国木田独歩「竹の木戸」|作品に登場する語彙の解説

コラム
竹の木戸
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国木田独歩の作品『竹の木戸』に登場する、ちょっと難しい言葉の意味を調べてみました。

劇団ののは、言語学や歴史学のプロフェッショナルではありません。
様々な文献や辞書をあたったり、プロフェッショナルの方に手助けをいただいたりはしていますが、あくまでも自力で調べ物をした結果を掲載しています。誤った情報が含まれている場合がありますので、ご注意ください。
また、調べ物をした結果、真実が突き止められないこともあります。
ご了承ください。

作品本編はYouTubeでも配信中!

国木田独歩 竹の木戸 (上) - 劇団のの 朗読・ラジオドラマ|Doppo Kunikida "The Bamboo Gate" 1/3 – Japanese Reading

京橋区辺り【きょうばしくあたり】

東京駅のすぐ東南に位置する地区です。東京駅は、当時から同じ姿で同じ場所にありました。現在、京橋区は統合されて中央区になっていて、東京メトロ京橋駅があります。明治時代から東京駅周辺は立派な都市でした。

東京駅のすぐ東南に位置する地区です。東京駅は、当時から同じ姿で同じ場所にありました。
現在、京橋区は統合されて中央区になっていて、東京メトロ京橋駅があります。
明治時代から東京駅周辺は立派な都市でした。

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会社員【かいしゃいん】

明治時代、日露戦争に勝利した日本は景気が良くなり、特に東京は急速に発展しました。都市化にともなって会社がたくさんできたので、日雇い労働者と違って月給で働く「サラリーマン」が登場します。
現代では「しがないサラリーマン」という言葉もありますが、当時の企業は基本的に大手だったため、官僚や医者と同様にエリートでした。家族総出で働くことが一般的だった時代に、1人の給料でも家族を養えるほど裕福です。しかし、せっかくお金を蓄えても、混み合った都会に住んでいては小さな家しか持てません。そこで、郊外に庭付きのマイホームを所有することが流行しました。
西洋人のようにシャツとネクタイ、帽子、眼鏡、革カバン、懐中時計、万年筆などを身に付けて通勤しました。

郊外【こうがい】

都市の中心から少し離れた、人口の多い地域を指します。
独歩は、たびたび東京郊外を訪れ、随筆「武蔵野」に以下のように記しています。「武蔵野を除いて日本に このやうな処がどこにあるか。-中略- 林と野とが かくもよく入り乱れて 生活と自然がこのやうに密接している処がどこにあるか」
戦後、東京郊外も随分と発達しましたが、まだまだ住宅街に混じって緑地や公園などが多く残っています。都会と違う緑豊かな中に人々の生活が息づいた環境は、独歩の目に大変魅力的に映ったようです。

電車【でんしゃ】

明治時代、西洋から取り入れた馬車により交通の便が確立されました。
しかし、道路の破損や馬糞が問題になり、馬車に代わって路面電車が発達しました。
当初は蒸気機関車が使われましたが、東京は木造住宅が密集しており、機関車が出す火の粉や煙が危険だったため、都市部を中心に電化が進められました。

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停留所【ていりゅうじょ】

信号機による管理が行われている駅を停車場、管理されないものを停留所といいます。
バスや路面電車が止まるのは停留所です。
この作品の舞台である「郊外」がどの場所なのか、特定の地名が明記されていないため、真蔵が通勤に使ったのが路面電車かどうか定かではありません。

半里ぐらい【はんみちぐらい】

「里」は、昔の距離の単位です。
1里=4km。ここでは「半里」なので、半分の約2km。徒歩では25分ほどかかります。真蔵は毎朝良い運動をしていたようですね。

細君【さいくん】

自分の妻を謙遜して呼ぶ言葉です。または同輩以下の他人の妻を呼ぶ時に使います。

女中【じょちゅう】

江戸時代、裕福な武家や農家には住み込みの使用人がいました。
武家では、裁縫や習い事をし、花嫁修業の意味合いが強いものでした。
明治時代になると、中流家庭にも、住み込みで家事や子守をする女性の雇用が広まりました。

