- トルストイズム
- フランス仕込みの皮肉や警句【かなまり】
- 閑却する
- 話頭を転換する【わとうをてんかんする】
- 高商出身【こうしょうしゅっしん】
- 中央停車場【ちゅうおうていしゃじょう】
- 針箱【はりばこ】
- 書簡箋【しょかんせん】
- 骨を折る【ほねをおる】
- 鶏【にわとり】
- 基督教の匂いのする女子大学趣味の人生観(きりすときょうのにおいのするじょしだいがくしゅみのじんせいかん)
- 遊覧地【ゆうらんち】
- 気散じ【きさんじ】
- 編上げ【あみあげ】
- 化粧石鹸【けしょうせっけん】
- 清新【せいしん】
- 舞子【まいこ】
- 茶屋【ちゃや】
- 下卑た【げびた】
- 襟【えり】
- 洗濯屋【せんたくや】
- ズボン吊【ずぼんつり】
- 食糧問題【しょくりょうもんだい】
- 襟飾【えりかざり】
- 絽刺し【ろざし】
- 雨外套【あまがいとう】
- 女のような口
- まんじりともせずに
- 長火鉢【ながひばち】
- 気の毒そうに
- 同人雑誌【どうじんざっし】
- はぐる
- 諧謔【かいぎゃく】
- 宮本武蔵【みやもとむさし】
- 捨鉢【すてばち】
- 店を広げる
- 結納【ゆいのう】
- 山の手の或郊外【やまのてのあるこうがい】
- 候えども【そうらえども】
- 簇簇と【ぞくぞくと】
- 大儀【たいぎ】
- 火箸【ひばし】
- 灰文字【はいもじ】
- 師走【しわす】
- 執念く【しゅうねく】
- 日限【にちげん】
- 匆々【そうそう】
- 新開地【しんかいち】
- 俥【くるま】
- せせこましい
- のき打ちの門
- 要もちの垣【かなめもちのかき】
- いが栗頭【いがぐりあたま】
- 女中【じょちゅう】
- 裏【うら】
- 紫檀【したん】
- 一面の琴【いちめんのこと】
- 巻煙草【まきたばこ】
- 葡萄酒【ぶどうしゅ】
- 社会主義【しゃかいしゅぎ】
- 暮方【くれがた】
- 果物を荒らす
- 微酔を帯びる【びすいをおびる】
- 談論風発【だんろんふうはつ】
- グールモン
- 警句【けいく】
- 「ミューズたちは女だから、彼等を自由に虜にするものは、男だけだ。」
- 「女でなけりゃ、音楽家になれなくって? アポロは男じゃありませんか。」
- 沓脱【くつぬぎ】
- 庭下駄【にわげた】
- 足袋【たび】
- 十三夜【いざよい】
- 蓆【むしろ】
- 横ばい【よこばい】
- 中折【なかおれ】
- 訪問記者【ほうもんきしゃ】
- 歌劇団【かげきだん】
- 懶い【ものうい】
- 半襟【はんえり】
- 鉄瓶【てつびん】
- 憐憫【れんびん】
- 米価問題【べいかもんだい】
- 袂【たもと】
- 幌俥【ほろぐるま】
- セルロイド
- 場末【ばすえ】
- 逡巡【しゅんじゅん】
- 参考文献
- 参考リンク
女子大学【じょしだいがく】
明治時代、女子にも教育が必要であるという考えが西洋から流入しました。
女性の教育の必要に目を向けたキリスト教の宣教師たちの支援によって、多くの私立女子大学が設立されました。
教育内容は、英文学をはじめ、教養、良妻賢母教育、医学など多岐に渡りました。
才媛【さいえん】
教養が高い女性。また、才能のある女性のことです。
信子はそのように評価されていたのですね。
文壇【ぶんだん】
小説や随筆などを書いている作家や評論家のコミュニティーのことです。文学界ともいいます。
自叙体小説【じじょたいしょうせつ】
「私は◯◯した」のように、登場人物が自ら話す形式で書かれた小説のことです。
女学校【じょがっこう】
明治時代から第二次世界大戦後の学制改革まで存在した、旧制の女子教育機関です。
時代によって種類や制度が多少変遷します。
初等教育を終えた10代を中心とする女性が、中等教育・高等教育を受けました。
