芥川龍之介「秋」|キャスト日記:Caori『信子の世界は狭すぎて』

コラム
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芥川龍之介『秋』で、ヒロイン信子というかなり難しい役を演じた Caori さんが、コラムを書いてくれました。

国木田独歩『竹の木戸』では、貧しい育ちで、江戸っ子口調の、強くも儚いお源が似合っていた Caori さん。この信子は対象的に、大正の女学校を出た、知的なお嬢様。まっすぐ言葉をぶつけるお源と、賢くも含みのある物言いで逃げてしまう信子とは、全く異なる役ですが、どちらにも言えることは、「演じるのには、何か得体のしれない、色気が必要。な気がする。演出的には」ということかな、と思っています。

さて、Caori さんは何を思って演じていたのでしょうか?

信子は悪い子?

はじめて芥川龍之介の『秋』をみんなで読んだとき、圧倒的に信子への批判が集まった。

お話をまだ知らない方のために、ちょっとだけ登場人物を、できるだけ客観的に説明すると、

  • ・信子(姉):小さいときから、周りから才女と思われていた。いずれは俊吉と一緒になると思われていたが、別の会社員と急に結婚。
  • 照子(妹):小さいときは姉と俊吉が仲良く話す輪に入れず、後をついていくだけだった。姉に少しコンプレックス。信子の結婚後、俊吉と結婚。
  • 俊吉(いとこ):文学好き、作家志望で作品を書き続けている。信子と仲が良かったが、照子と結婚。

という感じ。

姉妹の信子と照子はお互い支え合って、結婚後も手紙のやり取りをする仲の良さ。なんだけれど、

信子は本当に今の結婚でしあわせなの? 
俊吉を照子にゆずるためだったんじゃない?
俊吉は、いったい誰のことが好きなの?
照子は姉に対してどんな気持ちを抱いてるの?

と、物語を読むにつれ、本当に仲がいいのかな? と不穏な気持ちになってくる。

なぜなら、信子と俊吉があんなに仲が良かったのに、急に信子が違う人と結婚したのは、妹の照子が俊吉のことを好きだと知って、譲った(と、照子は思っている)から。

そして、信子が照子の家に遊びにいった際、妹のことを大事に思っている(と思われる)にも関わらず、俊吉となにか起きないかな……と期待してしまうから。

さらには、それを見た照子と、静かな言葉のバトルがあるから。

そこで皆の意見が集中したのは

  • 信子→照子への態度がひどい!
  • 俊吉は照子と結婚したのに、信子と仲良くしてずるい、かわいそう

とにかく、信子がひどい、照子がかわいそう、信子を理解できない、という意見が多かった。

信子の気持ちになってみると

私は信子役として、あえて信子の側に立って弁護してみようと思った。

まず、『秋』で不思議だったのは、妹と俊吉以外の存在の不在。特に、信子のまわりの友達とお母さんの存在がほとんど描かれないのが、気になった。

信子「ってかさぁ、俊吉とウチ仲良かったじゃん? このまま行けばゴールイン? って感じだったじゃん。でも、照子がさー、俊吉のこと好きってゆーからさ、譲ってやったわけ。」

友達「えーまじ? 2人めっちゃいい感じだったじゃん」

友達「ってゆーか、のぶちゃん妹に好きな人譲るとか、まじ優しさー」

信子「好きってゆーと、微妙だけどさ……まあ今の旦那も安定してるし? お金持ってるし、暮らし向き上は満足してるんだけどさ。なんかさ、やっぱウチ文学好きじゃん? 家の中でも、自分と同じレベルで話したいわけよ。でも今の旦那はさ……」

云々カンヌン。

みたいな、実は複雑で奥深く渦巻いているかもしれない闇の心を、あえて客観的に、かるーく、自分は特に気にしていないふうに友達に話すことで、自分の黒い思いが昇華することはあると思うんだけれど。

友達との会話は一切出てこないし、おそらくそんなに気軽に内面を吐露できる友達はいなかったのではないかと思われる。

また、なにかあった時に、信子には精神的に頼れる人が照子しかいなかったことも気になる。旦那とうまくいかず落ち込んでいた時に、文章中で信子が思い出すのは照子。「照子しかいない」というような表現が出てくるぐらい。

このように、照子ははっきりとわからないけれど、少なくとも信子の世界はとても狭い。秋』本文中に出てくる、照子、俊吉、そして旦那以外の繋がりはほとんどなく、せまいせまい世界で、うつうつと、悶々と生きているようにみえる。

だから、照子かわいそう、というのもあった上で、信子も同じようにかわいそうだなあというか、もっと世界が広ければよかったのにね、と思う。

短いセリフと秘められた感情

『秋』ではナレーターが語る部分がとても多くて、ひとりひとりのセリフが短いんだけれど、その短いセリフのやりとりの裏に、いろんな想像をさせられる。

今回は、信子中心に、彼女の世界が狭いことについてちょっとだけ書いてみたけれど、実は他にもいろんな関係性が裏に隠されている。

芥川龍之介の中では有名な作品の方ではないと思うけれど、ぜひ今回の「劇団ののと読む」で、一緒に読んでいただけたら嬉しいです。

 
 

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