都合【つごう】

「合計で」「合わせて」という意味です。

奉公【ほうこう】

大きな家に、多くは住み込みで働くことです。貧しい家の子どもが、食いぶちを減らすために、幼いうちから奉公に出されることもありました。

お家大事【おいえだいじ】

「お家」はもともと、江戸時代の大名・武家などの一族を指した言葉です。
一般に、人々だけでなく財産・名誉など脈々と受け継がれた物すべてを含みます。
使用人でありながら「お家大事」と大庭家のことを思うお徳の意気込みが感じられます。

井戸【いど】

水道が整備されるまでは、井戸から水をくみ上げていました。
水を家の中まで運ぶのは大変なので、井戸端で鍋を洗ったり衣服を洗濯したりしました。
何軒かで共用されることもありました。

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三尺ばかり【さんじゃくばかり】

昔の長さの単位「尺貫法」に基づく測り方です。
1尺=約30cm。3尺は90cmほど。
現代の一般的な住宅のトイレのドアが60cmほどです。

釜【かま】

米や雑炊を炊く鍋です。現代でも炊飯器の宣伝で「釜で炊いたようなごはん」といううたい文句がありますね。

虫を圧える【むしをおさえる】

欲望をおさえることです。「腹の虫」など、昔は体の中にさまざまな問題を引き起こす虫がいると考えられていました。

屑屋【くずや】

ゴミ・廃品を回収する仕事で、当時は身分の低い日雇い労働者だったようです。

パン屋

明治時代に西洋からパンが流入し、中村屋や木村屋をはじめとするパン屋ができ、人々の食生活に取り込まれていきました。

銅の大きな金盥【あかのおおきなかならだい】

銅を「あか」と呼ぶのは金属を色味で呼ぶ言い方です。銅を「あかがね」、銀を「しろがね」、金を「こがね」と呼びます。金盥は、大きな洗面器のような形状で、地面に置いて水を張り、洗濯や皿洗い、体を洗うのに使用しました。

ちょろり

わずかな間に、人目を盗んで手早く何かをする様子を表す擬態語です。

ぽっちり

「ほんの少し」「わずかばかり」という意味です。「ちょっぴり」のような言葉です。

うっちゃる

作中には何度か違う漢字で登場しますが、すべて同じ言葉です。
通常「打ち遣る」と書きます。「投げ捨てる」「放置する」という意味です。
作中では「置きっ放しにする」意味で使われています。
現代では静岡県の方言として残っています。

是非【ぜひ】

「是」は正しいこと、「非」は間違っていること。「是が非でも」は、「正しいことが間違っていても」ということになりますので、「何がどうあっても」という意味です。ここでは「必ず」という意味です。

一俵八十五銭【いっぴょうはちじゅうごせん】

「銭」は円より小さなお金の単位です。100銭=1円。
普段の生活では使用しませんが、為替のニュースなどで見かける機会がありますね。
明治時代は貨幣価値の変動が激しいため、正確に「85銭は今でいう何円」と換算することは困難ですが、1銭を今の100〜200円として、1円=1万〜2万円程度と考えておくと、感覚がつかみやすいかもしれません。

佐倉【さくら】

炭の名産地、千葉県の佐倉で作られた炭です。

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炭俵【すみだわら】

俵は、わらを円柱形に編んで作った袋です。
炭俵は、束の炭を俵に入れたもので、屋外や土間などに、焚き付けに使う道具と一緒に積んでおきました。
現代ではインテリアにする愛好家もいるそうです。