現代でも、高校や大学の卒業式で振り袖と袴を身に付ける女子生徒・学生が多いですね。これは、大正時代の女学生のトレードマークである、大きなリボンと葡萄茶の袴姿から来ています。
後家【ごけ】
夫と死別した独身女性のことです。
「後家を立て通す」とは、再婚せずに後家のままでいつづけることです。
縁談【えんだん】
大正時代の結婚は、自由恋愛はまだ少なく、親の意向によって相手が決まることがほとんどでした。
大正9年に行われた調査で平均初婚年齢が男性で25.0歳、女性で21.2歳だったことを考えると、大学を卒業した信子は、結婚適齢期だったといえるでしょう。
文科【ぶんか】
人文科学や社会科学を専攻する大学の学科や学部です。文学科のみを指す場合もあります。東京大学などの総合大学の一部に、学科名として残っています。
当世【とうせい】
現代やいまどき、という意味です。
いまふうの文化や考え方を、「当世風」といったりします。
トルストイズム
「トルストイ主義」ともいいます。
トルストイは、1828年生まれのロシアの小説家・思想家です。私有財産の否定や非暴力を唱え、人道的文学を樹立しました。代表作に「戦争と平和」があります。
日本では、明治時代から大正時代にかけて、徳富蘇峰・蘆花兄弟、武者小路実篤などを初めとする文学者、また社会主義者を夢中にさせ、庶民に至るまで大きな影響を与えました。特に、日露戦争の際には芸術家たちの反戦運動のモチベーションとなりました。
フランス仕込みの皮肉や警句【かなまり】
警句(けいく)とは、「急がば回れ」のように、短い表現で、物事の真理を言い当てた言葉のことです。箴言ともいいます。
明治時代以降、日本でもフランス文学が多く読まれるようになりました。
その中でもラ・ロシュフコーは、現実を皮肉たっぷりにこき下ろした箴言を多く残しました。ラ・ロシュフコーの箴言に、「偽善とは、悪徳が美徳に対してささげる賛辞である」「女は永くその最初の人を守っている。ただし、第二の人ができないかぎりは。」といったものがあります。『ラ・ロシュフコー箴言集』は、芥川龍之介の愛読書でした。
閑却する
いいかげんに放っておくことです。
話頭を転換する【わとうをてんかんする】
「話頭」とは話題のことです。「話頭を転じる」で話題を変えることを意味します。
高商出身【こうしょうしゅっしん】
高商は、高等商業学校の略です。
第二次世界大戦後の学制改革まで存在した日本の旧制専門学校の中で、商業・商学に関する高等教育機関です。
東京高商は、官立高商の中でも神戸高商と並んでツートップでした。東京高商は、一橋大学の前身です。信子の夫はビジネスエリートであることが伺えます。
中央停車場【ちゅうおうていしゃじょう】
信号機による管理が行われている駅を「停車場」、管理されないものを「停留所(ていりゅうじょ)」といいます。
「中央停車場」は、東京駅の構想当時の呼び方です。東京駅は、あらゆる路線の発着の中心となる駅として、大正3年に開業しました。
「秋」は大正9年発表の作品ですから、当時は開業したての最先端な雰囲気だったことでしょう。
針箱【はりばこ】
裁縫用具を入れる箱です。現代でいう裁縫箱です。当時は引き出しがいくつかついた箱状のものが一般的でした。
書簡箋【しょかんせん】
便箋のことです。
面白いことに、芥川龍之介の作品「三つの窓」「葱」にも桃色の書簡箋が出てきます。芥川龍之介の中で、女性の書く手紙のイメージは、桃色だったのかもしれません。
骨を折る【ほねをおる】
人を助けるために、力を尽くすことです。
「骨折り損のくたびれもうけ」という慣用句があります。
鶏【にわとり】
鶏は戦国時代にヨーロッパから伝わり、江戸時代に卵や肉が食されるようになり、多くの品種がこの時に改良されました。
明治時代には国内で養鶏が奨励され、名古屋コーチンなどの新しい品種が作られました。
