役者には役者の読み方で

 

引き続き、暖房が効かない寒い部屋での稽古です。
この日は、色んな人が朗読する音声を聴いて、参考にしました。

 

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ここからは、稽古でやった場面と、それについてキャストが話した内容をお届けします。
作品本文は、青空文庫からコピーしたものに、読み易いよう改行を加えています。
キャストが話した内容は、録音した物を文字に起こし更に編集しています。
なお、議論は明確な答えを出すものではなく、情報は必ずしも正確ではありません。
演出を付けるために自由な発想に基づいて発言しております。

 

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国木田独歩より 竹の木戸

 

磯吉が帰って来た。
頭が割れるように痛むので寝たのだと聞いて磯は別に怒りもせず驚きもせず自分で燈を点け、薬罐が微温湯だから火鉢に炭を足し、水も汲みに行った。湯の沸騰るを待つ間は煙草をパクパク吹していたが
「どう痛むんだ」
返事がないので、磯は丸く凸起った布団を少時く熟と視ていたが
「オイどう痛むんだイ」
相変らず返事がないので磯は黙って了った。その中湯が沸騰て来たから例の通り氷のように冷た飯へ白湯を注けて沢庵をバリバリ、待ち兼た風に食い初めた。

布団の中でお源が啜泣する声が聞えたが磯には香物を噛む音と飯を流し込む音と、美味いので夢中になっているのとで聞えなかった、そして飯を食い終ったころには啜泣の声も止んだのである。
磯が火鉢の縁を忽々叩き初めるや布団がむくむく動いていたが、やがてお源が半分布団に巻纏って其処へ坐った。前が開て膝頭が少し出ていても合そうとも仕ない、見ると逆上せて顔を赤くして眼は涙に潤み、頻りに啜泣を為ている。

「どうしたと云うのだ、え?」
と磯は問うたが、この男の持前として驚いて狼狽えた様子は少しも見えない。
「磯さん私は最早つくづく厭になった」
と言い出してお源は涙声になり
「お前さんと同棲になってから三年になるが、その間真実に食うや食わずで今日はと思った日は一日だって有りやしないよ。私だって何も楽を仕様とは思わんけれど、これじゃ余りだと思うわ。お前さんこれじゃ乞食も同然じゃ無いか。お前さんそうは思わないの?」
磯は黙っている。
「これじゃ唯だ食って生きてるだけじゃないか。饑死する者は世間に滅多にありや仕ないから、食って生きてるだけなら誰だってするよ。それじゃ余り情ないと私は思うわ」
涙を袖で拭て
「お前さんだって立派な職人じゃないか、それに唯た二人きりの生活だよ。それがどうだろう、のべつ貧乏の仕通しでその貧乏も唯の貧乏じゃ無いよ。満足な家には一度だって住まないで何時でもこんな物置か――」
「何を何時までべらべら喋舌てるんだい」
と磯は矢張お源の方は向ないで、手荒く煙管を撃いて言った。
「お前さん怒るなら何程でもお怒り。今夜という今夜は私はどうあっても言うだけ言うよ」
とお源は急促込んで言った。
「貧乏が好きな者はないよ」
「そんなら何故お前さん月の中十日は必然休むの? お前さんはお酒は呑ないし外に道楽はなし満足に仕事に出てさえおくれなら如斯貧乏は仕ないんだよ。――」
磯は火鉢の灰を見つめて黙っている。
「だからお前さんがも少し精出しておくれならこの節のように計量炭もろくに買ないような情ない……」
お源は布団へ打伏して泣きだした。
磯吉はふいと起って土間に下りて麻裏を突掛けるや戸外へ飛び出した。

戸外は月冴えて風はないが、骨身に徹える寒さに磯は大急ぎで新開の通へ出て、七八丁もゆくと金次という仲間が居る、其家を訪ねて、十時過まで金次と将棋を指して遊んだが帰掛に一寸一円貸せと頼んだ。明日なら出来るが今夜は一文もないと謝絶られた。
帰路に炭屋がある。この店は酒も薪も量炭も売り、大庭もこの店から炭薪を取り、お源も此店へ炭を買いに来るのである。新開地は店を早く終うのでこの店も最早閉っていた。磯は少時く此店の前を迂路々々していたが急に店の軒下に積である炭俵の一個をひょいと肩に乗て直ぐ横の田甫道に外て了った。

大急で帰宅って土間にどしりと俵を下した音に、泣き寝入に寝入っていたお源は眼を覚したが声を出なかった。そして今のは何の響とも気に留めなかった。磯もそのままお源の後から布団の中に潜り込んだ。

 