涼炉【りょうろ】

本来、涼炉は茶道の道具です。
ここでは「しちりん」と読ませていますが、七輪は中に炭を入れて上に網を置き、もち・肉・魚などを焼く調理器具です。
涼炉の大きいものは、確かに七輪に似ています。

土竈【どがま】

土竃は炭焼き窯の一種ですが、ここでは土竃で作った「土竈炭」のことです。
ポロポロともろいため、火が点きやすく、火おこしに最適な炭でした。

堅炭【かたずみ】

カシ・ナラ・クリなどからできた堅い炭で、火持ちが良いという特徴があります。

三銭五銭【さんせんごせん】

3銭は今で言う300〜600円、5銭は500〜1, 000円ぐらいです。

計量炭【せんたくや】

前出の炭俵で買う方法だけではなく、バラで量り売りしてもらう方法がありました。
大庭家は俵で注文していますが、植木屋夫婦は貧しいためにまとめ買いができず、お源は籠を持って炭を買いに行っています。

骨だ【ほねだ】

「骨が折れる」つまり「苦労をする」という意味です。

埒も無い【らちもない】

「とりとめがない」「まとまりがない」という意味です。

洋服のまま

明治時代、ほとんどの人が仕事では洋装、自宅では和装をしていました。
真蔵が洋服のまま庭に出て来たというのは、会社から帰ってすぐ、和装に着替えて一息つく間も惜しんで木戸を見に来たことを表しています。

Wikipedia(例:夏目漱石)

突っ掛ける【つっかける】

草履や下駄などを、足の指先に素早く引っかけるように履くことです。
今でもかかとのないサンダルを「突っ掛けサンダル」などと言いますね。

勝手元【かってもと】

台所のことを「勝手」「お勝手」と呼びました。女性が勝手に使用できる場所ということでそう呼ばれはじめたという説があります。勝手元は、台所の方、台所の辺りのことです。

江戸東京博物館にて撮影
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御隠居様【ごいんきょさま】

家の主が、生前に、家督(一家のリーダー)を相続人に譲ることを「隠居する」といいます。この場合は、息子の真蔵に戸主の立場と権利を譲った老母を指しています。

案梅【あんばい】

物事の調子や加減のことです。梅酢を作る時の塩加減「塩梅」と、上手く処置・配置する「按排」が転じた「案配」の漢字が混ざった表現です。

出戻り【でもどり】

一度嫁いだ女性が、夫との離縁や死別により実家に帰ることです。家を出て戻るので「出戻り」と言います。
また、その女性本人のことを指すこともあります。
当時離婚は一般的ではなかったため、出戻りはあまり良くない印象を持たれていました。

房州【ぼうしゅう】

明治になって都道府県が置かれる前、千葉県の南端は「安房国」と呼ばれていました。そのため安房国の「房」の字を取って「房州」と呼びます。
同じように、山梨近辺は「甲斐国」なので「甲州」などと呼ばれます。
日本国内であっても「お国はどこ?」「お国柄だね」などと言うのは、その名残です。
現在の千葉県の中程に「上総国」、北部に「下総国」があったためそれらを合わせ、房総半島と呼ばれます。

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つと

「急に」「突然に」「ふいに」という意味です。「ふと」に似た言葉です。

容色【きりょう】

「顔かたち」「見た目」という意味です。通常「器量」と書きます。江戸時代には美しい人を「きりょうよし」と呼びました。

洋燈【ランプ】

照明器具。明治に入り、一般家庭にも石油ランプが普及しました。

Wikipedia
Wiikipedia

火鉢【ひばち】

中に灰を入れ、炭火で暖を取る暖房器具です。お湯を沸かすなど、簡単な調理もできます。陶や木、金属などで作られています。

薬罐【やかん】

現代と同様、湯沸かしに使用しました。当時は今で言う鉄瓶に近いような素材や形状でした。

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腹掛け【はらがけ】

植木屋さんや大工さんが着た下着です。エプロンのような形で、背中側でひもを結びました。
昔話に登場する金太郎が着ている赤い衣服、まさにあれが腹掛けです。

財布【さいふ】

皮や布で作られ、江戸時代のものでも現代の財布にかなり近い形をしているものもあります。
布で作った巾着袋を首からひもで提げる形状のものもあります。
磯吉が使用していたのは、そのような簡易なものかもしれません。

