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身体の状態は心の状態

本日のお昼ごはんは、モスバーガー。
梅田拓くんから、楽しいごはんの様子の写真が送られてきた! と思ったら、何ですか、これは。

タイトル「Google Earthに映り込んで、顔が歪んだ人」

そして、本日のお菓子は、やめられない止まらない、かっぱえびせんです。本当に、やめられないし、止まらないですね。この系統のお菓子って。

劇団ののが配信するYouTube、NonoTubeの準備中の我々。「タモリ俱楽部」さんで、高性能マイクで咀嚼音を録音する番組の影響を受け……かっぱえびせんを、スマホに向かってボリボリ食べてみたんですが、なるほど、いい音しますね。スマホですら、ボリボリ噛む音、呑み込む音、くちゃくちゃ音までしっかり入って来る。これは一体、高性能マイクだとどうなっちゃうんだ!?
しかし、かっぱえびせんを、じゃがりこのCM風に食べるという、失礼な真似をしてしまいました。反省します。

午後は、横光利一『春は馬車に乗って』の練習です。

『春は馬車に乗って』に登場する妻と夫。これは、横光自身と、その病気の妻がモデルになっています。
それにしてもこの作品……最初から既に妻が病気になっている。元気がないのです。2人の会話の空気は重くなりがち。人格も暗くなりがち!
その割に、結構ふざけた会話をするので、いまいち、役作りが難しいのです。
というわけで、まだ妻が病気ではなく、元気だった頃、新婚生活を始めた頃がモデルとなっている『慄へる薔薇(ふるえるばら)』を、練習しました。
元気だった頃の2人の会話が、2人のベース人格の役作りのヒントになりそうです。

キャストが順番に入れ替わりながら、妻と夫を演じます。
劇団ののでは、色んなキャストが思い思いに演じるのですが、その中に、ヒントやアイディアが転がっています。

チャラめの夫ヨシコと、心配性の妻ゆうと。

豪快な夫もちこと、チャーミングな妻ばね。

チャラめの夫ヨシコと、おきゃんな妻もちこ。

ちょっと軽快になった本家の夫うめちゃんと、初回より明るくなった妻ゆうと。

栗田ばねさんが、ナレーションを務めてくれましたが、何故かアニメ『ちびまる子ちゃん』のキートン山田さん風に読んでくれました。

「後半へ続く」って言いそうな勢いでした。

ここで、演出は時間の都合で後ろ髪引かれながら稽古を抜けたのですが。
電車に乗っていると、もちこさんから稽古のその後の様子の写真が……。

寝てる……。

え、どうしたどうした!?

劇団ののは、たった30分の不在中に宗教団体になったのかと思いました。大地の力を感じる、的な。

なんか……1人だけ立って、手、差し伸べてる、指導者っぽい人もいるし。

と思ったら、これには理由があるそうで!

病床に寝たきりの、妻の気持ちを、みんなで体験していたのだそうです。

これは、とても良かったようですよ!
さっきまで『慄へる薔薇』で元気に歩き回いていた、妻。『春は馬車に乗って』では、ほとんど横になった状態になる。
仰向けになっていると、天井しか見えず、大きな声も出しづらいようです。身体的な拘束は、精神的な拘束にも繋がります。やっぱり、視界や動ける範囲が狭まると、自分の身の回りだけ、夫だけが社会になり、失うことに不安を覚えて執着したり、自由な夫に対して嫉妬したり、他に発散するものがなくて夫に八つ当たりしたり、してしまうのではないか……本当にそんな気分を体験できたようです。

朗読の練習ですが、やはり身体表現とも密接に関わっている。そんなことを実感した日でした!

喧嘩?イチャイチャ?

