芥川龍之介「秋」|俊吉って本当にチャラいの?天然でやってるの?

稽古場日記
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さて、引き続き、稽古の続きです。

前回までの稽古はこちらから!

後半戦は朗読の技術面に特化しています。

  • 芥川の文章は綺麗だと評判だけど、声に出すと読みづらい
  • アクセントがわからない単語もたくさん
  • 信子の「しばらく」は、現代で言うと「やっほ…」って感じでは
  • 信子が俊吉と再会して2人きりになるシーン、信子だけ一方的にドキドキしてるね
  • 照子ってどんな演技をすればいいんだろう?
  • ナレーターって、読む時、どんな感情なの? 誰に感情移入しているの?
  • 俊吉が罪な男なのは、天然でやってるのか、意識してやっているのか

などなど、ざっくばらんに、実体験などを元におしゃべりしています。

芥川の文章は朗読しにくい

吉田:芥川の文章ってさ〜、目で読む分には綺麗でいいんだけどさ〜、声に出して読みにくくない?

のあ:そう、前に『蜜柑』担当した時に思った。

吉田:そうね。わたし、前に『蜘蛛の糸』読んで、その時もつらかった。あのね、羅列が多いんだよね。

のあ:見えた情景とか語る時さ、絶対3つ並べるのよね。英語の「◯◯, ◯◯, and ◯◯」っていう、必ず3つ羅列するのに似ているな、って思ったんだよね。

スズキ:あ、わかるわかる。

吉田:「and」の部分「そうしてまた」って言うよね芥川の場合。

のあ:そしてさ、副詞を長い文章で言うよね。

吉田:喩えの部分ね。長いんだよ、喩えが。

スズキ:照子の手紙の中にも括弧がいっぱい入ってるけど、英語にしたら which とか that とかの文章が多いね。翻訳機にかけたらそのまま英文にできそうなのが多いな。

吉田:英語めっちゃ勉強してたんだな。きっとそうだ。

わからない発音がいっぱい

吉田:ところで「いとこ」ってどう読むの? 「糸子」?

のあ:アクセント辞典だと真ん中が上がるのしか載ってない。

Caori:え! 糸子でしょ。

吉田:そうよ。糸子でしょ。

のあ:違うみたい。

吉田:真ん中が上がってるってどういうこと? 何か似たアクセントの言葉ない?

のあ:うーん。「おちょこ」

吉田:キター! おちょこ! 台本にメモっとこ。

戸塚:似た言葉、探さなきゃだめなの?

吉田:書いとかないとさ、後でわかんなくなっちゃうんだよ。

Caori:おちょこ。いとこ。おちょこ。おちょこ。いとこ。

吉田:これで1番やっちゃうのは、本当に本番で「おちょこ」って読んじゃうことだよね!

戸塚:だからメモるの辞めましょうよ。

吉田:は?

Caori:ねぇ、「一つ火鉢」は? 「一つ」で切るの? それだと数えてる感じになりそうだけど。

スズキ:『竹の木戸』だと「一つからだ」は一つの単語だったよね。

Caori:じゃあ、これは繋げて読もうかな。

のあ:そういう言い方が一般的だったのかね。

吉田:ところで「二言三言」は? 繋げて言う?

スズキ:どっちだろう? 表現のしかたによるのかな?

のあ:1番むかつくのがさ、芥川って、文頭に「が、」って来るの多いよね。

スズキ:あぁ〜「ところが」の「が」ね。

のあ:そう。なんと表現したら良いやらで。汚い音から始まってしかも1文字やからなぁ。

スズキ:ねぇ、もちこ鼻濁音ちゃんとやってる?

吉田:やってないよ。めんどくさいから。

スズキ:やりなさいよ!

のあ:『蜜柑』の時は全部鼻濁音にしたけど、どうなんだろう?

吉田:そりゃ鼻濁音よ本当は。

スズキ:やりなさいよ!