二円・五円

当時の職人の所得を参考にすると、恐らく磯吉のひと月分の給料が5〜10円ほどだったと考えられます。

炭籠【すみかご】

「すみかご」と読むこともあります。当面使う分の炭を数本、室内に置いておくための入れ物です。

煙管【きせる】

江戸時代に一般的に使われるようになった、喫煙道具です。
欧米で使われたパイプと似た形をしています。
両端が金属でできていて、間の軸(管)は主に竹や木でできています。

膳【ぜん】

1人分の食器と食物を載せる小さな台です。

手盛り【てもり】

自分でごはんをお茶碗に盛ることです。
妻であるお源がよそうことを前提としているようですね。
慣用句として、「自分の好きなように物事を進めること」「自分勝手に自己の利益を図ること」という意味もあります。

全体【ぜんたい】

「大体」と同じ。

啖呵【たんか】

歯切れ良く鋭い言葉。現代でも、鋭い言葉で喧嘩腰に話すことを「啖呵を切る」と言いますね。

頗る【すこぶる】

「非常に」「大いに」「大変」「たいそう」などと同じ意味です。

サアとなれば

「いざとなれば」「いよいよの時は」という意味です。

女連【おんなれん】

「女性陣」という意味です。大庭家の女性たちのグループを示しています。

憚る【はばかる】

「差し控える」「遠慮する」「ためらう」という意味です。

女房連【にょうぼうれん】

奥様方の集まり。婦人会やママ友の集まりのような感じでしょうか。

煎餅布団【せんべいぶとん】

綿が少なくて、ぺちゃんこにつぶれた薄い布団のことです。
植木屋夫婦は、フカフカした高級な寝具を買ったり、綿を打ち直したりするお金がないのですね。

突然に【だしぬけに】

通常「出し抜け」と書きます。字のとおり、「突然に」「いきなり」という意味です。

外套【がいとう】

西洋のオーバーコート。防寒用のアウターです。

小春日和【こはるびより】

晩秋から冬の、寒い日が続いた後に突然訪れる、温かく穏やかな日のことを指します。
「春」とつきますが、春には「小春日和」とは言いません。

下町【したまち】

地域や切り口によって、意味合いが変わりますが、通常は標高が低い場所にある歓楽街や商工業地域などを指します。
ここでは東京における下町で、浅草・新橋・日本橋・京橋・本所・深川・下谷・神田などが挙げられます。
下町には職人・商人・漁師・芸人などが集まりました。
一方、高台は「山の手」と呼ばれ、江戸時代までは武家屋敷があり、明治時代以降には官僚や軍人などの家が集中しました。

銘仙【めいせん】

平織りの絹織物の生地で、大正・昭和に女性の着物の生地として流行しました。

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褞袍【どてら】

半纏と同じ綿入れですが、丈が膝下まであります。

兵児帯【へこおび】

よく使われる角帯と違い、柔らかいシワシワの布でできていて、簡易に結ぶことができます。
現代では子どもの浴衣によく使われますね。

縁辺【えんがわ】

通常「縁側」と書きます。
当時の日本家屋における、部屋の周りをぐるりと囲んだ、半屋外の板敷きの通路です。
縁側からは庭が臨めます。

勉強【べんきょう】

ここでいう「大変勉強だね」は、「学問をする」のではなく「物事に精を出す」という意味です。

被布【ひふ】

もともとは、茶人や俳人など男性が好んで着物の上に着た防寒やほこり除けの着物です。
後に女性や子どもの外出時にも使用されるようになりました。
現代では、七五三で女の子が着ているのをよく見かけます。

