今日は、演出、ナレーションの吉田素子さん、信子役のCaoriさん、俊吉役の戸塚駿介くん、照子役のスズキヨシコさんです。
- この話がモヤモヤするのは、登場人物たちが感情を爆発させてぶつかり合うことをせずに終わるから
- 信子のモデルは実在の人物、吉田弥生さん、そして芥川が出会った人妻だった
- 芥川は、俊吉などを初め、物語の中で達観した万能の人物を登場させ、自己投影しているような気がする
- 信子は本当に文学の才能があるのか
- この話、みんなは誰に感情移入して読んでいる?
- 少女漫画でも、俊吉みたいなフワフワした男がモテる傾向にあるよね
などなど、今回は信子と俊吉に焦点を当てておしゃべりしました。
結末がモヤモヤなお話
のあ:なぜ、この作品の終わり方がスッキリしないかというと。前回の稽古で出た話なんだけど。『竹の木戸』は、それぞれの気持ちとか関係に終止符が打たれたじゃない? そして、その後の結末が描かれていたんだけど。『秋』は、何にも決着が着いてないのに、そのまま親戚付き合いが続いて行きそうなところがある。
Caori:こっちの話の方がリアルだよね。こういう人間関係の方が現代社会でも普通にありそう。
吉田:こないださ、初回の稽古終わった後、お風呂入りながら思い返してみてさ。
のあ:もちこ前回いなかったもんね。
吉田:「この話って何なんだろう?」「結局、何が言いたいんだろう?」って思っちゃって。最後モヤッとしたまま終わるから、「どういう話ですか」って訊かれても、「こういう話です」ってひと言で言えないよね。まぁ、だからこそ、色んな分析とか解釈が生まれて、論文がいっぱい書かれるんだろうね。
信子のモデルは実在の女性
のあ:この話は芥川さんが関わった女性への振り返りなのではないかという説も。
吉田:まじか(笑)
スズキ:出たよ、そういう文豪!(笑)
Caori:自叙伝的なね。
スズキ:「俺の総集編」だよ。
吉田:いるよな、そういうヤツ! 嫌い!
スズキ:ハハハッ!(笑)
のあ:芥川さんが、『秋』を書いたきっかけは、とある色気のある人妻と出会う機会があって。その人の人生観や経歴がとても印象的で。それが、信子さんのモデルになって。だから、『秋』が最初に雑誌掲載用に書かれた時は、その人妻さんのエピソードを書いてたみたいなのね。もっと信子も官能的な人物で、夫も夜に執拗に体を求めて来る、わりとよそで自由に不倫してるっていう描写があって。
Caori:随分違うんだね。
のあ:そう。それが、書いてるうちに、多分だけど、自分の関わった別の女性の思い出が投影され始めて。自分の元恋人の吉田弥生さんっていう女性を重ね始めて。いつの間にか話がすり替わったんじゃないかと。それが、今やってる『秋』最終版かと。
吉田:吉田?
のあ:吉田。
吉田:ふーん……吉田?
のあ:弥生。
吉田:これは、吉田についての振り返りなのかぁ(溜息)
のあ:弥生さんについてね(笑) 吉田さんは、ちょっと芸術やってるお嬢様って感じの人で、最後、芥川を捨てて安定した職業の……軍人か何かかな? と結婚することを選ぶのね。それが芥川的には多分、面白くなかったのかな。
Caori:弥生さんが信子で、軍人がこの「夫」に当て嵌まるじゃん!
のあ:そうなの。だから……ここからは完全に個人的な推測ね! 芥川としては、「夫」っていう人物をちょっとつまらない、平凡で大衆で典型的な男として描くことによって、吉田弥生が自分を捨てて選んだ男を格下げしようとしているのではないかと。「そんなつまらない男を選んだんですよ、あなたは。本当は結婚生活に退屈しているんじゃありませんか。わたしを選ばずに後悔しているんじゃありませんか」っていう。
スズキ・吉田・Caori:うわぁ。
のあ:だから、俊吉って、完全に芥川本人になるよね、それに当て嵌めると。「軍人と結婚した吉田さんは、まだ自分に未練があって、自分は吉田さんのこと何とも思ってないし、他の女と結婚できるけど……」っていう立場を、この話の中で取っている。
スズキ・吉田・Caori:うわぁ。
のあ:更に、「自分は何とも思ってないけど、知らず知らず、2人の女が自分を巡って争っているな〜」っていう状況も作り出してるし。「信子は、たしなむ程度のファッション文学で、実際には執筆が進んでいない。女子大学で習った受け売りの思想を披露してるだけ、本質的には芸術を理解できていない。俊吉は本気で文壇を目指しているし、実際仕事も始めている。流行の思想には被れず、自分なりの信念を持っている」っていう描き方も、どっかで吉田さんをバカにしているよね。
吉田:吉田をコケにするなんて、許せない。
スズキ:私情を挟むなよ(笑)
吉田:先に挟んだのは芥川だよ!