吉田:いやぁねぇ「鼻濁音やってます!」って感じの読み方好きじゃないんだけど、これはちょっと1文字で強いからねぇ〜さすがにやるよ。

吉田:ねぇ、「殊に」のアクセントは?

戸塚:前回『竹の木戸』のナレーションで「殊にお徳は」って読みました。

Caori:同じアクセントの言葉……待って、「マロニー」……マロニーだよマロニー!

吉田:わかった。マロニー……ねぇ「コートニー」っていう女いるよね。外国人の。

Caori:誰?

吉田:多分いる。ちょっとメモっておく。

戸塚:それ本番で「コートニー」って読まない?

吉田:大丈夫だよ似顔絵描いておくし。「コートニーお徳は」

スズキ:いや今「お徳」って言ったよ。

吉田:あ。やばいやばい。ちょっと「ちゃんと言う」ってメモっておくわ。

戸塚:メモ、辞めなよ。

信子の「しばらく」は、「やっほ」では?

吉田:かおりんが久々に俊吉に再会した時の「しばらく」は、そんなにしおらしくしてなくていいんじゃない?

Caori:あらやだ、またマダム出ちゃったかしら?(笑)  なんかさ、そうなのよ、わたしの演技って……『竹の木戸』のお源って23歳ぐらいじゃん? 聴いてくれた人の感想で「Caoriさんの年増の役って、本当に年増な感じがしていいなぁって思って」って言ってくれて。いや、嬉しいんだけどさ!?(笑)

スズキ:アッハッハ!

Caori:頑張って若くいくよ。

のあ:これ、大学の時に好きだった人に会ってるわけだから。多分ちょっとでも可愛く思われたくて、すごいおしゃれして来てて、立ち居振る舞いとかも、ちょっとでもいい女に見られようと、平静装って「しばらく」って言ってるんだと思うな。「やっほ」ってこのお腹のあたりで手を振っちゃうけど、目合ってないし、頭の中が「何話そうかな」でグルグルしてる、みたいな。

Caori:もう今の「やっほ」で全てが解ったわ。

吉田:「やっほ」は秀逸だったね。

Caori:「しばらく」=「やっほ」ね。夫人にならないようにするわね。

スズキ:信子、派手なコート着て来てるな。

Caori:信子ってめっちゃ自分の見た目、気にしてそうだな。

信子ドキドキの再会

のあ:俊吉って、もっとピョンピョンした感じなんじゃないかな。若い感じ。

戸塚:え、ホントに? そういうイメージなのか……!

スズキ:そうね、もっと軽いイメージだね。ガラッとドア開けて「おう! 元気!?」みたいな。もっとチャラいのかな? せっかちな感じかな。

のあ:わりとウキウキしてるんじゃないかな。女の子たちが真面目に芸術の話してるのをフランスのギャグで茶化すとか。葡萄酒飲んでさ、斜め上から見てニヤニヤしているような。

吉田:あ、また俊吉むかついてきた。

Caori:許してあげてよ、架空の人だから。

のあ:でもさ、もちこ優しいから実際にこういう人と会ったら「明るくていい人だね」って言いそうだよ。

吉田:そうだね普通に仲良くするね。もしかして欺されてるのかな、あの人にもあの人にも。

スズキ:やっぱ、これって俊吉が飄々としてるからこそ信子が傷付くんじゃないかな。

Caori:そうそう、そうだと思うよ。

のあ:俊吉も、信子のこと意識してるなら「どうしよう、信子さんが自宅に来てしまった、家に2人きりで留守になってしまう、ドキドキ」っていう素振りを見せるはずだけど、なんか別に平気そうだし。

スズキ:動揺してモタモタするとかじゃなくて、スタスタ1人で先に歩いて招き入れて、信子が後からソワソワしながらついてってる感じだよね。

Caori:うん。「来るって知ってたけど、今日来るとは思わなかった」って、これ明るく言われたら、傷付くわ。「自分が行くってこと知らせてたのに、この態度か〜」って。もっと楽しみにするとか、やきもきするとか、そういう反応を信子は期待してたと思うから。「俊吉全然びっくりしてないじゃん、ドキドキしてないじゃん」って。