本日のお菓子は、メンバーの独断と偏見により、治安の良いお菓子から、治安の悪いお菓子の順番に並んでおります。

 

 

ピザポテト → パイの実 → じゃがりこ → なんだか高級なチョコレートおかき

 

本日は、横光利一の『春は馬車に乗って』、夫の稽古をしました。

 

 

『慄へる薔薇』では、夫の役が1番難しいかもしれません。 このお話は、既に妻が病気になっているところから始まります。

 

“闘病もの”……と考えると、夫が献身的に妻のことを心配し、優しくし……と想像するのですが。この夫は違うのです。

 

妻の病状が悪くとも、結構ふざけた口調で話しかけたり、今風の言葉で言えば「煽り」とでも言うのでしょうか、神経を逆撫でするような、おちょくるようなことを言うからです。

 

 

現代で言うと、何でしょう? 「ツンデレ」というやつでしょうか。
素直になれない、わざと煽るようなことを言う、ヒロインが「もう、なによ〜」と言う、または、さらなる機転のきいた返しをする、みたいなやりとりになっています。
また、少なからず、こういうカップルのやりとりを「萌え」とするコンテンツも、ありますよね。っていう話をしました。あだち充漫画の主人公、『名探偵コナン』工藤新一、『花より男子』の道明寺司などは、典型的なパターンでしょうか。木村拓哉さんが演じるドラマの主人公も、そんなキャラクターが多いような気がします。

 

1つのコミュニケーションのジャンルとして、成立しているような感じです。

 

そういえば、芥川龍之介『秋』に登場する、芥川龍之介本人ぽい人物、俊吉と、ヒロイン信子、妻の照子のやりとりも、そんな感じでした。
この時代から、西洋風の皮肉を言い合うのが、何かスタンダードだったのでしょう。西洋の喜劇などの影響もあるのでしょうか?

 

 

一言で言えば、愛情表現が回りくどいのです!

 

 

しかし、『春は馬車に乗って』の中でそのペースをつかむのは、なかなか難しいのです。闘病中/看病中だと思うと、どうしても暗くなりがちなので、明るいセリフや煽るセリフが、しっくり来ないのです。

 

 

そこで、同じ横光利一の妻シリーズから、『慄へる薔薇』を読むことにしました。 『慄へる薔薇』では、まだ妻が病気になっていません。貧しい新婚生活を始めたばかりの利一と妻がモデルになったお話です。会話が中心となっています。

 

話しているうちに、相手の言葉尻を捉えてどんどん論点がずれて行ったり、察してほしいあまりに曖昧な表現を使ったり、期待通りの返事が返ってこずにやり合いを続けてしまったり。

 

夫役の梅田拓くんは「僕ねぇ、これ読んですごい解った気がする。すごい解った。こういう人たちね、いるよね」と、何度も深く頷いていました。

 

梅田くんが、ネット記事で読んだ、夫婦の話をしてくれました。キレやすい夫と、それを気にしていた妻が、そのことをきちんと指摘し、キレてしまった時に必ずそれについて理論的に深く話し合うようになったら、夫がキレなくなった、という話です。
「キレるような旦那さんだから、じゃあ離婚すれば? とかじゃなくて、他の部分ではちゃんと仲良くて、成立してる2人で。だから、この『慄へる薔薇』の会話も、文章だけで見ると、喧嘩してるのかな、って思ったりとか。なんでここでこんな嫌味を言うのかな、素直に言えばいいのに、なんて思ったりするんだけど。僕はどちらかというと、不満や不安とかは全部ちゃんと言葉にして徹底的に説明してほしい方だから。でも、この会話を、また違う人が聞くと、結局仲良しなんだろ、イチャイチャしてんじゃねぇよ、なんていう見方もあって。」

 

やはり、そういうものが1つ、“いじらしい” “キュンキュンする” 会話のスタイルとして確立してるんだな、と思いました。概ね、カップルの会話など、そんなものなのかもしれません。

 

 

 

2人の会話には、回りくどい愛情の美学が、凝縮されているようです。

 

メメント・モリ

 

横光利一『春は馬車に乗って』、前半稽古で、夫のキャラクターが掴めてきたところで、次の場面に行ってみました。

次の場面の方が、より夫の心の動きを説明していたので、もっと掴めるようになりました。

 

 

* * * * *

 

鶏肉屋から買って来た内臓系を並べて見せる、夫。

夫「この曲玉のようなのは鳩の腎臓だ。この光沢のある肝臓はこれはあひるの生胆だ。これはまるで、かみ切った一片の唇のようで、この小さな青い卵は、これは崑崙山(こんろんざん)の翡翠のようで」

煮える鍋を眺める妻。

夫「お前をここから見ていると、実に不思議な獣だね」
妻「まあ、獣だって、あたし、これでも奥さんよ」
夫「うむ、臓物を食べたがっている檻の中の奥さんだ。おまえは、いつの場合においても、どこか、ほのかに惨忍性をたたえている」
妻「それはあなたよ。あなたは理知的で、惨忍性をもっていて、いつでも私のそばから離れたがろうとばかり考えていらしって」
夫「それは、檻の中の理論である」