芥川は自分を上に置きたがる
吉田:『蜘蛛の糸』もさぁ、あれってだから、お釈迦様が芥川なんでしょ? 極楽から「フンフンフン♪」って見下ろして、「全ては俺の手の中」「遥か上から見てます」みたいな。
スズキ:『蜜柑』もそうじゃん? 貧しい田舎者の娘を見てバカにしてる主人公が自分でしょ。
Caori:上からやん。
吉田:異議無し!
スズキ:ちょっと、あれなのかもね、コントロールしたい派なんだろうね。自分はちょっと達観してて、気付いてないけど上にいるっていうか、えーっと、何て言うんだろう?
Caori:いや、言いたいこと解るよ。1番いい立場だもんね、それが。冷静に判断できてる、俺様。
のあ:楽だし、憧れのポジションだもんねぇ。
スズキ:そう、自分は勝負してないんだけど、先に遥かな高みにいて。みんなはまだアホでドロドロしたりしてて。それを見下ろしたり、他人から求められたりはしてて、でも手を汚さない的な。
のあ:ジャンプの漫画にそういうキャラ出て来るよね。
Caori:そういうスタンスを取りたい人なんだろうね。
吉田:いるんだよ、そういうヤツがっ!!!!!(怒)
スズキ:吉田さん実感こもりすぎ(笑)
Caori:何かあったの?(笑)
スズキ:あったんだろうね。
のあ:あるあるの積み重ねだからモヤッとするのかも。
吉田:異議無し!
Caori:もちこ、今日、燃えてるね(笑)
のあ:ちょっとこの物語は時代の先端っていうか。多分、最近ヒットした、話題になったドラマって夫婦もの、不倫もの、家族もので、「あるあるの積み重ねの宝庫」みたいなのが多いと思うんだよね。
吉田:どんな。
のあ:宮藤官九郎さんとか、坂本裕二さんとかかな。『ゆとりですが何か』とか『カルテット』とか『最高の離婚』とか。もちろん巧いから、構成的な衝撃展開もあるんだけど、どっちかっていうとセリフの力が凄く強くて、「こんな夫婦いるよね、夫婦喧嘩するとこういうこと言っちゃうよね、ホントはこんな文句言いたいよね、こういうことやりがちだよね」っていうことをどんどん提示していくタイプの。
吉田:あぁ、多いね。ヒット作は。グサッと来る会話で見せてくやつね。
のあ:現代人はさ、ちょっとやそっとの衝撃展開だともう慣れちゃったから、今は「あるある〜」って思いたい方向に、なって来てるのかな、って思うんだけど。「よくぞ、日常のこの場面を、こういう風に切り出して再現してくれたもんだな〜」っていう感心の方が強いっていうか。でも、この話は当時はウケなかったみたいで。
吉田:そうなの? 不快だから?
のあ:「あるある」概念が新しすぎたのかな。当時読んだ人たちは結構、「ん?」ってなっちゃったみたいで。「こんなに2人のうら若き乙女たちが出て来るなら、もっとその心情や恋愛模様を、もっと生々しく吐露してほしい、どう考えてるのか詳しく描写して読ませてほしかった」っていう感想もあるみたいね。
吉田:いや、これ全部言葉で語り尽くしちゃったら野暮でしょ。
スズキ:あぁ、朝ドラ的なね。
吉田:これ、今ドラマでやったら売れるかもよ? 昼ドラか深夜だろうけど。
信子はファッション文学
スズキ:でも、信子のファッション文学は一理あって。こないだの稽古で梅ちゃん(梅田拓)が言ってたのは、信子は、誰かにどうこう思われたいからやっている文学であって、本当にやりたいわけじゃないんじゃないか、って。
吉田:あぁ。
スズキ:例えば、母親の料理とかって多いと思うんだよね、家族とかお客様とか、誰かに食べさせるためにせっせと色んなもの作るけど、別に1人の時にグルメで、わざわざ手作りクッキー焼いて自分で食べて楽しむとか、多分そうではない人って多いと思う。
のあ:お世話すること、っていうのに意義を感じてるのかな?