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凍結る【かじける】

通常「悴ける」と書きます。ここでは、寒さで手がかじかむことを指しています。

御倹約【ごけんやく】

無駄を省いて費用を切り詰めることです。「節約」とよく似た意味です。

座敷【ざしき】

畳敷きの部屋のこと。「勝手の座敷」とあるので、台所に面している畳敷きの部分を指していると思われます。

女中部屋【じょちゅうべや】

女中が住み込みで寝起きする部屋です。家によって違うので一概には言えませんが、3畳ほどの和室が一般的でした。
日当たりが悪い、畳の縁がない、雨戸がないなど、他の部屋より設えがやや劣ることが多いようです。

高窓

壁の高い位置にある、煙出しや明かり採りのための窓です。
ただ、真蔵が壁際に立って外を見下ろせるほどの高さなので、それほど高くない位置に付いている窓であるか、または天井が低い部屋だと思われます。

二尺

2尺=60cmほど。

何心なく

「なんとなく」という意味です。

我知らず

「自分でも知らないうちに」「無意識に」という意味です。

切炭【きりずみ】

使用しやすい大きさにカットされた炭のことです。

手玉に取る【てだまにとる】

「手遊びする」こと。
「お手玉」と同じです。現代では、人の心や行動をコントロールしたりもてあそんだりするような、悪い意味で使われることが多いですね。

得為すまい【えすまい】

漢文の書き下し文。
表記としては、「得為まい」が正しいのではないかと考えられます。
「できないだろう」「するまい」「まさかしないだろう」という意味です。

策の得たるものではない

「良い考えではない」「良いポリシーではない」という意味です。

茶の間【ちゃのま】

明治後期、家の中心部にある部屋が「お茶の間」として、家族が集まる生活の中心の部屋となりました。

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新橋【しんばし】

東京の代表的な下町です。東京駅より南に2.3km、徒歩30分ほど。当時の新橋駅は、現在の汐留駅の位置にありました。

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勧工場【かんこうば】

勧行場とも。大きな建物の中に店舗ごとの小さなブースが並んでいて、西洋や中東のバザールのような雰囲気があります。
当初、西洋技術の紹介や国内産業の発展を目的として設置された「内国勧業博覧会」の残り物を販売する施設でした。
当時のお店は主に交渉による販売だったので、店頭に直接陳列された商品を選べるのが珍しく、人気を博しました。
この作品の時代は最盛期で、東京に20以上存在しましたが、やがて粗悪品が増え、百貨店の登場によって衰退しました。

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寒がり坊【さむがりぼう】

「寒がり屋さん」という意味です。

大徳【だいとく】

茨城県の土浦に江戸時代に創業した「大徳」という名前の呉服屋さんがありますが、それを指しているかどうか、定かではありません。
また、浅草には大徳院という寺院がありますが、これも関連があるかどうかわかりません。
よくある名前だったと推測されますが、どなたかお分かりになるかたがいらしたら、教えていただけましたら幸いです。