 

* * * * *

 

スズキ「臓物ってすごいよね。臓物食べるって一般的だったのかな。病気のときにさ。おかゆとかじゃなくてさ」

のあ「あぁ、こんな酒のつまみみたいなクセが強い物食べるの不思議だよね」

スズキ「そうそう。梅さんも言ってたけど」

やすな「焼き鳥屋でレバーとかハツとか食べる感覚なのかな」

のあ「貧血の時にレバー食べろって言われるもんね(笑) やっぱり栄養がつくのかもしれない」

 

 

スズキ「なんなの、この道化師みたいな」

もちこ「ね。臓物並べてえらい調子づくっていう」

のあ「しかもポエミー。踊り疲れた海のピエロ、って」

スズキ「ほんとだよね(笑)」

やすな「彼なりに明るくしようとして、ふざけてるっていうか芝居がかってるんでしょうけどね」

のあ「うん、こうでもしないとやってられないのかもしれないけど。わざと」

やすな「それがイライラさせるんですわー。いてますわー。こういう、笑わせようと思ってチョケてみるんだけど、それが余計腹立たしいっていう男。いやぁ、いてますわー」

スズキ「実感がこもってる(笑)」

 

 

やすな「でも、わたし分かりました」

スズキ「お」

やすな「この、獣って言葉が確実に妻を刺激しましたわ」

のあ「獣って言われたのが嫌だった?」

やすな「そうっすね。ただでさえ弱って、寝たきりになって、なんていうか……オシャレしたりとか、化粧して出かけたりとか、女の魅力、みたいなのが弱まってる自覚あるのに、獣って言われたら、それって妻として一番言われたくないじゃないですか。だからここでブチッと来ますね」

スズキ「あー、なるほどねー」

やすな「そもそも、チョケようとしてくる時点で、私と向き合ってくれてないじゃない!って思いますね。そこからしてイライラしてんのに、また獣って言って来ますからね。引き金ですね」

 

 

* * * * *

 

妻は、夫の額に影のように出るしわでさえも、敏感に見逃さない。その妻の鋭い感覚をごまかすために、いつも答えを用意しておかなければならない。
それでも妻の理論は急激に急所を突き通してくることがある。
夫も直接妻に逆襲することがあった。

夫「実際、俺はおまえのそばにすわっているのは、そりゃいやだ。肺病というものは、決して幸福なものではないからだ。そうではないか。俺はおまえから離れたとしても、この庭をぐるぐるまわっているだけだ。俺はいつでも、おまえの寝ている寝台から綱をつけられていて、その綱のえがく円周の中でまわっているより仕方がない。これは憐れな状態である以外の、何物でもないではないか」
妻「あなたは、あなたは、遊びたいからよ」

と妻はくやしそう。

夫「おまえは遊びたかないのかね」
妻「あなたは、他の女の方と遊びたいのよ」
夫「しかし、そういうことをいい出して、もし、そうだったらどうするんだ」

だいたいそこで妻が泣き出してしまう。

 

* * * * *

 

のあ「んー。やっぱ妻は女でありたいということなんだろうね」

妻「そうですそうです。女として見てほしいんです。だからここで急に他の女とか言い出すんですよ」

のあ「いきなり飛び出したワードだと思ったけど、脈絡はあったんだね。というか、これは常にやってるやりとりなんだろうな。常にこの緊張感が走ってるっていうか」

スズキ「口論になりがちなね」

もちこ「あ、わたし、ここで夫が別に優しくないと思っちゃったんだ。自分が病気で、夫に看病してもらってたとして、こんなこと言われたら、つらくない? 肺病は幸福じゃないとかさ。知っとるわ、って感じじゃない?」

 

 

やすな「つらいですね」

のあ「面倒見させてるのって申し訳ないもんね。インフルとかでさ、アクエリアス買って来てほしいとか、言い出しづらい時あるじゃん」

やすな「これはつらいっすね。好きでそばにいてほしいです。そこが妻であり女でありたいっていうとこですね。仕方なくそばにいてほしいわけじゃないっていうか。望んでそばにいてくれよ、って思いました」