スズキ:うんそうそう、誰か他人がいないと成立しない趣味なのかな。趣味それ自体が大事なんじゃなくて。照子のこともさ、大事な妹というか、妹を大事にしている自分を演出するために必要なのかな、と。利用されてるわ〜。
誰に感情移入して読む?
のあ:これってさ、誰に感情移入すればいいんだろう。
吉田:いやぁ! 本当にさぁっ!!
のあ:なぁに(笑)
吉田:今の話1つ取ってもですよ! 『秋』って誰に感情移入して読めばいいんだろう!? なんか登場人物の心情が難しくて理解できないもん! 今んとこディスカッションに参加できてないなぁ。先に謝っとくわぁ。
スズキ:アッハッハ!
Caori:もちこ『竹の木戸』の時は盛り上がってたのにね(笑)
スズキ:生粋の女中・お徳! なのかな。
のあ:『秋』にも一応女中出て来るから。女中に感情移入してみたら?
吉田:いや、女中って、俊吉に葉書渡すとこしか出て来ないけどっ!?
のあ:でも、こういう人ってわりとリアルっていうか、現実社会に多いと思うんだけどね。
吉田:いや! 夫とか照子は解るのよまだ。その辺にいっぱいいそうだけど。俊吉と信子が理解でいないんだよね。
Caori:嘘!? わたし照子が1番理解できない。俊吉と信子の方がいるいる、いっぱいいるよー。わたしちょっと解るもん、気持ち。
吉田:わたしさ、あんまり周りにいなかったんだ多分。
のあ:周りにいたかどうかって重要なのかな、やっぱり。
Caori:なるほどね。わたしの周りはこういう人が多くて。信子タイプは、とにかく周りのことを気にしすぎなんだろうね。周囲からの視線とか、思惑とか。自分をどう見せたいか、どう評価されてるか、みんなの中でどういうポジションか。だから自分で「わたしは女の子なのにサバサバしてるよ!」とか言い出したりね。
のあ:サバサバ……コンサバ?? 「わたしたちは男性に頼らないで生きて行くわ!」って感じがサバサバ? それは80年代か。
Caori:うーん、その子たちの「頼らないわ!」は、もうそれ言ってる時点で、頼っちゃってるってことなんだよね。
スズキ:名言ぽい(笑)
Caori:だってそうでしょう? 自己プロデュースして相手からの評価コントロールしようとしてるんだもの。
吉田:わたしの周りの女友達は、なんていうか、地に足が着いているというか、地道というか。この夫みたいな人と結婚する人が多いんだけどもさ。でもそれは、計画的っていうか狙い通りの結果で。しかも、結婚した後につまらないとは思わなくて、「いい旦那ゲットして安定した生活できて良かったぜ!」って感じだと思うよ。すぐ子ども作って、いわゆる「いい家庭!」みたいなものを築いてる。
スズキ:本来、この夫に合う結婚相手は、そういうタイプの人たちなのかもね。この夫が求めてる妻像もさ、きちんと家事して、家計支えて、って感じじゃん? 信子みたいな夢見がちなお嬢様じゃなくてさ。
Caori:信子こじらせてるもんね。家計簿とかつけないで、値札見ずに高い買い物とかしてそう。経済観念がしっかりしてるタイプは、経済的にも精神的にも安定した人を求めるし、合コンとか婚活パーティーでも「年収○○円」とかが条件なんだろうね? 見た目は「できればイケメン」ぐらいで。
のあ:逆に、俊吉のようなダメイケメンの人には、信子のような人は惚れやすいね。
Caori:解る解る解る〜! だからね、わたしの周りはね、みんな俊吉と信子ばかりなのよ多分。信子は元々お嬢様で世間知らずだから引っ掛かってしまうんだよ。
吉田:あぁ、なるほど。
のあ:俊吉って今で言うとどんな人なんだろう。売れないバンドマン的な。
吉田:出た。「俳優の卵」だな。
Caori:そうそう、授業にはあんまり来ないんだよ。深夜にバーとかでバイトしてさ。そういう男を見てね、「わぁ! 初めて見るタイプ!」ってなって好きになっちゃうんだよ。
のあ:「キャッ、かぶいてるっ♪」ってなるのかな。
スズキ:「かぶいてる」ってヤバいなぁ(笑)
少女漫画でも結局、俊吉みたいな男がモテる
のあ:そうか。やっぱ、かぶいてる人の方がモテるのかぁ。とても若い時はそういう人とドラマチックに遊んでてもいいんじゃない? 浮き沈みして悲劇の主人公に浸れるし。
吉田:結婚はキツいわ。浮気されてギャンブルされて最悪だわ。
スズキ:10代向けの少女漫画ってさぁ、大体、ヒロインの周りにいる選択肢の中からさぁ、チャラいイケメンのヤツが選ばれるじゃん? なんでなんだろうね?