舶来【はくらい】

外国から船で輸入したもののことです。当時は空輸がないので、当然、すべて船で運ばれて来ます。輸入品は「舶来品」と呼ばれ、大変貴重なものとして扱われました。

留度がない【とめどがない】

「止め処がない」「留まることを知らない」という意味です。

勝手口【かってぐち】

台所の出入口、または台所から外に通じる出入口のことです。
例えば、「サザエさん」で三河屋さんが注文を取りに来るのは、勝手口です。

破火鉢【やぶれひばち】

おそらく、植木屋夫婦は貧しく、火鉢にヒビや割れ目があったのだと思われます。

埋かる【いかる】

「うずめてある」という意味です。炭が長持ちするように、火鉢の中の灰に埋めておくことです。

偖は愈々【さてはいよいよ】

「それではとうとう」というような意味です。真蔵は、タイミングを計っているようです。

ごうごうと

「嗷嗷と」と書きます。口やかましく、騒々しく話す様子です。

忍びなかった【しのびなかった】

「我慢できない」「耐えられない」という意味です。「そうまでするに忍びなかった」というのは「そこまではできなかった」という意味です。

仕様事なしに【しょうことなしに】

「仕方なしに」「しょうがなく」という意味です。

中の部屋【なかのへや】

家の、中ほどに位置する部屋のことです。

猶お【なお】

「引き続き」「相変わらず」という意味もありますが、ここでは「さらに」「もっと」「いっそう」という意味で使用されています。

諄々と【じゅんじゅんと】

しつこく繰り返す、「ぐずぐずと」「くどくどと」という意味です。

譏謔【あてこすり】

通常「当て擦り」と書きます。「当て付け」と同じ意味で、遠回しな嫌味を言うことです。「譏」は「そしる」、「謔」は「たわむれる」という意味の漢字です。

物言を附けられる【ものいいをつけられる】

「クレームを付けられる」「文句を言われる」という意味です。
「反対に」とあるので、お清は「逆ギレされたら大変よ」と心配しています。

変妙来【へんみょうらい】

この言葉の使用例が他で見当たらないため正確なことは分かりません。お清は「奇妙な」「おかしな」という意味で使っていることは間違いありません。
江戸時代に、奇妙な様子を表す「変評来」という形容詞があり、古典落語に登場します。「ぴょ」と「みょ」は発音時の唇の動きが似ており、「変評来」に「変であり妙である」という意味が合わさって、訛ったものであると考えることもできます。

向う不見【むこうみず】

通常「向こう見ず」と書きます。先のことを考えずに行動することです。

袂【たもと】

和服の袖の、袋のように垂れた部分です。いわゆる「袖の下」です。
江戸時代、この部分に隠すようにこっそりと品物や金銭を渡したことから、今でも賄賂のことを「袖の下」と言いますね。

前掛け【まえかけ】

和装の上から着けるエプロンです。
「前垂れ」とも呼びます。
昭和時代以降は帯の上から着けていますが、江戸時代や明治時代の写真を見ると、お端折りの下で腰紐のように結んでいたようです。

しゃっちっ張る

「鯱張る」「しゃちこばる」「しゃっちょこばる」の別の言い方です。
名古屋城の天守閣に付いているので有名な「しゃちほこ」は、頭は虎、体は魚で、尾ひれが天に向かって大きく反り上がっています。
この姿から、緊張して固くなる様子を指します。
ここでは、お源が掛けている布団の綿が薄くて固いため、板のように平らなってしまい、体に貼り付かない様子を形容しています。

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一倍【いちばい】

「他と比べ、いっそう」という意味です。本来「倍」という漢字そのものが「×2」を表しているので、西洋の数学の概念が持ち込まれるまで、「1倍」は現代における「2倍」を意味していました。

高【たか】

「分量」という意味です。

一念【いちねん】

「深くそのことを思うと」という意味です。

促急込んで【せきこんで】

「いらだって」「心がせいて」「ひどく急いで」という意味です。

独問答【ひとりもんどう】

「問答」は「問うことと答えること」で、もともとは仏教の修行を指す言葉です。
ここでは、お源が1人で「ああでもないこうでもない」と思案していることを指します。

燈【あかり】

この「燈」という字は、暖房や調理の火ではなく、灯りを指します。ここでは、ランプのことです。

香物【こうのもの】

日本には、茶道・華道などと同じように、香木をたいて香りをかぎ分ける香道という貴族の遊びがありました。
その際、鼻を通したり、口の臭気を取り除いたりするリセットのために、大根の漬け物を食べました。
「お新香」の「香」もここから来ています。
磯吉はたくあんを食べていますが、たくあんも大根の漬け物で、沢庵宗彭が考案したとされています。