のあ「これはね、夫として演じて読むと、なんでそんなこと言うの?って、妻にムッとする」

もちこ「え、そうなの?」

のあ「うん(笑)」

もちこ「あいつ女の敵だぞ」

のあ「そうかも(笑) いや。毎日看病してるとさ、まぁ多分ストレスも溜まるんだろうけど、看病する方も。そもそも妻が死ぬかもしれないことを、誰よりもすごく悲しんでるわけで。そんな時に、他の女と遊びたいからでしょ?とか言われるとさ。ありもしない浮気を疑われてるみたいな。遊んでないですけど!? そんな時間ないですけど!? むしろ、毎日おまえにしか会ってないしおまえのことしか考えてないんですけど!? っていう感じなんじゃないかな」

もちこ「ほ〜ん」

のあ「なんだよ(笑)」

もちこ「いや、まだ納得行かない。妻の方がつらい」

やすな「妻も分かってて攻撃してるんじゃないですかね。夫が1番言われたくないことだって知ってて、言ってるんじゃないですかね」

のあ「頭のいい人だよね、妻はすごく」

もちこ「メンヘラ彼女っぽいね」

スズキ「まぁ実際そうでしょ。自分から、どうせわたしのことなんか好きじゃないんでしょ? って言ったくせに、そうだったらどうする? って言われて、泣く、みたいな」

のあ「自分で地雷まいて踏ませてるもんね」

もちこ「メンヘラですね」

 

* * * * *

彼は、ハッとして、またそれを解きほぐす。

夫「なるほど、俺は、朝から晩まで、お前の枕元にいなければならないというのはいやなのだ。それで俺は、一刻も早く、おまえをよくしてやるために、こうしてぐるぐる同じ庭の中をまわっているのではないか。これには俺とて一通りのことじゃないさ」
妻「それはあなたのためだからよ。私のことを、ちょっともよく思ってして下さるんじゃないんだわ」

彼は、果して、自分自身のためだけにこの苦痛を噛み殺しているのだろうか、と考える。

夫「それはそうだ、俺はおまえのいうように、俺のために何事も忍耐しているのにちがいない。しかしだ、俺が俺のために忍耐しているということは、一体誰ゆえにこんなことをしていなければ、ならないんだ。俺はおまえさえいなければ、こんな馬鹿な動物園の真似はしていたくないんだ。そこをしているというのは、誰のためだ。おまえ以外の俺のためだとでもいうのか。馬鹿馬鹿しい」

 

* * * * *

 

もちこ「やっぱこんなに言わなくたっていいじゃんって思っちゃうんだけど。違う?」

のあ「いや実際言われる側になったらこれはひどいよ(笑)」

やすな「ひどいですね」

のあ「でも夫的には愛を叫んでるように感じるんだよなぁ」

もちこ「えー、そうなのかー」

のあ「うーん。うん。どうせあんた自身の自己満ていうか偽善でそばにいるんでしょ?みたいに言われて。ちがう、おまえのためだ、っていう」

もちこ「それが恩着せがましいと思っちゃった」

のあ「あぁそうか」

スズキ「難しいなぁ!(笑)」

 

 

のあ「読んでる側としては、俺はおまえのことを1番に、優先に、考えているよ! っていう。なんか結局、のろけを叫んでいるような気持ちになった」

もちこ「あぁなるほどね」

のあ「じゃあなんて言ってあげれば満足なんだよ!? っていう逆ギレの気持ちもあるけど」

スズキ「妻。なんて言われたかったの?」

やすな「あ、もうダメです、何言われても!」

 

 

スズキ「えー!(笑)」

やすな「いや、こうなったらもうどうしようもないっしょ。なんて言われたって腹立つんですよ。自分でももう何で怒ってるのか分かってなくて、そんなぐちゃぐちゃになってることは分かってて、でも怒りがおさまらない的な」

もちこ「分かるわー。わたしメンヘラだから分かるわー」

スズキ「そうなんだ」

もちこ「そうでしょ」

 

* * * * *

 