のあ:本当はさ、信子の予定としては、照子とか女中さんが先に出て来て、みんなもいる中で再会すると思ってたんだろうけど、そのワンクッションがなく、いきなり俊吉が出て来るっていうドラマチックさよね。心の準備ができていない信子はワーッてなってるのに、一向に俊吉がドラマチックな様子を見せない。

スズキ:いつも通りだよね。

Caori:「使いに行った、女中も」っていうのも、何も気にせず言ってるんでしょ、俊吉は。

スズキ:俊吉にとっては「いや別に、俺1人だけど?」っていう、痛くもかゆくもない状況なんじゃないか?

Caori:ドキドキしてるのはわたしだけ!?

のあ:どうなの、これは。戸塚はちょっと解ってて楽しんでるんですか?

戸塚:戸塚は知ってるけど、俊吉は解ってないと思う。

吉田:うん、これは全然意識してないでしょ。

Caori:悲し。

スズキ:信子としては「どうです、大阪の御生活は?」って訊かれるのは、ちょっとドキッとするかもね。俊吉は完全に気にしてないから茶化してるんだけど。

Caori:「大阪」って言われたら、自分には夫がいるんだっていう現実を思い出すしね。ねぇ、「ご生活」って、これって「THE 付けてみた」って感じ?

吉田:そういうの、『竹の木戸』でもあったね。

スズキ:お清の、「この度は御倹約ということに決めたのですから」ってヤツ。「ザ・倹約」みたいな。

Caori:ねぇ、大阪と日本の違いって何だろう?

吉田:日本?

Caori:ごめん、大阪と東京(笑)

吉田:かおりんにとって大阪は外国なんだね(笑)

Caori:うん、そうだよ。ねぇ、違いって何だろう。たこ焼きのあるなし。

吉田:たこ焼きどっちにもあるよ。

のあ:この当時の違いは調べないとよく解らないね。

スズキ:「さすがに懐かしそうな目つき」ってさ、これ本当にしたのかな、俊吉は。

Caori:違う。これはもう信子の希望だよ。懐かしく思ってもらいたいわけよ、さすがに(笑) 

スズキ:あぁぁぁ憐れ!(笑)

Caori:「今、手を動かしたから、こう思ってるに違いない」とか。「この言葉はこういう裏の意味だ」とか勝手に読み取って自分に都合のいいように解釈しちゃうんだよ。

ナレーターってどういう気持なの?

吉田:信子も信子だな、本当にもう。

Caori:信子を嫌わないで、もちこ。

吉田:大丈夫。ナレーターは全てのキャラクターを平等に愛してるよ。……俊吉以外。

戸塚:おい。

吉田:わたしはねぇ、自分のことを、この部屋の蛍光灯とか、観葉植物とか、そういうモノだと思ってる。

スズキ:え?

のあ:なんだ急に。

吉田:この部屋を見下ろしてるわけ。状況を。

スズキ:神の視点的な?

吉田:そうね、神までは行かないのよ。コントロールしてるわけじゃなくて。全部傍観して「へ〜大変だね♪」って思ってる。4人ともちゃんと見てるよ、あたしゃ。夫もよ。

Caori:あぁ……夫なぁ。

のあ:ん?

Caori:なんかこの再会の状況さ、「俊吉に少しも想われてない信子が可哀想」「悔しい」と思ってたけど、1番可哀想なの夫だな。なんか急に夫が可哀想になってきたわ。

スズキ:浮気されて?

Caori:そう。仕事してる間に。自こんなことが起こってるとは。

吉田:そうだぞ? まぁ夫も夫だがな。

照子ってどう読んだらいいかな?

