宮沢賢治「注文の多い料理店」|作品に登場する語彙の解説

ことば調べ
注文の多い料理店
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宮沢賢治の短編『注文の多い料理店』に登場する、ちょっと難しい言葉の意味を調べてみました。

劇団ののは、言語学や歴史学のプロフェッショナルではありません。
様々な文献や辞書をあたったり、プロフェッショナルの方に手助けをいただいたりはしていますが、あくまでも自力で調べ物をした結果を掲載しています。誤った情報が含まれている場合がありますので、ご注意ください。
また、調べ物をした結果、真実が突き止められないこともあります。
ご了承ください。

紳士【しんし】

歴史的には、イギリスの16〜19世紀の社会階級「ジェントリ」に属する男性を「ジェントルマン」と呼んでいましたが、現在では、広く、上品で礼儀正しい男性、身だしなみがいい男性をさす言葉です。

日本では明治時代に訳語として「紳士」が使われるようになりました。

対義語として、女性の場合は「淑女(レディ/Lady)」と呼びます。
現在、「紳士淑女のみなさま(Ladies and gentlemen.)」という呼び掛けについて、男女二元論的な性別観に基づいているため、廃止の動きが出ています。

イギリスの兵隊のかたち

イギリス陸軍の軍服は、複数種類があります。なかでも赤色の上着に黒いズボンが有名ですが、全身カーキ色の制服もあります。種類が多いので、この作品でどの制服を指しているのかは不明ですが、外套を着ているので、冬服姿の可能性があります。
賢治はヨーロッパに強い憧れを持っており、自分の住んでいる地域を「イーハトーヴォ」と名付け、空想を広げていました。もちろん、イギリスにも憧れを持っていて、賢治は地元の海岸を「イギリス海岸」などと名付けていますが、実際にイギリスに行くことはありませんでした。
ここでも、都会から来た、おしゃれで立派な様子を「イギリスの兵隊のかたち」と分かりやすく表現したものと思われます。
第二次世界大戦の直後、多くの文学作品もGHQの検閲対象となりましたが、この箇所は問題視され、削除された時期があります。*

(*参考:谷瑛子

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ぜんたい

一体全体、まったく、という意味です。

山鳥【やまどり】

山に棲む鳥全般を指しますが、特にキジ目キジ科のヤマドリや、ライチョウのことを指す場合もあります。
ヤマドリは水炊きにして食べると美味なんだとか。

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西洋造りの家【せいようづくりのいえ】

畳や障子が使われる日本風の家に対して、板敷きやレンガで作られた西洋的な造りをした家です。
西洋造りの家は現代では珍しくありませんが、第二次世界大戦以前の日本では珍しく、「西洋館」とも呼ばれました。
東京駅や神戸の異人館などが有名です。

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白い瀬戸の煉瓦【しろいせとのれんが】

「瀬戸」は陶器の名産地である愛知県北部の地名ですが、転じて磁器や陶器(瀬戸物・瀬戸焼)全体も指します。
日本で最初にタイルが造られた場所でもあります。
国内で生産される煉瓦は赤色をしているので、ここでいう「白い瀬戸の煉瓦」は、煉瓦のように長方形をしたタイルのことかもしれません。
または、この物語の舞台のモデルの候補のひとつであると言われている花巻精養軒の写真を見ると、外壁に比較的薄い色のブロックが使われているため、ここでいう「瀬戸」は広く焼き物のことを指している可能性もあるでしょう。

ロシア式【ろしあしき】

紳士は、ドアが何重にもなっていることをさして、このように言っています。
寒い地域、雪国などでは、少しでも冷気をさえぎるために、リビングルームまでに複数のドアがある場合があります。
ロシアや周辺国では、アパートやスーパーマーケットなど、建物のドア、また各家のドアなどが、二重になっている場合が多いようです。
日本でも東北や北海道など雪深い地域の住宅の玄関がそのようになっています。
また、ここではドアが水色のペンキで塗られていますが、ロシアでは、ドアや窓枠、壁紙などに明るい色を使用し、水色が使用されることもあるようです。

髪をけず(る)【かみをけずる】

髪をくしなどでとかすことです。「梳る(くしけずる)」とも言います。

帯皮【おびがわ】

革製の帯のことで、これは鉄砲の弾を腰に提げるためのベルトです。

外套【がいとう】

西洋のオーバーコート。防寒用のアウターです。

オーバーコート

外套と同じです。

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カフスボタン

洋服の袖口に、汚れを防ぐためにつける細長い布を「カフス」といい、それを留めるためのボタンが「カフスボタン」です。
様々なデザインのものがあり、おしゃれグッズとしても使われます。

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金物類【かなものるい】・金気のもの【かなけのもの】

金属でできたものをまとめた呼び方です。
ここでは、金ボタン、ブーツの金具、猟銃、ベルトのバックル、懐中時計などの金属類をさしているものと思われます。
現代では数が減っていますが、「金物屋」ではクギやネジといった金具のほか、DIYに使うような取っ手やレールなどを売っていました。

ひびがきれ(る)

寒いときに肌が乾燥してひびができることです。
現代では「あかぎれ」と言うことが多いでしょうか。
ひびがきれることを避けるためにハンドクリームを塗る人もいますね。

貴族【きぞく】

家柄や身分の高い人のことです。
贅沢で上品な生活をしているイメージがあります。
日本では、明治時代から第二次世界大戦以前に、特に華族という身分の人を指しました。
イギリスの社会的階級においては、王族の次に貴族の位が高く、紳士たちはその下の中産階級であると考えられますから、憧れや敬意をもって「お近づきになれるかもしれない」と言ったのでしょう。

めいめい

それぞれ、おのおの、一人ひとりが、という意味です。料理を一人ひとりに取り分けるための皿を「銘々皿」と呼んだりします。

下女【げじょ】

雑事をするために雇われている女性のことです。女中ともいいます。

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塩壺【しおつぼ】

塩を入れておくためのつぼです。
瀬戸物は湿気を吸収するため、瀬戸物の壺に入れておくと、塩がさらさらのままに保てます。

一分も【いちぶも】

少しも、ちょっとも、という意味です。

ホーク/サラド【ほーく/さらど】

ここでは、それぞれ、「フォーク」「サラダ」を表しています。
明治時代、外来語の輸入や書き言葉と話し言葉の一致が盛んにおこなわれました。特に外来語の輸入では、外来語の発音をそのままカタカナで表記することが試されました。
現代では「フォーク」「サラダ」と書きますが、当時はまだ表記に揺れがありました。他には、例えば「マシン」が訛って「ミシン」になったり、「ハンカチーフ」を「ハンケチ」と表記したりします。

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簑帽子【みのぼうし】

植物を編んで作った雪よけのためのフード付きマントのようなものです。
頭にかぶると、足元まですっぽり覆うことができます。
雪の多い地方で、雨合羽やコートのように使われました。

専門の猟師【せんもんのりょうし】

物語の主人公であるふたりの紳士も、狩猟をおこなうという点では猟師ですが、「専門の猟師」は、狩猟をすることで生計を立てていたり、その山に詳しかったりする猟師のことだと考えられます。
山は不慣れな人だけで入ると道に迷うことも多いので、ふたりの紳士は狩猟のために専門の猟師をガイドとして雇ったのでしょう。

参考文献

参考リンク

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作品についての考察はこちら↓

作品本編はYouTubeでも配信中↓

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