大正時代にはかなりの飼育数になったようなので、照子がペットとして飼っていたのも珍しいことではなかったのかもしれません。
基督教の匂いのする女子大学趣味の人生観(きりすときょうのにおいのするじょしだいがくしゅみのじんせいかん)
信子が通っていたのは、キリスト教系の私立女子大だったのではないでしょうか。
ここでは、女子大学で教える理念などの思想に対し「少女趣味」という評価を下しています。
また、流行に流されないフランスの警句などに傾倒する(本物がわかる)俊吉の対比としても、トルストイズムや学校で教えられた思想の受け売りを語る信子を、芥川自身に近い目線から揶揄している(少々、見下している)と考えられます。
遊覧地【ゆうらんち】
観光地のことです。
気散じ【きさんじ】
気楽なことです。
編上げ【あみあげ】
編み上げ靴、つまりブーツのことです。大正時代、多くのサラリーマンは家では和装、職場では洋装をしていました。
しかし、夫は休日も洋風の編み上げ靴を履いていることから、当時にしては先進的な服装をしていたようです。
化粧石鹸【けしょうせっけん】
洗顔用の質の良い石鹸です。
清新【せいしん】
新しくてさわやかなことです。
舞子【まいこ】
神戸市垂水区にある地区で、現在は明石海峡大橋の始点になっています。
淡路島を望む景色が絶景で、「舞子の浜」として古くから有名でした。
明治時代には、明治天皇や有栖川宮がよく訪れ、明治21年に有栖川宮別邸が建てられてからは、政治家や実業家の別荘地になりました。
茶屋【ちゃや】
観光客や旅人がお茶やお菓子で一休みするためのお店です。
下卑た【げびた】
下品なことです。
襟【えり】
大正時代の男性のワイシャツは、一般的に、スタンドカラー(詰め襟)の身頃の上から、着脱式の付け襟を付けて着用していました。昭和10年頃、はじめからカフスや襟が付いたワイシャツが定着します。
洗濯屋【せんたくや】
クリーニング屋の前身です。家々から洗濯物を集めて洗う洗濯屋は、江戸時代から存在していました。当時は洗濯機がなかったため、石鹸と重曹を使って、手洗いしていました。
ズボン吊【ずぼんつり】
ズボンを履く時に、ズボンがずり落ちないように両肩に掛けるベルトのことです。サスペンダーとも言います。
食糧問題【しょくりょうもんだい】
明治時代以降における人口の急増や、シベリア出兵、輸入米の激減により、大正時代の日本は米不足に悩まされていました。米不足から米価が高騰し、大正7年には庶民が暴動を起こすなど米騒動が起きました。
襟飾【えりかざり】
洋服の襟周りにつける飾り、つまりネクタイやリボンのことです。
絽刺し【ろざし】
絽刺しは刺繍の技法の一種で、着物や羽織に多く使われました。
明治時代には一旦廃れてしまいますが、大正時代に復活、婚礼用の帯などに施されました。
男性物では、煙草入れや財布などにも使われ、おしゃれな男性の持ち物として人気があったようです。
雨外套【あまがいとう】
雨天時に着るコート、つまりレインコートのことです。レインコートといっても、当時は布でできていました。
女のような口
信子の夫は、身なりに気を遣う人物です。また、ネチネチと嫌味を言います。
こういった彼の性質を、この時代の通念として、また作者の持つ個人的な女性観から、「女性的だ」「女々しい」と悪く捉えての比喩です。
男女二元論的であり、差別的な表現と言えます。
まんじりともせずに
少しも眠らずに、うとうともせずに、という意味です。
長火鉢【ながひばち】
火鉢は、中に灰を入れ、炭火で暖を取る暖房器具です。
火鉢にはいろいろな形や材質がありますが、長火鉢は長方形の木製の箱でできていました。
気の毒そうに
現代では、相手に同情しているようすを表すことが多いですが、ここではきまりが悪かったり、相手にすまなく思ったりするようすです。