スズキ:昨日の稽古で、梅ちゃんと戸塚くんに、それぞれ、照子の手紙を読んでもらって録音したんだ。

吉田:へぇ! 面白そう。

スズキ:うん、それぞれで良かったよ。参考になった。

のあ:あの部分長いからね。人によってプランニングに差が出そうだし、面白いね。

Caori:いいね。照子やってみたい。

のあ:かおりんがやったらどうなるんだろう。なんか凄い情念を感じそう、わたし。

Caori:照子って「俊さんと2人きり」って聞いて、これどう思うの? モヤッと? ちょいイヤ?

スズキ:ザワッと、じゃない?

Caori:ほう! どんなだろう。

戸塚:「あ、そうなんだ、ふーん……」みたいな。

スズキ:疑いメーターっていうか精神崩壊メーターがあるとして。

吉田:メーター1つ「ピ」って下がるみたいな?

スズキ:そうそう。1つか2つ減る。

のあ:欽ちゃんの仮装大賞みたい。

スズキ:何も決定的ではないから、とりあえずは保留事項なんだけど。

Caori:彼氏の浮気を疑っている女の子みたいな。

スズキ:ちょっと警戒してる感じ。俊吉の挙動が全く後ろめたくないというか怪しくもなんともないからこその保留なんだよ。ここで俊吉がソワソワしてたりしたら。

吉田:メーター「ピンピロリーン」ってめっちゃ下がる。

スズキ:下がる。

Caori:俊吉と信子の再会もそうなんだけど、照子が帰って来た後のシーンもさ、セリフそのものは少ないし、1つ1つも短いじゃん? だから読むの難しいよね。

のあ:なるほど。

スズキ:そうなのよ。この短い中に、しかも声色と言い方だけで、どれだけ裏の意図を込められるかっていう。

のあ:腹の探り合いね。それで言うと、照子の「2人だったの?」っていうのは、今の読み方だと、健康的すぎるように感じるな。

スズキ:あ、ほんと?

のあ:その後、「お姉様ひどい! 俊さん浮気者!」って真っ直ぐ怒れる人格のように聞こえる。

スズキ:あぁ、そっか。

吉田:もっとそわそわしなきゃいけないのかもね。不安げというか、探りを入れてるというか。臭くなりすぎると変だけどね。

戸塚:無理してにこやかさ保ってるけど、引きつりそう、みたいなね。

Caori:わたしたちメンバーにね、腹に一物ある役は難しいのよ。みんな普段言いたい放題なんだから。

吉田:ほんとだよな。

のあ:ゆっくり言うのはどう?

スズキ:おそるおそるってこと?

のあ:「言葉を選んでるわよ、テンション保てているわよ、わたし」っていう意識かな。

吉田:突き詰めると信子の「しばらく」と同じなんじゃない? 結局「やっほ」だよ「やっほ」 まぁでも難しいよ。わたしならきっとすっごいトゲトゲしく言っちゃうもん。「え? 何? 2人きりだったってこと?」みたいな。

Caori:そんでわたしも「ええ、俊さんだけ!」ってすっごいマウントするんでしょ?

スズキ:怖い怖い怖い。

戸塚:ギクシャクしないで。

俊吉は本当にチャラいのか?

吉田:俊吉の「旦那様に感謝しろ。その茶も僕が淹れたんだ」って、ヘタに読むとガチの亭主関白みたいになりそうだね。

スズキ:ジョークを飛ばすアメリカ人みたいなオープンマインドが必要なんじゃないかな。

Caori:信子と照子が久しぶりに喋ってるのに、適当に乱入してるよね。

のあ:原稿とか書きながら、ちょっと離れたところから

戸塚:えー、なるほど……。そうなんだ、うーん。

スズキ:お、どうした? 言ってごらん。

戸塚:なんかイメージしてたのと違うんだよね。多分、みんなが言ってる俊吉と、俺が思ってる俊吉のキャラクターが凄いずれてるんだろうな。ノリで生きてるとか、チャラいとかがピンと来ない。

スズキ:戸塚くんノリで生きてないもんね……何処に違和感を感じる?

