解説:「竹の木戸」あらすじ -下1-

 

さて、少し時間が遡ります。

お源は、真蔵に目撃されたすぐ後のことです。

 

お源は、自分の家に戻っていました。

真蔵が見下ろして来たのは、ちょうど、
炭を1つ着物の袖に隠し、もう1つを前掛けの下に包んで左手で押さえ、
もう1つ右手で取ろうとしたところでした。
3つ盗もうとしていたようです。
着物は袖の下の部分が袋状になっていて、
ここにお金を入れる人もいました。

お源は、多分うまくごまかせただろう、
真蔵は善人だから、疑ったりしないだろう、と考えました。

でも、なんだか大庭家の庭に水汲みに行く気分にはなれません。
そこで、布団を被って寝てしまいました。
横にはなっていますが、眠っている訳ではありません。
磯吉がいればまだマシですが、1人では寒すぎて震えてしまいます。

貧乏するのには慣れていますが、泥棒するのには慣れていません。
見付かったらどうしようという恐れもあるし、恥ずかしい気持もあります。
今日の出来事が目の前に浮かんで来て、顔から火が出るような気分です。

ああ、どうしたっていうんだろう。
あの旦那は、お人好しだからバレないだろう。
人がいいなんてのろまだ。大のろまだ。
フン、知れる訳がない。

パニックで、ほぼ逆ギレです。
悪いことがあった後は、次から次に、余計に悪い考えが浮かぶものですし、
なかなか気持を切り替えられませんよね。

 

気付けば月が出ていますが、お源は起き上がれません。
ランプも火鉢も点けていないので、部屋は真っ暗なままです。
お源が小さく丸くなって入っている布団は、
ちょっと見ただけでは、本当に人が入っているとは思えないぐらいです。
植木屋夫婦の家は、とっても寒いんですね。
それなのに炭が無い……これはピンチです。

 

そこに、仕事が終わった磯吉が、いつものように帰って来ました。
お源は、「頭が痛い」と言って寝ています。
本当のことは言えませんから。

磯吉は、別に驚くこともなく、怒ることもなく。
相変わらず、リアクションの薄い男です。
磯吉は、自分でランプを付け、火鉢に炭を足し、水を汲みに行きます。

磯吉は、煙草を吹かしながら「どう痛むんだ」と尋ねますが、
布団は丸い山になったまま、返事がありません。
磯吉は黙ってしまいました。

お源はこの後、シクシク泣き出しました。
でも、磯吉はバリバリと沢庵を噛んでいるので、全然聞こえません。

やがて、磯吉がごはんを食べ終わってまた煙草を吸います。
煙草と言っても、煙管(キセル)というパイプです。
燃えカスの灰を落とすために、火鉢にコンコンと煙管を当てます。

 

お源は、やっと布団から起き上がって泣き始めました。
磯吉は一応「どうしたんだ」と聞きますが、
別にそんなに驚いているというわけでもありません。

お源は、「もう本当にいやになった」と訴えます。
3年間、2人で一緒に暮らして来ましたが、
毎日毎日貧しくて、1日も余裕のあった日はない。
食べて生きているだけなら誰だってする、それじゃ情けない。
何故たった2人の家計なのに苦しいのか。
どうしてまともな家に住まないのか。

磯吉は、暫く黙って聞いていましたが、
「貧乏が好きな者はないよ」と答えます。
あんまり、答えになっていませんね。

お源は、続けます。
貧乏がイヤなら、何故、仕事を休んでばかりなのか。
磯吉は、お酒を飲んだりギャンブルをしたりしないんだから、
まともに仕事さえすれば家計が苦しいはずは無いのです。

磯吉は黙って火鉢の灰を見つめています。
お源は、またいっぱいいっぱいになって、布団に泣き崩れます。

磯吉は急に立ち上がり、玄関に降りると、
草履を履いて外に出て行ってしまいました。

逃げ出したくなったのか、考えがあるのか、
やっぱり磯吉は何を考えているのかよく解りません。

 

磯吉は、寒い寒い夜の道をテクテクと歩いて行き、
金次という友人の家に行きました。
10時まで金次と将棋をさして遊びます。
何をしているんでしょう?

磯吉は、帰り掛けに、1円貸してほしいと頼みました。
最初から、これが目的で来ていたのですね。
金次もお金を持っていなかったので、断られてしまいました。

帰り道に、炭屋の前を通りました。
大庭家もお源も、ここで炭を買っています。
郊外は早い時間に閉店しますから、周囲も静まりかえっていました。
磯吉は、お店の前を暫くうろうろしていましたが、
店先に置いてあった炭俵をひょいと肩に載せると、
たんぼ道に入って行ってしまいました。
炭を盗んでしまったのです。

 

磯吉は、大急ぎで家に帰ると、俵を床に置き、
お源のいる布団に潜り込みました。

お源は、どしり、という音が聞こえて目を覚ましました。
泣き疲れて眠っていたのです。
何の音か気にせず、また眠ってしまいました。

 

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