同人雑誌【どうじんざっし】
まだ売れていない作家が、仲間どうしで資金と原稿を持ち寄り、出版した雑誌です。
明治時代以降、『文學界』や『青鞜』『白樺』など多くの同人雑誌が発行され、大正時代末には1000誌を超える数が発行されました。
はぐる
はいでめくることです。「布団をはぐる」「ページをはぐる」のように使います。
諧謔【かいぎゃく】
気の利いた冗談やユーモアのことです。
宮本武蔵【みやもとむさし】
江戸時代の剣豪で、刀を2本使う二天一流兵法の開祖として有名です。
2つの武器を巧みに扱うようすを宮本武蔵にたとえています。
巌流島で剣豪の佐々木小次郎と決闘をしたエピソードが有名で、ワイルドなイメージがありつつ、芸術家としても知られており、画像は自画像です。
捨鉢【すてばち】
思いどおりにいかず、やけになることです。
店を広げる
いろいろな物をそこらじゅうに並べることです。現在は一部地域でしか使われないようです。
結納【ゆいのう】
昔の長さの単位「尺貫法」に基づく測り方です。
1分=約3mm。4分=約12mmです。
婚約成立の証として、男性側の家から女性側の家へお金を渡したり、反対に女性側の家から男性側の家へ御礼の品を渡したりする、一種の儀式のことです。
庶民が結納を行うようになったのは、明治時代のことで、戦後まで広く行われていました。現代では、結納をせずに済ますカップルも増えており、結納を行う人は1〜3割程度になっているようです。
山の手の或郊外【やまのてのあるこうがい】
東京の麻布、赤坂、四谷、本郷のあたりは「山の手」と呼ばれ、下町に比べ、標高が少し高くなっています。江戸時代までは武家屋敷があり、明治時代以降には官僚や軍人などの住宅が集中しました。
候えども【そうらえども】
「候う」は「ある」の丁寧語で、「あります」「ございます」という意味。つまり、「候えども」は「ありますが」「ございますが」という意味になります。「ございます」「ます」の代わりに「候」を使って書く文を「候文」と言い、手紙などでよく使われました。
簇簇と【ぞくぞくと】
群がって集まっているようすです。
大儀【たいぎ】
疲れてだるいことを指します。
火箸【ひばし】
最も身分の低い僧侶で、雑用などに使われます。
火鉢などで燃えている炭を移動したりするのに使う、金属製の箸です。
灰文字【はいもじ】
火箸で灰をなぞると、砂浜を指でなぞったときのように、跡が残ります。このようにして、火鉢に敷いた灰に書いた字だから灰文字です。
師走【しわす】
12月の異名です。
執念く【しゅうねく】
「執念深く」「しつこく」という意味です。
日限【にちげん】
決められた期間のこと、または期限のことです。この場合は、夫の出張期間のことを指します。
匆々【そうそう】
「怱々」とも書きます。忙しいことや慌ただしいことです。
「来匆々」とは「来てすぐに」という意味です。
新開地【しんかいち】
新しく開けた市街地のことです。当時の東京郊外は、新興住宅地といったところでしょうか。
神戸市の「新開地」や伊勢市の「しんがい」、さいたま市の「しびらき」など、地名として残っているところもあります。
俥【くるま】
人が引く車、人力車のことです。明治時代に、駕籠に代わる交通手段として普及しました。
「俥」は、人力車を表すために作られた漢字です(実際は中国の古い漢字として存在していましたが)。
現代では浅草などで観光用として見ることができます。
せせこましい
ゆとりがなく、窮屈なことです。
のき打ちの門
この言葉は、辞書でも、古民家や寺社などの建築関連の文献においても見つけられませんでした。
芥川による造語ではないかと考えられます。軒(のき)つまり屋根型の物がついた門ではないかと推測しています。