戸塚:みんなが言うように、チャラく演じたとして。知性が感じられないっていうのが気になるかな。

スズキ:あ〜。文学を書くようなね。

戸塚:特に庭に出るシーンかな。テンションが乖離しすぎてるというか、急に別人みたいになるような。

スズキ:「寝ている」って囁くところ?

戸塚:うん。

のあ:それ戯れ言なんだと思ってたよ。こざかしい言い方をするんだと想像してた。

スズキ:真面目に言ってるんじゃないよね。キザな戯れ言だよね。

のあ:多分、芥川とか太宰って、「文豪」っていう言葉を使うと歴史上の偉い人物みたいだけど、この時代のこまっしゃくれたチャラい若者だと思うんだよね。

スズキ:歌舞伎者だよね。バンドマンみたいな。YouTuberとか。はじめしゃちょー。

吉田:え!? はじめしゃちょー?(笑)

スズキ:だって当時の最先端でしょ。ごめん、はじめしゃちょーのことはよく知らないや(笑)

Caori:大学時代、俊吉はバンドやってて、だから好きだったけど信子は手堅く会社員と結婚。でも最近俊吉がインディーズでちょっと売れ始めて、もしかしてメジャーデビュー? みたいな。再会したらやっぱイケメンで、辛い、みたいな。信子も軽音サークルでちょっとボーカルやってたからね。歌手になりたいと思っていたのよ。

吉田:凄い解る。

スズキ:だからやっぱり基本はチャラいんじゃないかね。思想家の本とか読むのも、今だとお堅そうに見えるけどさ、当時はそれが流行だからね。ファッションで言ってるだけかもしれない。

Caori:ホリエモンのブログ読んで意識高い系みたいな。

戸塚:そのね、チャラい人がね、月を見たいとか、「よい月だから」とか「十三夜かな」とか発言できる感性を持ってるんだろうか、っていう風に疑問に思っちゃって。

スズキ:今と教養の標準レベルが違うのかもしれないな。当時は、今で言われる「教養」と呼べるものが、もっと当たり前なものだったんじゃないかというような気がする。

戸塚:その当たり前の教養レベルを持ってる人がいて。で、自分の感性のままに「月を見たい」と思って、そんで月に感想を言ったとして。彼なりに思ってることがあってやってるっていう。でもそれは他人をどうこうしたい、他人にどうこう見られたいっていう意識が彼にあるんだろうか?

吉田:「チャラい」っていう言葉がさ、語弊があるんじゃないだろうか。戸塚くんの「チャラい」と、みんなの思う「チャラい」が違うんだな、きっと。それで、やっぱり、物理的な音質の問題なんだけど、戸塚くんの今の読み方だと、俊吉が物凄い誠実で地に足の着いた人物に聞こえるんだと思う。一音一音をきちんと発音して、語尾が全部落ち切って。だから俊吉の本心と発言が全部一致してるように見える。でももうちょっと、本心が見えないような喋り方をすると、信子と照子が勝手に心がザワザワして、それで取り合いみたいなことになるんじゃないかね。読めないからこそ。

戸塚:あー、なるほど。それも俺は反対のことを考えていたんだよね。俊吉が誠実であればあるほど、彼女たちは俊吉に翻弄されるのかな、って。

吉田:確かに俊吉って誠実ではあるよね。別に信子に手出すとかじゃないしな。

のあ:あ、わかった。「俊吉って人生楽しんでそう」っていうのが1番のイメージかな。信子と照子にとって俊吉ってある程度ミステリアスだから魅力を感じてるんだと思うんだけど。それは何考えてるか解らないからなんだけど。例えば、『竹の木戸』の磯吉ってミステリアスじゃん?