Caori:解る! 『天使なんかじゃない』でもチャラい方が選ばれるんだよね!!
スズキ:学年1人気があって、周りの女の子は全員その男が好きで、でも実は家庭とか性格に影があって、ヒロインにちょっかいを出して来るんだよ。
のあ:それ『花より男子』じゃないか。
スズキ:いやもう全部だよ全部。
のあ:現実世界だとさ、そういう男はモデルみたいな派手な人を渡り歩くよね。地味でひたむきなヒロインは本来、存在すら気付かれないよね。
スズキ:いやいや、漫画でそれやっちゃったら夢が無いから。
のあ:それでさ、イケメンの他に必ずさ、ヒロインに本気で惚れてる、にぎやかしのさ、おちゃらけた男子が出て来るじゃん?
吉田:『花ざかりの君たちへ』ね! 中津くんね!
のあ:あと学級委員のまじめくんも出て来るじゃん?
吉田:眼鏡外すとイケメンの人ね。
のあ:そっちにしとけばいいのに。
吉田:そうそう! 絶対その「気付けばいつも隣にいる脇役くん」の方がいいよ〜? って思う!
のあ:朝ドラもそうだね。大体、第1週目の子役時代から登場してるマヌケな幼馴染みは選ばれなくて、ポッと出のイケメンと結婚するよね。
吉田:毎回そっちの脇役の男の子好きになって応援しちゃうんだよね、わたし。
のあ:お調子者とかマヌケな人と暮らした方が幸せになれそうだよね。あとさ、脇役男子の方がお金の匂いがするね。
Caori:え、そこ!?
のあ:将来性があるじゃないか、学級委員長を勤め上げる人材の方が。
スズキ:でも選ばれるイケメンは実家が大金持ちっていう設定も多いよ?
のあ:その会社はそいつの代で潰れるに決まってるさ。
スズキ:確かに。大体、本人も親も性格破綻してたりするもんね。
のあ:だからそれ『花男』でしょ!!(笑)
Caori:結婚だって、したって長続きしないでしょ。危険な匂いのする有名人さんは離婚した人ばっかりだね。あの人とかあの人とか。無精ヒゲの映画俳優みたいな。
のあ:そう考えると、オノ・ヨーコって自由なヒゲ男と最後まで上手く行っていたね。
吉田:確かに。ヨーコは添い遂げたね。
スズキ:いや旦那が途中で死んだんだから。離婚するに至らなかっただけよ。
吉田:ひどい(笑) でもまぁヨーコぐらいの女ともなればねぇ。離婚したって会社ぐらい興してたさ。ヨーコはやるよ。信子と違って。
実は戸塚もいます
Caori:戸塚。ガールズトークに飽きちゃったんだろう? いいんだよ、そう言っても。
戸塚:いやちゃんと聞いてますよ。
吉田:つまんねぇな、と思ってるんだろう? 正直に、ホラ。
戸塚:別につまんなくないですよ。
スズキ:でも、戸塚くんって少女漫画とか読むタイプでしょ? 詳しいでしょ? 今『フルーツ・バスケット』で言ったらどのキャラが好きか、みたいな話してるのよ?
戸塚:いやだからちゃんと話ついてってますよ!
のあ:でもほら、戸塚は本当はハッピー・エンドを好む人だから。
吉田:可愛いよね。
戸塚:その部分だけ取り上げないで。
Caori:『竹の木戸』も『秋』もハッピー・エンドじゃなくて大丈夫?
スズキ:ごめんね?
戸塚:大丈夫だから。
スズキ:次回はハッピーエンドの絵本にしよう。
戸塚:絵が無いと意味が無いから絵本は。
のあ:戸塚の声で「ぐり、ぐら、ぐり、ぐら」って言われてもね……ホラーだね。
戸塚:俺やらないよ?
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