※どなたか、ご存知の方がいらしたら、情報をお寄せください。
要もちの垣【かなめもちのかき】
「要黐」という種類の木で作った生け垣のことです。若葉と落葉前の葉は赤く、木全体が赤く染まります。また、春の終わりには、白い小さな花を咲かせます。現代でもよく生け垣などに使われます。
いが栗頭【いがぐりあたま】
髪を短く刈った頭のことです。トゲトゲした栗の殻に似ていることからそう呼びます。
女中【じょちゅう】
江戸時代、裕福な武家や農家には住み込みの使用人がいました。
武家では、裁縫や習い事をし、花嫁修業の意味合いが強いものでした。
明治時代になると、中流家庭にも、住み込みで家事や子守をする女性の雇用が広まりました。
裏【うら】
服の裏地のことです。
紫檀【したん】
床柱や家具に用いられる、木目のきれいな樹です。磨くとつやがでて、硬くて丈夫なことから、昔から高級木材とされてきました。
一面の琴【いちめんのこと】
琴は、平安時代から伝わる日本の伝統的な弦楽器です。明治時代には女性のお稽古事として一般家庭にも普及しました。「面」は琴を数える時の単位です。
巻煙草【まきたばこ】
現代で「タバコ」と聞いた時に真っ先に連想する、煙草を紙で巻いたものです。
日本では江戸時代から煙管を使った喫煙が一般的でしたが、大正時代には、少ない道具で手軽に喫煙できる紙巻煙草が広く普及しました。
葡萄酒【ぶどうしゅ】
ぶどうで作ったお酒、つまりワインのことです。
日本では、室町時代にはじめてヨーロッパから伝わり、明治時代に入ってから、国内での生産がはじまりました。
社会主義【しゃかいしゅぎ】
社会主義は、様々な格差を産む資本主義に反対し、生産手段や財産を社会全体で管理することで、万人が平等な社会を作ろうとする考え方です。
誰かが勝者になることを良しとしないため、お金持ちや権力者に対して批判的であることが多いです。
暮方【くれがた】
日が沈み、あたりが暗くなる頃、つまり日暮れ時です。
果物を荒らす
食べ物などを、あちこちつついて食べることです。大皿に盛り、三人でつついたのでしょうか。
微酔を帯びる【びすいをおびる】
「微酔」とは、ほろ酔いのことです。俊吉は、軽く酔っているようです。
談論風発【だんろんふうはつ】
話や議論を活発に行うこと、話し合いが盛り上がることです。
グールモン
レミー・ド・グールモン。フランス人の批評家、詩人、小説家です。男女についての格言を多く残しています。
警句【けいく】
→フランス仕込の皮肉や警句
「ミューズたちは女だから、彼等を自由に虜にするものは、男だけだ。」
「ミューズ」は芸術を司るギリシャ神話に登場する女神です。
「芸術の女神に愛されることができるのは男性だけ」、つまり「芸に秀でるのは男性だけだ」ということを言おうとしています。
「優れた/名を成した芸術家、政治家、科学者は男性ばかりだ」という議論は、歴史上、度々行われてきました。世界的に、女性にそのような環境や機会が与えられて来なかったというのが事実でしょう。
「女でなけりゃ、音楽家になれなくって? アポロは男じゃありませんか。」
「アポロ」は音楽を司るギリシャ神話に登場する男神です。
照子は、俊吉の戯言に対し、「では、アポロに愛されて音楽に秀でるのは女性だけってことですか? アポロは男でしょう?(そうではないしょう?)」と言い返しています。かなり高度な返しをしています。俊吉と信子が繰り広げる話についていけなかった照子ですが、信子がしばらく会っていないうちに、立派に議論に参加できるほど成長している様子がうかがえます。
沓脱【くつぬぎ】
玄関や縁側への上り口にある、履物を脱ぐところです。石などで少し高くなっています。この場合は、庭へ出るために縁側から降りるための沓脱です。
庭下駄【にわげた】
庭を歩くための、簡単なつくりの下駄です。
足袋【たび】