彼は食うためと、病人を養うためとに、別室で仕事をした。
すると、彼女はまた彼を攻め立てる。
別の日。

夫「あなたは、私のそばをどうしてそう離れたいんでしょう。今日はたった三度よりこの部屋へ来て下さらないんですもの。分っていてよ。あなたは、そういう人なんですもの」
夫「お前という奴は、俺がどうすればいいというんだ。俺は、おまえの病気をよくするために、薬と食物とを買わなければならないんだ。誰がじっとしていて金をくれる奴があるものか。おまえは俺に手品でも使えというんだね」
妻「だって、仕事なら、ここでも出来るでしょう」
夫「いや、ここでは出来ない。俺はほんの少しでも、おまえのことを忘れているときでなければ出来ないんだ」
妻「そりゃそうですわ。あなたは、二十四時間仕事のことより何も考えない人なんですもの、あたしなんか、どうだっていいんですわ」
夫「おまえの敵は俺の仕事だ。しかし、おまえの敵は、実は絶えずおまえを助けているんだよ」
妻「あたし、淋しいの」
夫「いずれ、誰だって淋しいにちがいない」
妻「あなたはいいわ。仕事があるんですもの。あたしは何もないんだわ」
夫「捜せばいいじゃないか」
妻「あたしは、あなた以外に捜せないんです。あたしは、じっと天井を見て寝てばかりいるんです」
夫「もう、そこらでやめてくれ。どちらも淋しいとしておこう。俺には締め切りがある。今日書き上げないと、向こうがどんなに困るかしれないんだ」
妻「どうせ、あなたはそうよ。あたしより、締め切りの方が大切なんですから」
夫「いや、締め切りということは、相手のいかなる事情をも退けるという張り札なんだ。俺はこの張り札を見て引き受けてしまった以上、自分の事情なんか考えてはいられない」
妻「そうよ、あなたはそれほど理知的なのよ。いつでもそうなの、あたし、そういう理知的な人は、大嫌い」
夫「おまえは俺の家の者である以上、他から来た張り札に対しては、俺と同じ責任を持たなければならないんだ」
妻「そんなもの、引き受けなければいいじゃありませんか」
夫「しかし、俺とおまえの生活はどうなるんだ」
妻「あたし、あなたがそんなに冷淡になるくらいなら、死んだ方がいいの」

彼は黙って庭へ飛び降りて深呼吸をした。
それから風呂敷を持って、その日の臓物を買いにこっそりと町の中へ出かけていった。

 

* * * * *

 

 

スズキ「喧嘩して飛び出してっても、最後は臓物買いに行くんだね、妻のために」

もちこ「いいやつじゃん、夫」

のあ「簡単だな」

もちこ「今わたし、ちょろかったね」

 

 

やすな「あ、このセリフですよ、これ。冷静で理知的な人は大嫌い!っていう」

のあ「ここが真骨頂だね、多分」

もちこ「メンヘラの?」

のあ「わたしがこんなに取り乱してぶつかってってるんだから、あなたも少しぐらいは感情ボロボロになって向かって来なさいよ!っていう」

やすな「そうっすね。なんかむかつきますよね、冷静ぶられると」

もちこ「腹立つね」

スズキ「同じステージに引き摺り下ろしたい的な」

やすな「そうですねー。向き合ってほしいっていう。寂しいっていうのは、かまってちゃん的な寂しさもあるかもしれないんですけど。でも、そもそも、もうちょっとで死んじゃうんでね。自分たちにはもう時間がないって分かってるから。残りの短い期間、ちょっとでも一緒にいたいですね。なんで隣の部屋で仕事してるんだろう?って」

のあ「あぁー、なるほどねー」

 

 

のあ「でも、引き摺り下ろされるっていうより、夫は夫で、妻のいるステージに上がれない感じがした。決して妻より一段上の冷静な立場から見てるとかじゃない気がする」

スズキ「というと?」

のあ「うーん。妻はやっぱ死の話をしたくて。だったら死んだ方がまし、とかなんとか言ってて。それが引き金で夫は外に飛び出しちゃうじゃん。庭に。で、深呼吸。結局、夫はそこが受け入れられないから。妻は口論のラストに必ず死を持って来るんだけど、それ突きつけられる度に、夫は逃げちゃうんだよね。妻は土俵の上で夫よりちゃんと死に向き合って、だから構えて待ってるんだけど。夫はそこにまだ登る気になれないっていうか。だから下にいるような気がする」

 

 

もちこ「ここで妻に対してむきになってやり合っちゃったらさ、仕事にならないよね。やっぱお金は稼がなきゃだし。集中しないと書けないし。夫も内心は精神ボロボロなんだろうけど。まぁ冷静ぶるしかできないよね」

