国木田独歩「竹の木戸」|明治の成人男性は1日に5合の米を食べる

稽古場日記
竹の木戸
稽古場日記

中馬(ちゅうまん)くんの初稽古です

のあ「じゃあ、今日はお源と磯吉が揃ってるから、シーン6からかな」

中馬「シーン6……とは?」

Caori「あれ? 中馬、なんかちょっと違うの持ってる」

中馬「俺、本文を自分オリジナルで印刷して来たんですよ」

のあ「え。偉い」

スズキ「あ、ごめん、今日、中馬の分の台本忘れて来た」

中馬「いやいや、俺はこれで大丈夫ですよ」

Caori「中馬、次、シーン6だよ」

中馬「それは何処ですか!」

Caori「中馬、9ページだよ」

中馬「だからページとかも全部違うんで、これ!」

夕方 磯吉が帰宅したシーン

其所へのっそり帰って来たのが亭主の磯吉である。お源は単直前借の金のことを訊いた。磯は黙って腹掛から財布を出してお源に渡した。お源は中を査めて
「たった二円」
「ああ」
「二円ばかし仕方が無いじゃアないか。どうせ前借するんだもの五円も借りて来れば可いのに」
「だって貸さなきゃ仕方がない」
「それゃそうだけど能く頼めば親方だって五円位貸してくれそうなものだ。これを御覧」
とお源は空虚の炭籠を見せて
「炭だってこれだろう。今夜お米を買ったら幾干も残りや仕ない。……」

磯は黙って煙草をふかしていたが、煙管をポンと強く打いて、膳を引寄せ手盛で飯を食い初めた。ただ白湯を打かけてザクザク流し込むのだが、それが如何にも美味そうであった。

お源は亭主のこの所為に気を呑れて黙って見ていたが山盛五六杯食って、未だ止めそうもないので呆れもし、可笑くもなり
「お前さんそんなにお腹が空いたの」
磯は更に一椀盛けながら
「俺は今日半食を食わないのだ」
「どうして」
「今日彼時から往ったら親方が厭な顔をしてこの多忙しい中を何で遅く来ると小言を言ったから、実はこれこれだって木戸の一件を話すと、そんな事は手前の勝手だって言やアがる、糞忌々しいからそれからグングン仕事に掛って二時過ぎになるとお茶飯が出たが、俺は見向も仕ないんだ。お女中が来て今日はお美味い海苔巻だから早やく来て食べろと言ったが当頭俺は往かないで仕事を仕続けてやったのだ。そんなこんなで前借のこと親方に言い出すのは全く厭だったけど、言わないじゃおられんから帰りがけに五円貸してくれろと言うと、へん仕事は怠けて前借か、俺も手前の図々しいのには敵わんよ、そらこれで可かろうって二円出して与こしたのだ。仕方が無いじゃアないか」
と磯は腹の空いた訳と二円外前借が出来なかった理由を一遍に話して了った。そして話し了ったころ漸と箸を置いた。

全体磯吉は無口の男で又た口の利きようも下手だがどうかすると啖火交りで今のように威勢の可い物の言い振をすることもある、お源にはこれが頗る嬉しかったのである。

「2円ばかし」とは?

Caori「ねぇ、この「二円ばかし仕方が無いじゃアないか」って、「2円だけじゃ、どうしようもないじゃん!」って意味だよね。なんか、すぐに頭の中に意味が入って来なくて、ここ、言い辛いな」

吉田「あぁ……そうだね、これは「たったの2円ばかりでは仕方が無い」ってことだね」

スズキ「「借りて来たのが2円だけだけど、まぁ仕方が無いね!」って意味に取りそうってこと?」

Caori「そうそう」

のあ「この「ばかし」は「僅かばかり」の「ばかり」だね

スズキ「無理に現代語の理屈で考るよりも、その前の「たった二円」を強調したら? そこで、ガックリして責めるようなニュアンス出したら?」

吉田「そうね。もう、ガッツリ磯吉に向かって言うとか」

Caori「そうしよう」

「炭籠」には読み方が2つある

スズキ「あの。ちょっと、中馬に訊きたいんだけど」

中馬「えっ? 俺っ?」

スズキ「その本文の印刷の方では、「炭籠」の振り仮名、どうなってる?