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—磯吉は一応、お源に「どう痛むんだ」と質問している。

◆栗田:これ、2回訊いて無視されるじゃないですか。やっぱり2発目はキレていいの?
◆皆:キレないよっ!
◆栗田:どう痛むんだぁぁぁ!? オォォォイ!!!!!(叫)
◆皆:叫ばないでよっ!
◆栗田:叫びたい。
◆のあ:「狼狽えた様子は無い」って書いてあるじゃん。
◆栗田:狼狽えるのと、キレるのは、違います。狼狽えずに、キレる。
◆のあ:キレてたらそれは、狼狽えた結果キレてんじゃん(笑)
◆栗田:え〜。

 

—「貧乏が好きな者はいないよ」も叫ばないでね。

◆Caori:これは、「うるせーな」って感じの言い方? でも怒り過ぎない感じ。
◆吉田:イライラで、まぁ、それこそ叫びそうなんだけど、押し殺して、これが出たんだろうね。
◆スズキ:だからこそ、外に逃げ出す訳だしね。
◆Caori:だから最初に金次と将棋するのかね? 1度、イライラをクールダウンしようとしてるのかな?
◆のあ:妻が家で泣いてるのに、なんで将棋して遊んでんだよ、って感じもあるけどね(笑)

 

—磯吉が家を飛び出した時、勝算はあった? 無かった?

◆栗田:だから、磯吉って、最初から “泥棒” じゃないんだよね。最初は、合法的にお金を借りようとしてるんだよ。友人から。やっぱり、明治時代は、お金の貸し借りが文学になるんですよ。漱石の小説とか。金借りないと始まらないんだろうね、やっぱり。

 

—お源って、どのぐらい泣くんだろう?

◆栗田:これ、お源の涙のペースも、かなり細かく指定されてるね。
◆吉田:涙のペース(笑) そうね。
◆のあ:すすり泣くとか、袖で拭くとか、結構細かいね。
◆スズキ:かおりんさんの演技を、もっと舞台の演技みたいに、大袈裟にやってみてもいいんじゃないかな。1度マックスで読んでみる?
◆Caori:演技をマックス?
◆スズキ:そうそう。

 

—ちょっと、色んな音声を聞いてみよう!

◆栗田:だから、ちょっと、これ聴いてみましょうよ。(PCを開く)

◆スズキ:なになに?
◆のあ:今日ね、午前中の稽古で、とづ(戸塚)と3人で、色んな音源聴いたんだ。
◆スズキ:あ、そうなの?
◆のあ:朗読とかアナウンスを教えてる講師の先生とか、あと大御所俳優さんのとか。

 

—「竹の木戸」の朗読を聴いてみました。

◆Caori:凄く、王子様っぽいね。
◆のあ:ミュージカル俳優みたいだよね。
◆Caori:はぁ〜、結構、お源の役では泣くんだね、このシーン。
◆スズキ:思ったより演技するね〜ぇ。
◆のあ:そうだね。かおりん(Caori)すすり泣きとか続けてていいよ。もう。
◆Caori:あ、ホントに?
◆のあ:劇団で朗読してることの意味が無いとなぁ、と思って。綺麗に読むっていうことは、もっとプロフェッショナルな先生たちがやってることだし、我々には多分完璧にはできないじゃない? 勿論、ある程度の基準は満たすべきだし、基礎練習とか努力するべきなんだけど。
◆スズキ:何が違うんだろう?
◆のあ:わたしとか、もちこ(吉田)がやって来たメソッドの朗読は……まず、滑舌とか発音は基本的に絶対正しく読まなきゃいけない。なるべくニュートラルに読む。変な抑揚を勝手に付けたりしないように、必ず意味に則した高低差を付ける。感情の起伏とか、演技に近い部分で言えば、聞き手の想像をかき立てる程度の読み方で、自分の思い込みで派手派手に演じたりするのはNG。
◆吉田:そうなんだよなぁ。

◆のあ:でも、わたしが集めてるのは何らかの形で、小劇場で演技してる役者さんたちだから。もっと自由でいい。本に忠実であれば。そのためにこうやって議論してる訳だけど。
◆栗田:あ、じゃあ俳優さんの聴きましょう。

 

—栗田ばねオススメ、橋爪功さん、高倉健さんの朗読を聴きました。

◆Caori:最初から凄いなぁ……喋り始める最初の1音目から、センテンス全体を見越した音の入り方とペース配分だよね。凄い。説得力あるし、内容がスルスル入って来るなぁ。わたしは綺麗すぎるよりこっちの方が入って来る。
◆のあ:うん。なんか、ある程度、読んでる人の生きて来た軌跡みたいなものが、役者さんだからこそ、出てる気がする。やや引っ掛かる部分残してるから、聞き逃したり、理解できない部分とかが無いよね。
◆栗田:オススメです。

 

—アニメ「サザエさん」を、音だけで聴いてみました。

◆栗田:凄いでしょ、これ。
◆吉田:恐ろしい抑揚だね。
◆栗田:解りやすいんですよねぇ……、本当に。

 

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