のあ「うん。臓物並べてふざけたりとか、仕事に集中したりとかも、保身だと思うんだよね。できるだけ、妻が元気だった頃の日常生活っぽく振る舞うことで」

スズキ「心のバランス保ってる的な。冷静でなきゃいけない立場っていうのもかわいそうかもしれないね。妻は病気だから社会的立場としては圧倒的に弱いんだけど」

のあ「そうそう、物理的にもね。弱者っぽいんだけど、夫は、残される側? マジョリティ側が持つ弱みもあると思う。密室で妻の精神的なサンドバッグになってるから」

スズキ「言い返したらひどい人になっちゃうしね。介護士さんの問題とかでそういうのあるよね」

のあ「優しくしなきゃいけない、みたいなね。オー・ヘンリーの話でそういうのなかったっけ」

スズキ「なんだっけ」

のあ「あぁ、最後の一葉だ。病気の少女がいて。窓から見えるあの最後の1枚の葉っぱが落ちたら、わたし死ぬ、って言ってて。ある時ものすごい風雨の日があるんだけど。その時、近所のおじいさんが油絵かなんかでその葉っぱを壁に描くわけ。だから少女は葉っぱが落ちたって気づかないで元気になりましたとさっていう。病は気からっていう話なんだけど」

もちこ「は?」

のあ「あとさ、その風雨の中で絵を描いたから、それで体調崩しておじいさんが死んじゃうんだよ」

もちこ「えー!」

のあ「あ、あんまりオチは関係ないんだけど。なんか子どもの時に読んでて、のっけから、その少女が全然可愛げがないのが、意外だったのよ。看病してくれる女中さんに当たり散らしてて。いつも機嫌悪くて。あ、病気って、儚いだけじゃなくて、こんな悪態つくぐらいに追い込まれるよなー、って子ども心に思った。それを思い出した」

もちこ「なるでしょ、やっぱり。自暴自棄になりそう」

のあ「わたしも寝込んだ時、痛みだけですごいイライラしてるもんなー。健康で外で笑ってるやつらみんな羨ましいな、ってなる。親に当たり散らしたりするもんな。体調悪い時は余裕なくなるよ」

 

 

もちこ「で、それにしちゃー、夫って、わりと妻に言い返してる方だと思うけどね」

のあ「それがさ、夫からしたら、妻を対等に見たいっていう、最後の砦に感じたのよ」

もちこ「ほーん」

のあ「あ、納得してないな」

もちこ「うん、もう少しちょうだい」

のあ「十分、女として……あ、女としてって言っちゃいけないな、妻として?」

やすな「いや、女として見てほしいですよ」

のあ「うん、恋人として好きだった頃からの妻なんだと、夫も思いたがってると思うんだよね。死なない妻? 死ぬ予定がない妻、として」

スズキ「元気な頃と同じように?」

のあ「そうそう、このセリフは一見、俺は仕事に生きてるし、誰の稼ぎで食ってるんだ、って最低に聞こえそうな言葉に見えるんだけど」

もちこ「まぁそう思うよね」

のあ「最初は、そう思って。男は仕事、女は留守番みたいな。でも、どっちかっていうと、俺とおまえは夫婦で、2人の大事な家庭で、それを維持するために共同体なんだから、君もちゃんと一緒に自覚を持ってよ、って丁寧に説得してるように思う。というか読むとそういう気持ちになってくる。相手が病人であっても。厳しいことを言い続けるっていうのは、対等に見よう、妻として見よう、としている証拠で。妻の死に向き合って、諦めて『病人』として見たら、その時、優しくなっちゃうと思うから。他人行儀な優しい綺麗事しか言えなくなっちゃう」 

スズキ「はぁ喧嘩できてるだけマシと」

やすな「で、そこがずれてると」

のあ「あ、そうそう、妻からすれば、その夫の心意気は、いらんつっぱりだよね」

やすな「そうそう、でもわたし死ぬんで、っていう」

スズキ「身も蓋もねーな!(笑)」

やすな「いや死ぬんで、妻(笑) こっち来いや、って感じですね。わたしはもう覚悟はできてるんで、早くこっち来てほしい。その寂しさもある。死の話がしたいです」

スズキ「泥仕合するところまではまだ行けてないんだよね」

のあ「メメント・モリですなー」