中馬「えーっと、「すみとり」ですね

スズキ「お清が、他のシーンで、「すみかご」って言ってる箇所があるんだけど

中馬「え、何処ですか?」

吉田「シーン9じゃない? お徳がお清に質問した所でしょ」

スズキ「そう。そこで「いいえ、あたしは炭籠の炭ほか使わないよ」って言う。それは「すみかご」なの」

Coari「中馬、シーン9だよ」

中馬「だから、これシーン番号とか書いてないんで」

Caori「18ページだよ」

中馬「あぁもう、またそうやって全然違うヤツ言ってくるから」

Caori「早く」

中馬「あ、ありました! 「で、御座いますから炭泥棒は誰だかもうわかってます!」」

スズキ「全然違うなぁ」

吉田「もっと前」

中馬「え!? あ! ありました! 「すみかご」です。こっちでは「すみかご」って書いてありますね

スズキ「ほぉ。じゃあ本文中「すみとり」と「すみかご」2種類の読み方が出てくるんだね。イイトコの家では「すみかご」って言うのかな。違いは判らないな」

のあ「「うっちゃる」に関しては3パターンぐらい漢字が出て来るしなぁ。その時の気分とかで違うのかな」

まるで落語の芝浜だ!

スズキ「お源、磯吉に対して優しいね

Caori「なんかね……今読んだのだと、ちょっと読み方が優しかったね」

スズキ「息子に話す母みたいだった」

吉田「「おまえさんそんなにお腹が空いたの〜」のとこかな

Caori「そう、そこね、急に母性が湧くんだよね。なんか……こんなに食べてるからさ(笑) もしかしたら、もっと育ちの悪さが滲み出るような……ぶっきらぼうな喋り方した方がいいのかな?」

吉田「上品に聞こえるかも

スズキ「結構、物解り良さそうに見える、今は。お源って、磯吉に対して、どんぐらい、うるさく言うのかな、お金のこと」

Caori「磯がごはんを食べ始める前は、もっと「よし、お金のことを言ってやるぞ!」っていうテンションでいいのかなぁ

吉田「そうね。炭籠見せ付けたりとかして「ホラ見ろ!」って、もっと強く言ってもいいんじゃない?

栗田「この、お源の感情が変わってく所が、ナレーション処理だからさ

吉田「ナレーション処理って、テレビじゃないんだから(笑)」

栗田「お源のセリフの間じゃなくて、ナレーションの間にお源の気分がほぐれるから」

のあ:だから、この「あきれもし、おかしくもあり」になってく所を声音で表現できるかが勝負だよ。……戸塚(ナレーション)の」

吉田「戸塚君の、ね(笑)」

のあ「お源は、ほころんだ後は母性が出てもいいと思うんだけど、前半、怒ってるところは、上から温かく包み込むような叱り方じゃなくて、もっと必死に食い下がる感じの怒り方をしてみたら? 「お願いだから」って」

栗田「いいヤンキーだなぁ」

スズキ「いいヤンキー?」

栗田「ヤンキー感がいいね。深夜24時過ぎ、上下グレーのジャージにサンダルで、ドン・キホ◯テにいるカップルみたいだね」

スズキ「偏見がすごいな」

吉田「怒り慣れてない感じとか、必死感だしていいかも。あんまり言いたくないけど、今言わなきゃダメっていう

栗田「「芝浜」じゃん

中馬「あぁ、「芝浜」ね!」

吉田「シバハマ?」

栗田「そういう落語があるんです」

Caori「磯吉は、このシーン通して、ずっと何も変わってないんだよな

栗田「変わらないよ。何にも変わらない」

吉田「そうそう、ただ、お源が勝手に怒ったりほころんだりしてるだけなんだだよ。お源は完全な独り相撲

磯吉って米を食べてるシーンばっかり

のあ「磯吉、ごはん食べ過ぎじゃない?」

Caori「こんだけ夢中になってごはん食べてたら母性湧くでしょ」

吉田「それは解る」

栗田「昔のさ、「ただいまお茶漬け中」みたいだよね、CMの。めっちゃお茶漬けをガツガツ食べてて、音立てて掻き込んで、電話が鳴って、「ただいまお茶漬け中」って紙を貼って食い続けるヤツ」

スズキ「白米だけで5〜6杯食べるんだもんね。おかずの魚とかは買わないのかな

吉田「沢庵食ってるけど。お源の鳴き声聞こえないぐらいバリバリ食べてるけど

のあ「(検索して)この時代って、成人男性はお米を3〜5合とか、食べてたらしいよ

栗田「え!? めっちゃ食うなぁ」

スズキ「3〜5合って……どのぐらいだ?」

のあ「炊飯器ひとつ分ぐらい」

スズキ「1日に1人で食べ過ぎじゃない?