Caori:確かに(笑)

のあ:それって、磯吉が何考えてるか解らないからで、妻お源も読者も「きっと何か本当は考えがあるに違いない」と思うからミステリアスに感じてるんだけど、結局、彼は何も考えてなかったっていう結論じゃない? 俊吉も、文学やってるから会社員よりはお金なくて、周りからみたらお似合いだった信子じゃなくて照子と結婚して、でもなんかお酒飲んだり月見たり、いつも凄い楽しそうじゃない? 信子からしたら、余裕かまされてるから、この人は本当は何を考えてるんだろう? っていう。信子は、その「俊吉」にはなれなくて、煩悩にまみれて会社員との結婚を選んで、煩悩にまみれて文学に未練があって。だから、認めたくないだろうけど、自分を俗物だと無意識に悟ってる。信子はだから、この「会社辞めても好きなことやりたい」みたいな本物の芸術家の領域には、絶対に行けないわけだよね。信子はひっくり返っても俊吉にはなれない。本気で挑戦したら自分に才能が無いことをもっと認めることになるから。だから俊吉っていうのは、本気で好きなこと追究してて楽しそう、苦しいことが無さそうに振る舞っていると思う。少なくとも信子の目から見たら。

吉田:泥仕合してる女性たちの俗っぽい悩みの、遥かその上でさ、彼が悩んでることとかって、それを凌駕する高尚なもの、みたいな。それが飄々としてるってことかな。

スズキ:そういう人が持ってる「なんとかなるっしょ」っていう強さって、魅力にも見えるけど、表面上は何も考えてなくて軽い人に見えるのかもしれない。

戸塚:うんうん……俺が引っ掛かってる部分もあるし、あと技術的にもだけど、思ってるよりもっとオーバーに演技やらないと、そう聞こえないんだろうね。

吉田:あとさ、「芥川がこの話書いてるから」っていうの大きくない? 我々の中で。戸塚くんが思ってる俊吉ってさ、マジで純粋に文学だけが好きで、照子と信子に心の底から一切興味なく真面目に生きてる、っていうのが前提なんだと思うんだけど。

戸塚:そうそう、クリーンなヤツっていう。

吉田:やっぱ芥川が書いてる話だって解ってるからさ、わたしたちは。俊吉を純粋な目で見られないよね。俊吉が芥川なんだ、って投影してるから、こいつどうせ周りに女置いておきたいんだろ、って思っちゃうよねどうしても。

戸塚:そこはあるかもしれないですね、認識の違い。

のあ:そうだね、そこかもね。でもさ、百歩譲って俊吉が芥川ほどの自意識は無い純粋な人物だとして。彼が全く他人の目を気にしてないかっていうと、違うかなと思う。例えば合宿とかで、「外で星見よう」とか「川あるらしいから行ってみない?」ってちょっと宿を抜ける人がいた時にさ、1人でフラッと行く人と、誰かとじゃないと行かない人がいて。俊吉さ、本当に月見たいなら1人で行けばいいじゃん、って思わない?

スズキ:そうだよな!(笑)

のあ:わたし1人で見るわ。お酒飲むのも、月見るのも、やっぱり誰かとすることに意義があると彼は考えているんじゃないのかね……ただし、俊吉の場合、ここで照子が来たら照子と見ても良くて、2人一緒に来たら3人で見たんじゃないのかな。それで別に男友達でもいいんだと思うんだけどね。

スズキ:そこが女ったらしではなくて人ったらしってことよね。

Caori:聞いた人に「にくいね」って思わせる俊吉が1番いいね。

吉田:「にくいね」っていい感想だね。憎たらしいわけじゃないんだね。

戸塚:頑張ります。

吉田:こういう話し合いできるのがね、面白いよね。

スズキ:解釈は人それぞれだからね、本当は。

参考リンク

作品の視聴、他の記事へのリンクはこちらから↓

作品に登場する古い言葉、難しい言葉の読み方や意味の解説はこちらから↓

作品本編はYouTubeでも配信中↓

芥川龍之介 秋 第1話 - 劇団のの 朗読・ラジオドラマ|Ryunosuke Akutagawa "Autumn" 1/4 – Japanese Reading
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