靴下のようなものですが、下駄や草履などの鼻緒のついた履物を履くために、指先がふたつに分かれた形をしています。
足先に力が入りやすいため、最近では「足袋ソックス」といって、足袋の形をした靴下も売られていますね。
十三夜【いざよい】
新月から13日目の月のことです。十五夜が満月ですから、かなり円に近い形をしています。そのため、明かりがなくても、庭を歩ける程度には明るさがあります。
蓆【むしろ】
わらや竹などを編んで作った敷物。敷物に使うござも、蓆でできています。簡単な小屋の壁代わりに使うこともありました。
横ばい【よこばい】
体長数ミリの昆虫です。
横にずれながら歩くようすから、横ばいの名がつきました。
明かりに寄る習性があります。
黄色っぽい見た目のものは、バナナムシと呼んだりします。
中折【なかおれ】
中折れ帽のことです。頭頂部の中央が縦に織り込まれた帽子です。
第二次世界大戦前までよく使用され、公務員や会社員に人気でした。
訪問記者【ほうもんきしゃ】
訪問記者は、いわゆるフリーランスの記者だったようです。
通常は、一つの新聞社や雑誌社に所属してその社から月給をもらうものですが、訪問記者は複数の社に出入りして、各社の社風にあった原稿を書いて売ることで収入を得ていました。会社から許可を得て名刺に社名を入れたり、取材先では、肩書きに社名を名乗ることができたようです。
訪問記者であることのメリットとしては、社の規則に縛られず、時間的にも気ままにフレックス勤務ができる点、また、様々なジャンルに柔軟に対応できる記者は、いくらでも多くの記事を書いて、複数社に買い取ってもらうことができる点です。
逆に、売り込みが弱い人、フットワークが軽くない人、書けるジャンルが偏っているなど技術が足りない人などは、たくさん記事を売ることができないため、収入が不安定な仕事とも言えます。
特に、男性ばかりの職場に女性を雇うことを嫌がる会社では、女性は「婦人訪問記者」として契約されていたようです。
歌劇団【かげきだん】
日本では宝塚歌劇団が有名ですが、「歌劇」というと一般にオペラのことを指します。照子が観に行ったのは外国の歌劇団ですが、大正時代には浅草でオペラやミュージカルが盛んに上演され、「浅草オペラ」と呼ばれました。
懶い【ものうい】
通常、「物憂い」と書きます。動くのも面倒なほど気がふさいでいたり、憂鬱だったりするようすです。
半襟【はんえり】
汚れを防ぐために、和服の襟の上に重ねる襟です。
特に大正時代の女性たちは非常に派手な色柄の着物や帯を身に付けており、同じく派手な半襟を幅広めに出して見せ、その組み合わせを楽しみました。
鉄瓶【てつびん】
お湯をわかすための道具で、ヤカンを一回り小さくしたような形をしています。ヤカンと違い、鉄製なので、重くどっしりとしています。
憐憫【れんびん】
同情することです。
米価問題【べいかもんだい】
食糧問題と同じです。
袂【たもと】
和服の袖の、袋のように垂れた部分です。いわゆる「袖の下」です。
江戸時代、この部分に隠すようにこっそりと品物や金銭を渡したことから、今でも賄賂のことを「袖の下」と言いますね。
幌俥【ほろぐるま】
簡易な屋根のついた人力車です。当時は、日よけや雨よけのために幌がついているのが一般的でした。
セルロイド
プラスチックの一種で、写真のフィルムや眼鏡のフレーム、おもちゃなどに広く使われました。
燃えやすい素材のため、ポリエチレンなどの合成樹脂素材に取って代わられました。
場末【ばすえ】
繁華街の中心から離れた場所のことです。繁華街の端で、少し寂しい印象を受けます。
逡巡【しゅんじゅん】
決断したり行動したりすることをためらうことです。
参考文献
参考リンク
作品の視聴、他の記事へのリンクはこちらから↓
作品本編はYouTubeでも配信中↓