のあ「この時代の人は物凄く距離を歩くから、ちゃんと消費するらしいよ。行商人とか、街道をテクテク歩いてたし。明治時代に来日した外国人とか、人力車とかカゴを運ぶ日本人が、休憩のおにぎりだけで馬ぐらい働き続けるから、すごいびっくりしたらしい」

スズキ「磯吉も仕事の現場まで歩いてたんじゃない?」

のあ「おかずはほとんどなくて。そういうのが発展したのは大正時代なんだって

スズキ「そういえば、お清と真蔵が話してるシーンで、「どうかすると、炭の代が米より高い」って言ってるじゃん。つまり、比較対象として挙がるぐらい、米が出費のメインってことだよね

のあ「どっちも1〜2円前後で、価格が行ったり来たりして追い抜いたりしたんだろうね」

1ヶ月にかかる米と炭の価格について

ちょっと、計算してみました。

まず、明治時代末、米は、1俵=4斗=60kg=400合と定まりました。

この物語の頃のお米の価格は、1俵4〜5円ぐらい。

1日に、磯吉が5合、農家の妻ではないお源が仮に3合ぐらい食べる人物だとしましょう(農家で重労働している女性はかなりよく食べたようですね)

1日、2人で8合食べます。

1ヶ月では、8合 × 30日 = 約240合食べることになります。

つまり、400合のうち240合(=1俵の60%)を食べます。

1ヶ月に掛かる費用は、4〜5円のうち60%、つまり、2円40銭〜3円ぐらい。

さて、この時、同時に、上等の木炭=1俵15kgと決まりました。

お徳の言葉を借りれば、「1俵85銭の佐倉があれだよ」

つまり、1俵=85銭です。

お源の言葉を借りれば、「これだけあれば、うちなら10日保つ」と。

では、30日では3俵使うとします。

1ヶ月に掛かる費用は、85銭 × 3俵ですから、2円55銭です。

米が2円40銭〜3円、炭が2円55銭、となるとやはり1ヶ月に掛かる値段は、両者とも拮抗しています。

が、この結論は、かなり雑な検証の結果です。

まず、この頃の女性がお米を何合食べるのか、正確なデータではありません。

もしもっと食べるなら、もっとお米代が必要です。

また、植木屋は、大庭家と違って上等な佐倉を「うちなら10日」と言っていますから、大庭家ともなると、もっと必要なのかもしれません。

ただ、炭と米がどちらも同じぐらい重要だったことはよく解ります。

どうしても叫んでしまう!

のあ「ねぇ!(笑) 磯吉は、なんで「仕方が無いじゃないか」の所で必ず叫ぶのさ?」

栗田「叫びたい」

吉田「叫びたい!?(笑)」

Coari「めっちゃ怖いんだけど、磯吉」

栗田「え、そんな?」

吉田「怖いわ!」

スズキ「ちょっと「プンッ」てしてるぐらいでしょ。磯吉は動じない男なんだよ!

のあ「叫んだら、めっちゃ動揺してることになるじゃん」

栗田「え〜。そもそも、磯吉の喋り方って、どんななの? このさぁ、「啖呵混じり」と「威勢がいい」と「口の利きぶりが下手」というのが同時に混在できるのはどういう状況なの?

吉田「確かにね(笑) 基本は端切れがいいのかな?」

スズキ「多分、普段は無口だけど。1度喋り出すと、江戸っ子っぽいのかな」

のあ「でもちょいちょい小さい「つ」が多いような感じかなぁ」

参考リンク

作品の視聴、他の記事へのリンクはこちらから↓

作品の、わかりやすいあらすじは、こちらから↓

作品に登場する古い言葉、難しい言葉の読み方や意味の解説はこちらから↓

作品本編はYouTubeでも配信中↓

国木田独歩 竹の木戸 (上) - 劇団のの 朗読・ラジオドラマ|Doppo Kunikida "The Bamboo Gate" 1/3 – Japanese Reading
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