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前が開いて膝頭が少し出ていても合わそうとも仕ない

和装では、脚が見えるのははしたないことですから、お源が裾を直す気力や余裕がない状態だということを表しています。

乞食【こじき】

食物や金銭を恵んでもらい、生活する人のことです。差別的に使われたため、現代では使用されません。

饑死【かつじに】

正しくは「かつえじに」と読みます。「飢え死に」「餓死」という意味です。

煙管を撃いて【きせるをたたいて】

磯吉は火鉢の縁で煙管をコツコツとたたいています。
煙草の先の灰を指でたたいて灰皿に落としますが、煙管も、草を詰めた火皿に燃えかすの灰がたまるので、専用の煙草盆や火鉢に落としていました。

道楽【どうらく】

仕事とは別に持っている趣味のことです。
美術品の収集など高尚な趣味を指すこともありますが、ここでは、色事(風俗)や博打(ギャンブル)を指していると思われます。

精出しておくれなら【せいだしておくれなら】

お源は「せっせと働いてくれたら」という意味で言っています。

土間【どま】

日本家屋において、床がなく土がむき出しになっている箇所のことです。台所や玄関などに土間がありました。

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麻裏【あさうら】

草履の裏側に、麻紐が固く編まれているものです。

新開/新開地【しんかい/しんかいち】

新しく開けた市街地のことです。当時の東京郊外は、新興住宅地といったところでしょうか。
神戸市の「新開地」や伊勢市の「しんがい」、さいたま市の「しびらき」など、地名として残っているところもあります。

七八丁【しちはっちょう】

1丁=110mなので、約800mです。徒歩10分ほどです。
明治時代の人はよく歩き、足が速いので、磯吉の足ではもっと早いかもしれませんね。

一円

現代の価値では、1万〜2万円ほどであると考えられます。

初公【はつこう】・金公【きんこう】

ニックネームとして、親しみを込め、名前の1文字目に「公」を付けています。「金次」は「金公」、恐らく「初公」も「初太郎」や「初之助」などという名前なのでしょう。
「忠犬ハチ公」が有名ですね。
しかし、戦後に米軍を「アメ公」、ヤンキーが警察を「ポリ公」、教師を「先公」などと見下して言うことの方が増え、侮蔑的な表現となりましたので、現代ではあまり良い意味にとられません。

お銭【おあし】

お金のことです。まるで足が生えているかのように早く流通するため、そう呼ばれました。
もともと、宮中に仕える女性たちが使う女房言葉が広まったものです。

弁当【べんとう】

今も愛好者がいる曲げ輪っぱや竹籠の弁当箱は、江戸時代からあったものです。

御用聞き【ごようきき】

お店の注文を受ける人のことです。
昭和のころまで、酒屋や炭屋の御用聞きが定期的に勝手口を訪れ、注文を取りに来ました。「そろそろ足りなくなるころだろう」というタイミングで次の注文を取ることで、上手に、継続的に売っていたのです。宅配の生協さんのようですね。
有名なのは、テレビアニメ「サザエさん」に登場する三河屋のサブちゃんですね。(三河屋は、醤油や酒など醸造されたものを販売する小売店の総称です)
昭和のころまでは、豆腐・納豆・あさり・しじみ・パン・竿竹など、朝から頻繁に行商が通りました。

脚継ぎ【あしつぎ】

高い所に届かない時に踏み台にするものです。

梁【はり】

垂直の柱の上に水平に渡し、屋根を支える材です。

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細帯【ほそおび】

現代において、浴衣によく使われる半幅帯・浴衣帯より、更に数センチ幅が狭く、11cm〜13cmほどの帯のことです。現代では使用する人が少なくなりました。

渋谷村【しぶやむら】

現在の東京都渋谷区。東京府豊多摩郡渋谷村です。独歩は、1896年(明治29年)から渋谷村に住んでいました。

参考文献

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